控室
とりあえずジェットさんには、今後私を思い出す際にはもう少し締りの顔でお願いします、とだけ言っておいた。
「ナギさんのこと考えていたなんて…愛されてますね! しかもナギさんは押し倒す側だなんて、今度参考にしたいのでアドバイスお願いします!」
とか言いながらミカちゃんが寄ってくるのでスルー。味方なのか敵なのかわからない相手だ。迂闊なことを言うと墓穴を掘ってしまいそうだ。
「あ、ゆうくん終わったみたいだよ」
「え!? 本当ですか!? わぁ! 勝ってますよ!」
よし、これで面倒な相手が一人減った…はずだ。カップルが揃って余計に厄介なことにならないですよね? 頼みますよ?
ゆうくんの戦闘が終わったので画面は均等に二分割されてシンセさんとクゥちゃんの戦いっぷりが映し出される。クゥちゃんは思ったより苦戦している。シンセさんの方が相手が強そうなのになんだかんだ優勢なまま戦っている印象だ。
「てか思ってたんだけどあれ…タイガー○スクだよね?」
いつの間にか私の背後に来ていたジェットさんがささやく。さっきまでミカちゃんの近くにいたはずなのに、と思ってミカちゃんの方を見ると帰還したゆうくんとお話していた。仲がいいことで。
「やっぱりジェットさんもそう思います?」
「ナギちゃんと考えがシンクロしてるなんて、俺達相性ピッタリだね!」
「…さすがにあれは誰でも同じ感想を抱くと思いますけど」
と半眼で睨むもジェットさんはこっちを見ていなかった。と思っていたら視線がこちらを向いて微かに表情を緩ませ仕方ないなと言う感じで私の頬を人差し指で突く。
「何やってるんですか!」
「それはどういう意味かな?」
「指ですよ指!」
開き直るジェットさんに私は頬を抑えながら訴える。
「それは俺の指に聞いてくれ、ぐふぅ!」
とりあえずお腹のあたりを殴っておいた。殴った後ふとゆうくんがすぐそこに立っていることに気づいた。
「何か?」
「え? あ、ああ勝ちましたよ、て報告しようと思ってたら仲睦まじくじゃれてたんで話しかけづらくて…」
私の質問に一瞬たじろいでゆうくんが答える。何故このタイミングなのだろうか、と思うところはあるけどそれはどうでもいいことだ。
「ナギちゃん顔が怖いよ、ほら、スマーイル」
とジェットさんがほほ笑む。私はそっぽを向いて画面に目を移す。クゥちゃんでもシンセさんでも…よくないや、クゥちゃん早く来て助けてー。
けれど私の願いとは裏腹にクゥちゃんは段々状況が悪くなりつつある。一対一の戦いの為溜めが必要なアーツが使えず、手数の多い攻撃も普段よりは少ない。タイガー○スクはクゥちゃんの一撃で隙ができるほどダメージを受けないみたいで手詰まりな状況になっている。
それが分かっているのかいないのか、タイガー○スクは全く変わらないリズムで攻撃を繰り返す。主に飛び上がって地面に向かって殴りかかるようにして攻撃するスタイルだ。クゥちゃんはそれを見切って躱しているわけだけど、たまに衝撃波が発生しているので、ただの攻撃だけでなく範囲技も使っているようだ。
それがまたクゥちゃんの攻撃への一歩目を遅らせているので、一発も攻撃を当ててないのにタイガー○スクが主導権を握っているようにも見える。
シンセさんの方に目を移すと、どうやら狙い通りにうまくいったのか不敵な笑みを浮かべてハープを奏でている。相手のジョーカーも苦虫をかみつぶすような表情で襲い掛かってくるシンセさんのペットたちの対応に追われている。
「調教師の方はこのままいけそうだな、ただ虎ちゃんの方はどうだろうか…タイガー○スクも余裕がありそうで案外そうでもない可能性も考えられるけど」
「ですよね、いくらなんでもあれだけ攻撃を受けて余裕過ぎます」
ジェットさんの分析にゆうくんも同意している。二人ともクゥちゃんの戦いになんとなく違和感を持っているようだ。
「クゥさんはこのまま貫いて戦えば乗り切れそうですけど…」
「変にこの状況を打破しようと無茶すると危ないかもな」
「クゥさん、がんばれー!」
ゆうくんとジェットさんは真剣な表情でクゥちゃんの戦いを見守り、ミカちゃんは届かないだろうけど声援を送っている。私もクゥちゃんが勝つように心の中で祈っておく。
みんながクゥちゃんの戦いを食い入るように見つめる中ひっそりとシンセさんが勝利を飾る。今日はシンセさんの扱いが雑で申し訳ない。
しかしクゥちゃんの方の戦いにも変化が訪れる。高性能なAIを持っているにもかかわらず単調な攻撃しか行わなかったタイガー○スクがスタイルを変える。できるだけ隙を小さく手数での勝負に持ち込んできた。
クゥちゃんも常に単調だった相手を訝しんでいたようで、ここにきてスタイルを変えたことで確信を持ったらしい。二人の戦いはついにノーガードでの殴り合いのようになってきた。スピードではクゥちゃんの方が勝り、一撃のパワーならタイガー○スクの方が上だ。
クゥちゃんは細かいステップで相手の拳が直撃しないようにしながら、自身は的確に攻撃を当てていく。
このまま押し切れるか、と思った時にタイガー○スクは唐突に足払いを行いクゥちゃんの動きをわずかに止める。そこからの連撃でクゥちゃんは後手に回り始めてついに腕でガードしているとはいえタイガー○スクのラリアットを受けて吹き飛ばされる。
壁に当たって地面に膝をついたクゥちゃんにタイガー○スクは容赦なく飛びかかる。空中で両手を組み頭上に振り上げ、着地とほぼ同時にそれを振り下ろす。
クゥちゃんはギリギリのところでその手で作られたハンマーを躱すもその衝撃波に襲われてまた吹き飛ばされる。HPはほぼなく、一瞬負けたのかと思った。
「あれ、みなさん揃ってる…あ、まだクゥちゃんは戦ってるのね」
シンセさんが部屋に送られてきた。
「お疲れ」
「どうも、ナギちゃんはどうだったの?」
「勝ったよ」
颯爽と私の足元に擦り寄ってきた虎の「クゥちゃん」の頭を撫でながらシンセさんに労いの言葉をかける。ふと見るとシンセさんの目がハンターの目になっていたので見なかったことにして人間のクゥちゃんが戦っている映像の方へ目を移す。ジェットさん、勝ち誇った表情でシンセさんを煽らない!
視線を外しているうちに回復していたクゥちゃんはまた接近戦に持ち込まれている。もはや捨て身で突っ込んでくるタイガー○スクにあのクゥちゃんも少したじろいでいるように見える。
「これはどちらが獣になれるか次第ねぇ」
シンセさんののんきな口調がこの場にもはびこる緊張感をいくらか和らげてくれる。
埒が明かないと考えたのか、クゥちゃんも回避を投げ捨てて前へ踏み込み猛攻を仕掛ける。
「お! いけ!」
「多分大丈夫でしょう!」
ジェットさんとゆうくんの応援にも熱が入る。
気付けばタイガー○スクの腕は止まり一方的に殴られるだけになっていた。クゥちゃんが手を止めるとタイガー○スクは後ろによろよろと足を動かして、仰向けに大の字になって倒れた。
すると画面に1の文字が浮かぶ。
次に2の文字が浮かぶ。…こんな演出にも凝ってるの!?
3の文字が出た後一泊を置いてタイガー○スクは消え、クゥちゃんが両腕を突き上げる。音声が聞こえないのでわからないけど多分ゴングが鳴ったに違いない。
しばらくしてクゥちゃんが部屋に送られてくる。
「勝ったよ! …てみんなもう終わってたんだ」
と第一声ははにかみながらだった。
さっきまであってモニターがいつの間にか消え去り、モニターがあったその壁には転移ポータルのような文様が描かれていた。
休憩を取った後、その特別なとある方のところに繋がっていると思われるその文様に歩み出す。
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NAME:ナギ
【ブーメラン初心者】Lv21【STR増加】Lv43【ATK上昇】Lv37【SPD増加】Lv41【言語学】Lv41【遠目】L15【体術】Lv33【二刀流】Lv49【幸運】Lv50【スーパーアイドル】Lv8
控え
【水泳】Lv28
SP26
称号 ゴブリン族のアイドル 恋に惑わされる者 ホマレの惚れ人 ファルカナンドの救世主




