ジョーカーからの挑戦状
日曜日。
今日の朝早くに短時間でひっそりと行われたメンテナンスでいくつかの調整が行われていた。私に関係があるところと言えば魅了系の状態異常である「釘付け」「親衛隊」「心酔」の効果時間が大幅に削られていた。
行動封じの肝である「釘付け」状態は約2分から30秒へ、おそらく【魅力】のスキルを習得した人が増えてきたことが原因と分析している人もいる。元々的モンスターしか使ってこなかった種類の状態異常だったらしく、プレイヤーが使えるようになったらこの仕打ち、と運営が鬼畜疑惑が再び浮上した。
親衛隊も30秒。なのでせいぜい1、2回の攻撃分しか味方になってくれないだろう。「心酔」も10分から1~3分と言う具合に変更された。「心酔」状態は相手に抱きつくという行動をとらされることからPVP大会のための調整という人もいるようだ。
そして解除方法が開示された。「釘付け」「親衛隊」の状態は一度の攻撃で解除され、「心酔」は一度にHP全体の3分の1のダメージを受けると解除される、特に効果時間の調整がなかった「骨抜き」状態は一度の攻撃でHP全体の半分のダメージを受けると解除されるということ。
つまり、後ろの二つは相手をその状態にしている間ちまちま攻撃して行けば一方的に攻撃を加え続けられる。その意味では魅了系の凶悪さはまだ残っているともいえる。だけどアイドル路線の私はバニードールの制服でないと「骨抜き」状態にすることはできない。
ひっそりと行われていた更新情報を確認した後、午後からログイン。
時間は夜。クゥちゃんはログインしているみたいだけど、エイローにいるのだろうか。
クゥちゃんに居場所を聞こうと思ったらメッセージが来ていることに気づく。差出人はカッスール公爵? タイトルは挑戦状になっている。
挑戦状
吾輩はカッスール公爵なり。汝が猛者の証を持つ強者と聞き及び、吾輩の自慢の精鋭部隊であるジョーカーとの決闘を申し付ける。場所は吾輩の館で行う。
日時と決闘を行うメンバーの選定は汝に一任する。汝らが勝利した暁には褒美も用意してある。是非吾輩の館に来られたし。
という内容だった。メンバーの選定は任せてくれるらしい。定員オーバーとかないのかな、とかのんきなことを考えながら一応日時は好きにしていいらしいので今日が無理でも問題はなさそうだ。
とりあえず今現在ログインしているフレンドを確認する。クゥちゃんと、あとは急に呼んでも来てくれそうなのはシンセさんとバカップルの二人ぐらいだろうか。ジェットさんもログインしているけど受験生らしいからそっとしておくべきだと思う。戦闘になるはずだからカッサは来てくれないと考えた方がよさそうだ。ホムラやお兄ちゃん、ルーナさんはきっとパーティで行動していると思うので、呼びづらい。
とりあえずまずはクゥちゃんからだ。
『クゥちゃん今どこ?』
『今はシンセのホームだよ、午前中一緒に狩りをしたからね』
どうやら今はビギにいるらしい。要件を話すとよく分かってないみたいだけど納得はしてくれたみたいだ。バカップルにも声かけてエイローに集まってもらうことになったので準備を整えてカッスール公国側である東門の前へと向かう。
ジェットさんに言うか迷ったけど確か受験生だったと思い出して、なんでログインしてるのかわからないけどあんまり時間がかかりそうなことに巻き込んじゃいけないな、と自重した…のに。
「ナギちゃーん!」
見つかった。てか、エイローに来てたんだ。
「お久しぶりです、ジェットさん」
近づいてくるジェットさんの方を向いて軽く頭を下げて挨拶する。
「本当に久しぶりだね! 今からどっかいくの? 俺ついていこうか?」
と言いながら私の手を取ろうとするので回避するとさらに一歩距離を詰めて肩を掴んでくる。
「まぁ、そんなとこですけど…ジェットさんは付いてこなくて大丈夫です」
ときっぱり告げるとジェットさんの胸を押して距離をと…れない。未だ肩を掴まれたままジェットさんと目を合わせないように顔を見る。ジョーカーとの決闘(?)にジェットさんが来てくれるのはありがたいけど、どれくらい時間がかかるかわからないことに連れて行くわけには…。
「ほら、ジェットさんは受験生じゃないですか、私が連れまわすわけにもいきませんから」
と優しく微笑む。こうやって言えばジェットさんの性格から考えて「ナギちゃんが俺のこと考えてくれてる! 受験頑張るぞ!」とか言って大人しくなるはずだ。あ、我ながらブラックな打算が。
「なんか…その笑顔怖いよ?」
この慈愛に満ちた微笑みはジェットさんに恐怖を植え付けたみたいで、やっと肩から手が離れて解放される。予想となんか違うけど結果オーライ?
「ほらほら、ホークさん達もジェットさんは大丈夫だろうか、て心配してるのにこんなことやってる場合じゃないでしょ?」
「そう言えばナギちゃん」
何とかジェットさんを振り払おうとすると、ジェットさんが真剣な声色で話しかけてくる。
「何ですか?」
「丁度一週間くらい前にうちのギルドが大変なことになったんだ」
「うぇ」
聞き返した後のジェットさんの言葉に思わず変な声が漏れる。
「それの原因がナギちゃんらしくてねぇ、その対応にてんやわんやだったんだけど」
ここでこの話を持ってくるとは。ビッグメタルンを倒した後「石ころ投げれば倒せる」と言い回ったせいでギルド「神風」に人が押し寄せて迷惑をかけたことをここで持ち出してくるとは。
ギルドマスターでもあるホークさんにもし会うことがあったら謝らなきゃとは思っていたけど、ローエスさんによるとジェットさんは嬉々として破壊のダンジョンに繰り出していったらしいから別にその件はいいのかな、とか思っていたのに。
「だからわがまま聞いてくれてもいいと思うんでよなぁ」
とジェットさんはあらぬ方向に顔を向けて視線はちらちらとこちらに向ける。
「はぁ…今日だけですよ?」
私は折れる。実際戦闘ならジェットさんがいてくれるのは心強いし。
ついてきていいと言われて喜ぶジェットさんに今日何をするのか、と言うことを教えると、
「そんな面白そうなことするのに俺をのけ者にしようとするなんて…ナギちゃん冷たい」
とか言われてしまった。面倒くさいのでそこはスルーしていると、遠くから私達の様子を見つめるバカップルが。
「何をやってるのかな?」
近づいて問いかける。逃げると思ったら逃げなかった。
「久しぶりです、ナギさん、まさかナギさんが二ま…じゃなくて本命がいらっしゃったなんて」
と言うミカちゃんをとりあえず睨んでおく。ゆうくんのほうはいつもにこやかだ。
「あ、ナギちゃん」
「あら? ジェット…さん?」
そこにクゥちゃんとシンセさんもやってきた。シンセさんはジェットさんと知り合いなのだろうか。と首を傾げていると、
「ん? そうだけど…あなたは?」
どうやらジェットさんはシンセさんのことを知らないみたいだ。
「あなたのライバルです!」
「うわっ」
とシンセさんが私に後ろから抱きつく。そしてジェットさんとの視線の間に火花が。
「え? 修羅場ですか? 修羅場ですよね!」
今のはスルーしよう。
「ハイハイ、シンセ…ナギちゃんが困…………てるで、しょ!」
見かねたクゥちゃんがシンセさんを――なんとか――引き剥がす。ありがとうクゥちゃん。でもジェットさんを威嚇するのはやめよう。
それぞれ――といってもジェットさんとその他という構図だけど――自己紹介を済ませてエイローを出発。
私を挟んでシンセさんとジェットさんが睨み合い、私の背後ではクゥちゃんが若干シンセさん贔屓で私に近づかないようににらみを利かせている。バカップルはいつの間にか二人だけの世界へ。
メンバー選定間違ったかもしれない。
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NAME:ナギ
【ブーメラン初心者】Lv21【STR増加】Lv42【ATK上昇】Lv36【SPD増加】Lv40【言語学】Lv41【遠目】L12【体術】Lv32【二刀流】Lv49【幸運】Lv50【スーパーアイドル】Lv8
控え
【水泳】Lv28
SP26
称号 ゴブリン族のアイドル 恋に惑わされる者 ホマレの惚れ人 ファルカナンドの救世主




