余波
折角ナギであることを隠してクナとして破壊のダンジョンに挑んだのに、クナの方にも注目が集まってしまうとは…。
ビギに戻ると私達がビッグメタルンを倒したんじゃ、と察した人々に囲まれそうになったけど、石ころを投げれば倒せると言いふらし囲まれる前にその包囲網を突破した。そのままクゥちゃんとともにシンセさんの家に匿ってもらった。
丁度ゲーム内で夜の時間帯が来てしまったので外で狩りがしづらく、もう破壊のダンジョンはこりごりだったので、シンセさんの家から出た後人目のつかないところで仮面を取ってログアウトした。
学校では京ちゃんにビッグメタルンを倒した四人の中の仮面をつけた人が私であるということがばれてからかわれたけど気にせず今日もログイン。
色々あって破壊のダンジョンはもうこりごりだ、と思っていた矢先ローエスさんからメッセージが来ていた。先日渡した素材で何やら装備ができたみたいだ。
指定された私場所は「Berry Workers」。なんで? と頭にはてなをうかべながら私は早速向かう。作業場に呼び出されたのでブティックの方に入り、レジカウンターの人に事情を説明…せずともすぐに奥に入れてもらえた。
「来たか」
作業場に入ってすぐのスペースに簡素な椅子とテーブルが置いてあり、その椅子に座っていたローエスさんが私の姿を確認して一言。
「えーっと…なぜここで?」
私はここに来る間に答えが見つからなかった疑問を問いかける。もちろん問題はないし、ローエスさんがどこにいても自由だけどギルドホームの場所は分かったので受け渡しはそこでもできるはずだ。
「……誰かさんのせいでギルドが大変なことになってる………ギルドホームは安全じゃない」
と作業場の天井をどこか遠い目で見ながらローエスさんが語る。それでもよく分からず納得いかない表情をしてしまっていたらそれに気づいたローエスさんが驚愕の表情を作り体を前に乗り出して、
「昨日の大事件だ! ジェットによると石ころ投げれば倒せると言い回ってる天使があんただと言っていたが違ったのか? 昨日の…夕方あたりからギルドはそっち方面の依頼でひっきりなしだ! ただでさえ最近メンバーのイン率がよくないのに需要にこたえられるか!」
「す、すいません私です」
こ、ここまで「普通に」迫力のあるローエスさんも珍しい。その気迫につい押されてしまった。ていうか原因は私だったのか。ローエスさんの言ってることが本当なら「神風」のギルドホームは投擲プレイヤーを求める人々でごった返しているんだろう。
そこに変装していようがいまいがひょっこり私が出て行こうものなら身動きが取れなくなるだろう。
「お気遣いありがとうございます」
丁寧に頭を下げてお礼を言う。
「まぁ…ホークからあの天使の顔した悪魔に一泡吹かせてくれ、と言われたからな」
そう言ってローエスさんは「ドッキリ大成功」と書かれた看板を掲げていた。「Berry Workers」の作業場で歓声が上がる。…やられた。
「さて本題に入ろう…てかそろそろ座ろう」
ローエスさんは今までのことがまるでなかったかのように話し始めた。私は怒りをあらわにしながらローエスさんに促されるままに椅子に座る。
簡素なテーブルに置かれたのはいわずもがなマントである。
「まぁ…なんとも言い難い感じだな、材料があればもっと研究できるんだがあんまり回ってこないしこれが今の限界」
とローエスさんはマントを見ながら呟く。ローエスさん的にはまだどうにかなりそうな気がするんだとか。できれば色々試してみたかったらしいけど一応私に依頼されてるので今できる最高の物を作ったみたいだ。
「いらないなら買い取る、そしたら少しは研究もはかどるだろう」
と言うローエスさんの話を聞きながら目の前のマントを手に取って確認してみる。
【破壊王のマント】
装備カテゴリー:布
DEF-50
REG-30
ATK+120
効果:破壊無効
存在感
破壊王と呼ばれた男が身に纏っていたマント。自らの身を守るのには適さなかったらしい。
防御面はかえって弱体化してしまうタイプの装備なようだ。一応マントなので胴体の装備と重ねて装備することもできるけど、ネックなのは「存在感」だろうか。使いどころは難しそうだ…。
「うーん、買い取ってもらえますか?」
すぐ決めるのもどうかと思ったけどこのまま倉庫番になるぐらいなら誰か使ってくれる人に渡す方が賢明だろう。ローエスさんの研究資材としてデータの波に消えてしまいそうだけど。
「そっか、わかった、じゃあ手間賃諸々含めてそっちがプラスになる金額にしておくかな」
といってローエスさんはサクッとお金を出して渡してくる。
「じゃあ用は済んだし俺はまた籠るかな…ギルドホームが落ち着いてればいいけど」
「あ、それは、すいません」
「まぁ人が群がってたら群がってたでかわいい女の子にもみくちゃにされるかもしれないからそれはそれでありだけどな!」
序盤はキリッとした表情で不覚にも「かっこよさ」を感じたのに、終盤は内心の下心が隠しきれず顔がにやけてとても見ていられない表情になったローエスさんが去っていくのを、ダメだこの人、と思いながら見送った。
ローエスさんが去った後、「ベリーワーカーズ」の二人もいないので作業場の人達に軽く挨拶をして店を出る。見ず知らずの人からコールがかかってきては切断を行っているとクゥちゃんからコールがかかってきた。
『ナギちゃーん今どこ?』
『…ってクゥちゃん! あ、えーっとブルジョールかな』
流れのままに切断してしまうのをぎりぎりで回避して会話を行う。
『そっか、ナギちゃんも破壊のダンジョンに近づきたくない感じ?』
私の居場所を聞き出したクゥちゃんが尋ねてくる。ナギちゃん「も」って他にも近づきたくない人がいるんだろうか。
『別にそこまでは…誰かほかにも近づきたくない人がいるの?』
『ボク』
私の質問に短く答えるクゥちゃん。どんな事情があるかはわからないけど触れない方がいいだろう。むしろ
『二人だけで冒険してみる?』
と誘ってみる。破壊のダンジョンどうこうもあるけど、どちらかと言えば折角エリアが拡張されたのに全く新エリアに足を運んでいなかったので行ける時に行きたいと考えていた。
『冒険?』
『そ、エイロー方面全く行ってないから、それにあっち方面なら二人でもなんとかなるはずでしょ?』
『了解、じゃあブルジョール側から行こう、待っててね』
『はーい』
とコールを切る。クゥちゃんの言い方からしてもしかしたらビギに近づきたくないのかもしれない。何故ならエイローに行くなら第四エリアから北に進まなければならないからだ。ブルジョールからでは第五エリアを挟んで第四エリアに向かわなければならなくなる。
久々の室外(?)冒険に胸躍らせながら準備を整えてクゥちゃんを待つ。
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NAME:ナギ
【ブーメラン初心者】Lv19【STR増加】Lv40【ATK上昇】Lv30【SPD増加】Lv38【言語学】Lv41【遠目】L10【体術】Lv32【二刀流】Lv49【幸運】Lv50【スーパーアイドル】Lv7
控え
【水泳】Lv28
SP20
称号 ゴブリン族のアイドル 恋に惑わされる者 ホマレの惚れ人 ファルカナンドの救世主




