エルフの里
白く輝くユニコーンはこちらに気づいていないのか、立ち止まって悠々と草を食んでいる。
『どうする?』
誰も遭遇したことのないユニコーンを見て私は特に考えもなくクゥちゃんに尋ねる。するとクゥちゃんがバッと私の方を驚愕の表情で振り返る。
『ナ、ナギちゃん冷静に考えてよ、情報がない相手だよ? アクティブかどうかも分からないし、聞いた話から考えればレアモンスター扱いだろうし、ここは気づかれないように立ち去るべきだよ』
と私の肩をがっちりと抑えて私の特に考えのない発言に真剣に答えてくれる。どこかから聞こえる爆発音がタイミングよく響きクゥちゃんの表情の迫力が増す。
レアモンスターは基本的に普通のモンスターよりも強い。情報もない強い相手に適正よりやや弱いといってもいい私達二人では死に戻ってしまうだろう。そうなるとまたピクシーの村を出発するところからになってしまう。クゥちゃんが必死なのも納得だ。
『ごめんごめん、特に考えもなく言っちゃった』
と謝罪するとクゥちゃんもちょっと熱が入りすぎた、と息を吐き出す。クゥちゃんが落ち着いたところでとりあえずユニコーンのスクショを撮る。
それから私達はそこから動くことなくユニコーンの動きを見守っていた。最初は迂回して行こうかと考えていたけど実際ここからエルフの里へ向かう道が正確にわかっているわけではないので迂回してる間に道に迷ってしまうかもしれない、と動けなかった。
今の場所から立ち去ってくれるだけでいいユニコーン「さん」は私達の気持ちを知ってか知らずか全くその場を動く気配がない。
仕方がないので細かく位置を確認しながらゆっくりと私達が動くことにした。
結局ユニコーンはその場から動かなかったのかしばらくしたらクゥちゃんの索敵範囲から外れた。しかしその代り足取りは重くなる。
「本当にこっちであってるのかなぁ…」
クゥちゃんがぽつりとつぶやく。足取りが重いのは言うまでもなく自信が持てないからだ。ユニコーンをさけて通ったとはいえ自分たちの位置や方角に気を付けながら進んだので意図したルートを通れているはずだ。
しかし本当にこの方角にエルフの里があるならそろそろ目印的なものがあってもいい気がするけど、とか考えると不安にもなってくる。
こうなってしまうと様々な感情を掻き消してきたボンバートレントによる爆発音も、不安に駆られる心をさらに不安にさせる効果音でしかなくなる。
「ん」
「どうかした?」
足取りは重くとも目的地を目指して意図したルートを通っていたところ、クゥちゃんが急に表情を変える。
「何かいる」
どうやらクゥちゃんの索敵範囲に何かが引っかかったらしい。何度かものすごいスピードで何かの反応が近づいてきたと思ったら何事もなく上空を「ダイアオドリ」が過ぎ去って行ったこともあるけど、どうやらそれとはまた別の怪しい反応のようだ。
「この森のモンスターとは動きが違う気がする…でもプレイヤーじゃないし、エルフかな」
その反応がNPCとあたりを付けたクゥちゃんが希望的観測を述べる。もしエルフなら里まで案内してもらえるかもしれない。
そう思ってクゥちゃんとともにその反応の主に近づいていく。私はクゥちゃんについていくだけだけど。
私はいち早くその存在がエルフであると確認して歓喜するべく目を凝らす。すると長身で長い金髪のお姉さんの姿が映る。
「エルフかも」
ちょっとテンションが高くなってしまったのでクゥちゃんも一瞬びっくりしていた。だけどエルフと聞いてさっきまでの不安に駆られた表情がいくらか安堵の表情に変わっている。
しかし問題はまだある。エルフは…というかエルフの里にいるエルフたちはやや排他的なんだそうだ。なので里までの道案内をしてくれるかは確定していない。
「誰?」
一抹の不安を抱えたままエルフの女性に近づいていくと、女性もこちらに気づいたようで警戒をあらわにしている。モンスターかもしれないという判断だろう。
「あら?」
しかし私達が完全に女性の前に姿を現すと先ほどまでの警戒心をあらわにした表情が緩む。
「ナギちゃん…でよかったわよね?」
「…知り合い?」
エルフの女性が何故か私の名前を知っている。クゥちゃんに知り合いか尋ねられるも私は首を傾げる。
エルフの知り合い…。
「あっ」
「その反応、忘れてたのね?」
エルフの知り合いを思い出したところ、目の前の女性が裏に鬼を従えた笑顔を浮かべる。
ホレイーズのイベントが終了してすぐ、舞浜君と一緒にポルトマリアに行った時に一緒に行動したエルフのカップルの女性だった。あの時はポニーテールだったので髪型が変わったこととしっかりと見分けられるほどエルフを見慣れてないこともあってわからなかった。
「いえいえ覚えてますよ…雰囲気が変わってたので違う人だとおおお思ってただけで」
私の回答にとりあえずは納得してくれたのか恐ろしい笑顔からいやらしい笑顔に変わる。
「へぇ~ナギちゃんはエルフにも知り合いが…」
クゥちゃんから珍しい物を見る目を向けられる。生産系のプレイヤーは今ではNPC相手に商売することもあるらしいので別にNPCの知り合いが多くても変な話ではないはずだけど…。
「ところで、どうして二人はここに?」
私がクゥちゃんの言葉にどうこたえるべきか悩んでいると、エルフの女性が話題を変えてくれる。しかも私とクゥちゃんにとっての本題に触れてくれる。
「えっと、エルフの里に行きたいんですけど」
「…迷ったのね」
私達が森にいる理由を話すと呆れた表情でエルフの女性は一言。迷ったとは失礼な! ただ自信が持てないだけだ、と思っていたらどうやら危うくエルフの里を通り過ぎてしまうところだったらしい。
エルフの女性に案内してもらいようやくエルフの里に着く。排他的な考えのエルフじゃないどころか知り合いに会えてよかった。
ホッと一息ついてエルフの散策を始める。女性の方は予定があるらしくそこまで付き合ってはくれなかった。
エルフの里は周囲を木でできた柵で囲い円形の防護壁ができている。村の出入り口は三つで、出入り口がない方角に世界樹がある。
村全体を見渡すようにそびえ立つ世界樹は精霊樹と違い周囲の木々が普通の為さらに威厳が増して見える。そしてその木の葉によって空のほとんどが覆われているけどその木漏れ日が村を緑色に照らしている。
ルージュナも町にある大樹――聖樹よりも小さい――によって町の外から見ると緑色に光って見えるけど、それよりも明るく光っている。
まずは転移ポータルを見つけてすぐに登録しに行く。これでいつでもエルフの里に来れるようになった。エルフの里では露店はほとんどなく見かける露店はゴブリンの行商人のものだ。
エルフの里の家々は木でできた家が多く、中にはピクシーの村同様、樹木そのものが家になっていることもある。ただしその家となっている木々はピクシーの村の木々に比べると大分小さくせいぜい二階建て、三階建ての高さしかない。
とか考えていたけど…うーん、ピクシーの村のせいで感覚が狂っている気がする。
少し里を見て回ったところでいい時間になり、クゥちゃんと一緒にログアウトした。
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NAME:ナギ
【ブーメラン初心者】Lv21【STR増加】Lv42【ATK上昇】Lv36【SPD増加】Lv40【言語学】Lv41【遠目】L12【体術】Lv32【二刀流】Lv49【幸運】Lv50【スーパーアイドル】Lv8
控え
【水泳】Lv28
SP26
称号 ゴブリン族のアイドル 恋に惑わされる者 ホマレの惚れ人 ファルカナンドの救世主




