カッスール公国
頃合いがよかったのかエイローを出てすぐに夜が明けて朝が来た。シンセさんが使役している火の玉のモンスターも周囲を照らす役目を終えてひっこめられてしまった。
カッスール公国の関所はアイテムが必要だったりということもなくすんなりと通してもらえた。関所に立っている兵士がゴブリン解放のときの兵士そのものだったので少し驚いた。
カッスール公国領。そこに広がるのは荒野。空は昼にもかかわらず暗い紫色で、時折雷が鳴り稲光が雲の中を走っている。
このエリアは特別でモンスターがほとんど出現しない。その代りそこら中にいるのは紫色や黒色の甲冑を付けたカッスール公国の兵士と思われるNPCだけ。一応敵認定されるみたいで油断していると襲い掛かってくる。
NPCのためドロップはなく、スキルのレベル上げもほとんどできない、といわゆる「おいしくない」場所でもある。
破壊のダンジョンがあったころは破壊無効の装備が解放される度にこの地を訪れる人が多かったみたいだけど、それ以降はあんまり来る人もおらず、いたとしてもせいぜい転移ポータルの登録のために一度訪れる。と言う感じだそうだ。
「決闘ってどんな感じになるんですかね」
ジェットさんとシンセさんによる視線の戦いが終わったころ二人だけの世界から帰ってきたゆうくんが話を振る。
「ジョーカー? って言ってましたっけ?」
「うん、そうだね」
ミカちゃんに尋ねられたので答える。
「精鋭部隊ってことと、あと人数制限がないってことは集団戦闘になるんですかね?」
ゆうくんが言葉にしながら考えを巡らせる。
「でもそれだと数の暴力で押せるから、違う気もするけど」
ゆうくんの推測にクゥちゃんは疑問符を投げかける。ちなみにシンセさんとジェットさんはどちらが主導権を握ろうか、と何かを言うタイミングを見計らっている気がする。折角落ち着いたと思ったのに。
「そういえば以前ジョーカーに会いましたよね? 武士みたいな恰好の…確か海底遺跡でしたっけ、あ、でもまだカッスール公国は実装されてませんでしたよね?」
「実装されてなくてもNPCによっては各地に移動できる権限が与えられてるらしいから、変な話ではないと思うよ」
ミカちゃんが迷宮に入ってしまいそうだったので助け舟を出す。私は「ジョーカー」といえばゴブリン王国開放の時に戦ったデス・サントラスが頭に浮かぶけど、そういえばジョーカーを名乗る鬼の面を付けた人がいたな。名前…忘れたけど。
NPCの移動については私だけが知ってる話というわけじゃない。ブルジョールで舞踏会を開いていらっしゃる貴族の中にもまだ実装されていない、ビギ周辺の町が属している――最近公表された――王国の王都から来ている貴族もいるらしいし。
「武士の恰好? 俺が知ってるジョーカーってやつとは違う気がするけど…その様子だとナギちゃんは知ってるみたいだね」
ジェットさんとしてはジョーカーに関する話は私と二人だけ――実際にはゴブリンもいたんだけど――の秘密とかそんな風に思っていたのかもしれない。でも一応デス・サントラスのことはジェットさん以外知らないんだけどね。
「へぇ、2号機さんはボク達と別の人を知ってるんだ」
「面と向かって2号機っていうのやめてほしいんだけど」
クゥちゃんはやはりジェットさんに冷たい。「ベリーワーカーズ」の二人から結構好き放題されてるっぽいクゥちゃんだけどギルドそのものの方との付き合いはそんなにないらしい。
「はぁ…私入れない~」
シンセさんが落ち込む。
そんな話をしながら何人か襲い掛かってきた連中を倒してカッスール公国の首都に着いた。
カッスール公国領はこの首都の「キャッスル」ともう一つの町しかなく、ルージュナから北上した場合もエイローから来た場合もこの「キャッスル」の方が近くにあり、もう一つの町の方は情報はほとんどないみたいだ。
キャッスルへの入り口は南にある門一つだけのようだ。道中襲い掛かってきた兵士たちと同じ所属とは思えないほど普通に門を開けて中に入れてくれた。
キャッスルの街並みは空の紫の影響を受けて全体的に紫色の暗い雰囲気を纏っている。地面の石畳もよく見ればきれいに澄んだ青色をしているけど、パッと見は紫の不気味な色を放っている。
「まずは転移ポータルを登録しとこうか」
とジェットさんの発言にだれも逆らうことなく、転移ポータルを探す。
近くを徘徊している警備隊と思われる兵士に道を聞き、こちらも道中襲い掛かってきた連中と同じ所属とは思えないほど丁寧に教えてくれた通りに行くと、転移ポータルがあった。ホント外に出ている連中は何なのだろうか。
ちょっと寄り道で武器屋とか防具屋に寄ってみたりもした。結局破壊のダンジョンの5人PTのボスを倒した後に解放されたのは破壊無効の鎧や兜といって金属製の防具だった。最も需要が高そうな装備が最も難易度が高いらしいボスを倒さないと解放されないとかなかなか運営も汚い。
運営の汚さをみんなで確認した後、公爵の館へと向かう。館はキャッスルの北側に広く敷地を取っていて、周りを塀で囲っている。そんなに高さはないけれど、館の裏側だけ町の防護壁をそのまま塀に利用しているのでそこだけ高くなっている。
門は館の前だけにしか存在せずそこには兵士が立っている。館、とは言うけれど規模の小さいお城といわれても違和感がない立派なお屋敷だった。
わざわざ挑戦状を送りつけてきたわけだからいきなり襲いかかられることもないだろう、と特に警戒せずに門番をしている兵士に話しかける。
「あの、挑戦状を受けて来たんですけど」
と言うとみんなの空気が少しおかしくなった。確かに挑戦状受けて下手に出ているのもおかしい気はするけど、仕方ないじゃん。
門番の兵士は特に気にする様子もなく、何かを確認した後待機していたらしい数人の兵士を呼び自身はさっさと敷地の中に入って行ってしまった。
立派なお屋敷であり、広い敷地を持ってるけど門から玄関まではそんなに遠くないようで少しホッとする。すぐさま門番が戻ってきた。
「ではこちらへ、ご案内いたします」
道中襲い掛かってきた以下略――門番の案内に従って屋敷の両開きの玄関の扉を開けてもらい中に案内される。するとそこには一人の老紳士が立っていた。
「お待ちしておりました、私はここで執事をさせていただいてますオルデと申します」
と頭を下げたあと、片メガネに手を当てて私をよく見る。私の胸がわずかに光り、猛者の証の有無を確認しているのだとわかる。
建物の中は何もなく老紳士の後ろ奥にはいくつもの横並びになった扉とその目の前にある人一人乗れるかと言う大きさの円形の転移ポータル。扉には何やら絵が描かれているけど何が描いているのかここからじゃいまいちよく分からない。
二階見えるようになっていて、横並びの扉群の上には転落防止用の手すりがある。その奥はここからじゃ見えないけれど、横並びの扉群を挟むように両壁側に階段がある。
「はい、確かに、猛者の証を持ちし者、ナギ様とそのお連れ様方だとお見受けいたします」
と言うと老紳士は姿勢を正し、
「改めましてようこそおいでくださいました、この度は公爵様も大変楽しみにしておられるご様子で挑戦を受けていただき真に感謝申し上げます、さて、皆様にはこれからジョーカーと戦っていただくにあたってのご説明をさせていただきたいと思います」
と老紳士は私たち一人一人を見ながら話していく。
「ですが今回は挑戦状を受けてのご来館ですので普段とは少々勝手が違いまして、少し移動していただかねばなりません、ご案内いたしますのでついて来てください」
と歩き始める老紳士についていく。
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NAME:ナギ
【ブーメラン初心者】Lv21【STR増加】Lv42【ATK上昇】Lv36【SPD増加】Lv40【言語学】Lv41【遠目】L12【体術】Lv32【二刀流】Lv49【幸運】Lv50【スーパーアイドル】Lv8
控え
【水泳】Lv28
SP26
称号 ゴブリン族のアイドル 恋に惑わされる者 ホマレの惚れ人 ファルカナンドの救世主




