キリング・マスロー
いつ投げられたか、はまだ見極めることができないけど距離を取ることでギリギリで回避することはできるようになった。視力系のスキルではどうやら動体視力もアップするらしい。
それもあって二本のバラを抜いた後、ちびちびとポーションで回復し、体勢を立て直す。
「回復されてしまったか…」
キリング・マスローは一言つぶやきながらもダガーを投げて牽制してくる。回避できるようになったとはいえ距離がありすぎて攻撃し辛いことに変わりはなく、このままではジリ貧だ。
ファルカナンド・エンブレムを使うことも考えたけどあれは発動中動きが制限されてしまうので、目にも見えぬスピードでダガーを投げてくる相手にエンブレムに当たらない角度から攻撃されると意味が無い。使うためには動きづらい状況を作らないとダメだろう。
それ以前にまずは、一歩も動いていないキリング・マスローを動かすところから始めなければ。
できるだけ小さい動きでダガーを投げる。一瞬で向こうが投げたダガーに弾かれてしまうけどその一瞬で一歩距離を詰める。距離を詰めながら二刀流も駆使して一気に数本のダガーを投げる。
そうするとキリング・マスローも複数を連続して投げてきて、その分だけ動きが鈍り、いつ投げたかが分かるようになる。
その間にまた一歩一歩と距離を詰めていく。
「なるほど」
向こうもこちらの思惑に気づいたようだけど、もう十分な距離まで来た。あとはそれだけの隙を作れば――。
右手、左手、とダガーを投げて、左手でダガーを投げているうちに右手を唇に当てる。そして私がダガーが弾かれる頃その手を相手にかざすことに成功する。かなり我流になった「投げキッス」で発動する。
――誘惑。
キュイイイン
「え? ぐぅ!」
誘惑を発動した瞬間、衝撃波が波打つようなエフェクトがキリング・マスローの仮面を中心に発生した。それに戸惑う隙にダガーが一本突き刺さった。
「なん、で?」
ホレイーズイベントの時もペルケステスや、トルーマスといった相手には効かなかったけど本来であれば称号の『恋に惑わされし者』の効果で耐性を無効化できるはずなのに。説明文間違ってるんじゃないだろうか。
「わたくしの仮面は精神系の状態異常を防いでくれる」
「称号もあるのに…」
「称号? …ジョーカーの仮面は称号による効力を無効化できる」
とキリング・マスローは教えてくれる。『恋に惑わされし者』の効果まで仮面によって無効化されたらしい。これを知っててこの組み合わせにしたのなら、公爵様は中々人が悪い…いや、趣がある方だなぁ。
とか軽く現実逃避しながら次の作戦を考えるべく距離を取る。誘惑が効かないということは【スーパーアイドル】によるアーツは意味が無いことになる。スキル枠一つ潰してしまうことになっている。となると攻撃手段は投擲か、体術による超接近戦ぐらいか。
しかし投擲の場合ホムラのおさがりを使おうにも両手がふさがり隙が大きくなるので打開策として使う方法は取りづらい。ブーメランも弾かれたら終わりだし…。結構ピンチかも。
とりあえず先ほどの方法でもう一度距離を詰めようと思った時だった。
――動いた。
キリング・マスローが動き始めた。しかも素早い。まるで瞬間移動するかのように部屋を上から見た時に上部の中央にいたのが上部の右端近くになっていた。私の正面から右斜め前の位置だ。
その意味がよく分からなかったけれど労せずして数歩分近づけたとキリング・マスローの方へダガーを投げて一歩踏み出す。
キリング・マスローは右手の甲を見せるように左頬の横に上げる。その手には何かがある気がしたけど特に気にせず、二・三歩踏み込んだ。
キリング・マスローが腕を振り払うと何かが飛び出し、私の投げたダガーが一瞬で全部弾かれる。そして再び同様の動作で何かが放たれる。ダガー一本の時と違いほんのわずかに見ることができるので躱せると思った。
数枚横並びのようにして投げられたカードだった。
「う、うぇぐぅ!」
おへその高さぐらいに横並びで投げられたためどう回避するか躊躇した。それが命取りとなりキリング・マスローが投げた全5枚のカードのうち3枚が突き刺さり、右端と左端の2枚は私の身体を切って通過していった。
HPの7割が消える。距離を取って回復しなければ、と顔を上げる。するとすぐ目の前にキリング・マスローの姿が。
――目の前に!!
……目の前に?
そう思った瞬間に体が勝手に動いていた。直前まで距離を取るために動こうとしていた体はむしろ体を密着させるほど近くに距離を詰めてキリング・マスローの右手を奪い、常に揃っている両脚を払い体勢を崩させるとそのまま右手を担いで、きっと動作のアシストされているんだろうなぁ、と妙にスムーズに動く体を冷静に分析しながら、キリング・マスローを地面に投げつける。
仰向けになったキリング・マスローが起き上がる前に「リーステスの剣」を手に持ちキリング・マスローの真上にジャンプし、右拳を地面に向けて突出す。
「ファルカナンド・エンブレム」
素早くファルカナンド・エンブレムを発動すると、拳の先に現れた実体化された紋章の上に乗り、そのまま下に押し出す。
「グォォォォォオオオ!」
地面と紋章に挟まれて押しつぶされるキリング・マスローが今日初めてその寡黙な様子を変えて絶叫する。全ての攻撃の起点である右腕は未だ彼の頭上にあり、満足に動かすこともできず反撃もできないだろう。
スケルトン・アーサーみたいに口からビームを出すとか、この状況からでも反撃できる技を持っていたとかだと危ないけど、そうでなければ私が消さない限りこの紋章は常に存在し続ける。
このまま、ただこのまま終わってほしい、そう思いながらキリング・マスローを押しつぶしていく。
「オオオオオオ!!」
まさに脱出不可能な状態なまま、どれくらい時間が経っただろうか。私が消したくなくてもリーステスの剣の制限時間が過ぎればすぐにMPが枯渇して維持できなくなることが頭をよぎって不安になるけど、常にダメージを受け続ける状態で10分間耐えられるはずがない、とその不安を振り切る。
その不安を振り切ってしばらくしてキリング・マスローの身体が輝き始めて、そして仮面だけ残して消える。
「終わったぁ…」
ファルカナンド・エンブレムを消し、その場に膝をつけてへたりこむ。
「これって拾えるのかな?」
と未だ残っているキリング・マスローの仮面に手を伸ばすとパキッと割れて消えてしまった。するとフッとした浮遊感が体を襲い、それが消えると学校の教室よりやや狭いくらいの広さの部屋に降り立つ。
「あ、ナギさんお疲れ様です、すごいです! 勝つなんて!」
そこにはミカちゃんがいた。
「私なんかすぐ負けてしまったんですよ…無駄に難易度高くないですか?」
とミカちゃんは少し残念そうな表情を作って落ち込んで見せる。まぁ、私が勝ったのも運が良かっただけなんだけど、どう近づこうか悩んでいたら向こうが近づいてきてくれたわけだし。
「…ってそう言えば何で私が勝ったって知ってるの?」
普通に会話していたけどどうしてミカちゃんは私が勝ったって知ってるんだろうか。
「ほら、あそこですよ」
とミカちゃんが指差した先には一つのモニターが壁に取り付けてあった。そのモニターは大きな画面にはゆうくんが戦っている姿があり、その横に小さい画面がバラエティのワイプのように右横に三つ並んでいる。
画面の左上には勝敗数が記載されていて、勝1、敗1、と書かれている。
ゆうくんが戦っているのは海底遺跡で会った武士風の人だった。ジェットさんはデス・サントラスでクゥちゃんはタイガー○スク、シンセさんは槍使いで、ジョーカーにしては珍しく仮面をつけてなかった。
「あっ」
モニターはタッチパネルのようで画面に触ると反応を示す。ゆうくんが映っているところを触ったせいかゆうくんの映っている画面が小さくなり、その分他の人の画面が大きくなって均等な大きさで四つの画面が映し出される。
そうなってすぐにミカちゃんが声を上げたところを見ると、さっきまでの画面は彼女によって恋人の勇姿が最もよく見れる形態にされていたと思われる。
嫌な視線を感じたのでさっきの形態に画面を戻して、ミカちゃんの表情を見ずに済むように彼女の斜め後ろに立ってみんなの戦いを見守る。
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NAME:ナギ
【ブーメラン初心者】Lv21【STR増加】Lv43【ATK上昇】Lv37【SPD増加】Lv41【言語学】Lv41【遠目】L15【体術】Lv33【二刀流】Lv49【幸運】Lv50【スーパーアイドル】Lv8
控え
【水泳】Lv28
SP26
称号 ゴブリン族のアイドル 恋に惑わされる者 ホマレの惚れ人 ファルカナンドの救世主




