カッスール公爵
盾を前方に構えて走るデュラハーンの次なる標的はジェットさんのようだ。
「はむ、プッ!」
「んなのありかよ!」
少しでも足を止めようと放つ飛び道具はことごとく盾の口の中に入れられ、噴き出すことで返されてしまう。ジェットさんはそれに悪態をつきながらも、噴き出された武器を躱している。
躱してすぐに体勢を立て直し紙飛行機を投げる。あらぬ方に投げられたそれはターゲットをリセットする効果を持つ【視線誘導】だろう。
「はぁ!?」
しかし悲しいかな、その紙飛行機につられるのは顔がついている盾と、それを持つ左腕のみでデュラハーンの身体はまっすぐにジェットさんの方へ向かう。
なすすべがないジェットさんはとにかく動き回って回避に全力を注ぐつもりのようだ。しかし再び、
「カアァァァァァッッッッッツ!!!」
という絶叫とともにジェットさんの動きが止められる。一発、二発と素早く斬り捨てられてジェットさんのHPが吹っ飛ぶ。
ジェットさんを始末した後デュラハーンはミカちゃんの方を向くと、例の前方宙返りからの剣の振り下ろしによる一撃でミカちゃんのHPを消した。
全滅した直後視界が真っ暗になり気づいたら玉座の前? のような場所に立っていた。
玉座に座るのは小太りのおっさんで、その横にはデュラハーンとオルデさんがおっさんを挟むようにして立っていた。
「さて、全員移ったようだの」
と小太りのおっさんは言うと、ひとつ咳払いをして
「吾輩はカッスール公爵である、此度の戦いよく見させてもらった、実に面白い戦いの数々に吾輩も汝らを呼んだ甲斐があったと満足しておる」
カッスール公爵は何度も頷くようにしながら話し始める。
「さて…此度はこちらの挑戦状を受けて来てもらったのでな、約束通り褒美を用意してある、ではオルデ、例の物を」
「はい、かしこまりました」
カッスール公爵が顎で指図するとオルデさんは一度深く礼をした後係りの者を呼びつける。
「褒美って何がもらえるんでしょうね!」
ミカちゃんは少しわくわくした様子でその褒美を待っている。
しばらくするといろんなものが置いてある車輪付きの台が運ばれてきた。
「本日の褒美はこれの中よりお選びください、ささ、ぜひ前に来てよくご覧くださいませ」
とオルデさんに促されるまま全員でその台に近づいていく。遠くからも見えていたけれどこれは…。
「俺達が戦ったジョーカーの仮面もあるんだな…」
「はい、もちろんにございます、しかし今回はこのうちのどれか一つ…仮面に関しましては他の方と被らないようにお願いいたします」
ジェットさんの呟きにオルデさんが説明を添える。ジョーカーの仮面はほしいという人がいるともらえないようだ…というかいる人なんているのかな。
ラインナップは100%の蘇生薬の5個セット、武器の素材に、あとはカッスール公国の兵士の鎧なんかがあって…正直微妙と言わざるを得ない。
【仮面】
装備カテゴリー:仮面
DEF+20
REG+20
効果:精神系状態異常無効
連投
キリング・マスローがつけている仮面。超人的なスピードで物を投げられる。
他のジョーカーの仮面もそれぞれの武器を使う人にとって有用というような物ばかりで、違う武器を使う人では取りづらい。そういう意味ではシンセさんやミカちゃん、あとは私かジェットさんにとっては仮面を選ぶ意味はない。
私は無難に蘇生薬を選び、他のメンバーもそれぞれ選び終わったようだ。
「うむ、選んだようだな」
私達が選び終わるのを確認すると、台は再び部屋から出される。
「それでは、今度は拙者の番であるな」
台が部屋から出て行ったのを確認して、カッスール公爵の横に立っていたデュラハーンが前に出てくる。
「ナギ殿、前へ」
「え? あ、はい」
デュラハーンに言われるままに私はデュラハーンの前に立つ。デュラハーンは何やら手を私に向けてかざしている。すると、胸のあたりが輝き【猛者の証】が胸から出てくる。
「先ほどの戦いにて、汝を勇者と認めよう」
デュラハーンが一言つぶやくと【猛者の証】の周りに小さいキラキラが飛び回り、【猛者の証】の輝きが一層増す。
そしてそのまま私の胸に収まっていく。すぐにインベントリを開いて何が起こったのか確認すると、【猛者の証】ではなくなっていた。
【勇者の証】
特殊アイテム
勇者と認められた者の証。
「これで【勇者の力】を使えるはずだ」
「勇者の力?」
突如デュラハーンから出た言葉をおうむ返ししてしまう。
「…ゴブリンから受け取っていると聞いているが……」
デュラハーンの顔がはて? と言うような表情になる。念のために言うと先ほどからのデュラハーンの発言時にはこの盾についている顔がしゃべっている。
ゴブリンと言われてよくよく思い出してみる。
「あ! 確かに受け取りました! まだ使えなくて困ってたんでした」
「……絶対困ってはないと思うが、これからそれを使うこともできる、活用してみるといい」
デュラハーンの盾の視線が私を見てない。
そのままデュラハーンはカッスール公爵の隣に戻ってしまう。
「では次はナギ殿の連れの番じゃな、オルデ」
「かしこまりました…ではお連れの皆様、これを」
カッスール公爵に言われ、オルデさんは私以外のみんなに何やら紙を渡している。
「これは【猛者の証】をお持ちの片のお連れ様としてご来館いただいた証明書となります、デュラハーン様にお認めになられましたので、ジョーカーに勝利なさった方は一人、敗北された方は三人のジョーカーに勝てば【猛者の証】をお渡しするという胸の書状でもございます」
全員に紙を渡した後、オルデさんは説明を始める。本来であれば条件を満たした場合のみ来館することが許され、全員のジョーカーに勝って初めて【猛者の証】が渡されるらしい。だけど今回のように【猛者の証】を持ち、挑戦状を受けた人の仲間として来館し、見事デュラハーンに認められた場合にはこのような優遇を受けられるようだ。
「まぁ分かったけど…俺達ぼこぼこにされたんだけど」
オルデさんの説明を受けてジェットさんはデュラハーンに認められたことが腑に落ちないようで気まずそうだ。
「ヌハハ! 拙者はいっぱしの勇者であるぞ? そう簡単に渡り合われても困るわ、あれだけやれれば駆け出し勇者としては十分だ」
デュラハーンの盾が得意げに笑う。なんとなくムカつく笑顔だ。
つまるところ激甘採点だそうだ。まぁでも認められたわけだから喜んでおこう。
「あと、デュラハーン様と戦うことができるのは【猛者の証】を持っている方のみとなりますので、【猛者の証】取得後も何度かご来館いただくことになると思いますので、今後ともよろしくお願いします」
とデュラハーンの採点基準の裏話が終わった後オルデさんが抜けがないように付け加える。
「すぐにデュラハーンをぶっ飛ばすことはできないのか…」
「ヌハハ!」
ジェットさんが悔しそうに言うとデュラハーンが高らかに笑う。しかも煽るかのように盾を高らかに掲げながら。…この場合盾を掲げてるというべきなのか顔を掲げているというべきなのかよく分からないけど。
「ふむ、どちらにせよ、面白い戦いを見せてくれるものが何度も来てくれるのはうれしいことだ、ではオルデ、客人を外までお送りしなさい」
「はい、かしこまりました……では皆様ついて来てください」
オルデさんについていくことしばらく、どういう繋がりなのかもよく分からないうちに最初に入ってきたジョーカーのつけてる仮面が描かれた扉のある玄関まで戻ってきていた。
「それでは、またのお越しを」
こうしてカッスール公爵の館を出た。その後それぞれ分かれて、私はそのままログアウトした。
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NAME:ナギ
【ブーメラン初心者】Lv21【STR増加】Lv43【ATK上昇】Lv37【SPD増加】Lv41【言語学】Lv41【遠目】L15【体術】Lv33【二刀流】Lv49【幸運】Lv50【スーパーアイドル】Lv8
控え
【水泳】Lv28
SP26
称号 ゴブリン族のアイドル 恋に惑わされる者 ホマレの惚れ人 ファルカナンドの救世主




