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ナギ記  作者: 竜顔
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防衛戦前

 しばらく二人で話をした。というよりも相談に近い。スキルの構成でスタイルも変わってくるし、今自分はどういうスキルの構成でいいのかということがつかめていない。


 よく考えれば私は主に一人だ。ジェットさんやホムラが常に一緒にいるわけでもないだろうし、二人とも私の先に行きすぎている。私は現状軽い気持ちでPTを組める相手がいない。


 ジェットさんからは基本ソロなら【調教】スキル、手なずけたモンスターに前を任せて一人でもPT戦ができるようにすれば、とかいろいろ考えてはくれたけど、あまり乗り気にはなれなかった。


 だって大体こういうのは、かわいい見た目のモンスターは弱いと決まってるだろうし。最初可愛くて育てていくうちに凶悪な姿に進化されても嫌だもん。【調教】のスキルは愛玩に目覚めたときにとるかも…。でも見た目がかわいいモンスターなんて第一エリアのプニットとウサギッチあたりだけだし。


 時間はそろそろ夕飯の時間に近づきつつある。また母を怒らせるわけにもいかないので早めに


「では一旦ログアウトしますね」


「ん? どうして?」


「え? 夜ご飯食べないといけませんし」


「…メニューの『待機』を使えばアバターだけ残して現実世界に戻れるよ」


 『待機』という機能があり、そういうことができるとか。だから普段トイレなんかもそうやってすまして、わざわざログアウトとログインを行う必要がないようにしてるんだとか。問題としては、その間アバターが何されるかわからないということぐらいだそうだ。服を脱がそうとしたりすればGMさんがすっ飛んでくるらしいけど。


「ただし、ボディタッチは自由にできるからな、移動するために担ごうとしただけだと言われれば、触られた相手でもセクハラ目的かどうか判断できないだろうし、運営側が勝手な判断で手を出しづらい」


「街の外ならまだしも、街の中では普通にその言い分を聞く必要ないんじゃないですか?」


「一応プレイヤー間のトラブルに首を突っ込まないって言ってるから、相手が迷惑行為だ、と言わなければ運営も動かないだろうね、いやな奴がいたから場所を変えようとしただけだとかいわれれば相手も、そういう事情があるならと許すかもしれないし」


 恋人だと問題とすら思わないだろうし、と言われた。嫌がる相手への常習的なボディタッチなら「セクハラ」という名の迷惑行為に当たるんだろうけど、偶然ならばあくまで「セクハラ!」、「違う!」、のトラブルだと考えることもできるかな。そんなことを考えていると


「ナギちゃんは今までトイレとかどうしてたの?」


「変なこと聞かないでください!」


「今の話の後だから変なこと言ってると思われたかもしれないけど、俺としては一応真剣な話してたんだけど…」


 たまに忘れて漏らす人がいるから…、と聞いてそんな人がいるの!? と驚いた。


「…我慢です」


 そのあと本当かどうかわからないけど、何もしないと誓うジェットさんを信じて「待機」により離脱した。そもそもなんでこんな機能があるんだろ?


――――――――――


 テーブルを挟んだ向こう側、そこには今意識のないアバターだけが残っている。ナギちゃんは全身スキャナーを使ったといっている。それを真に受けるならばそこにあるのはナギちゃんの現実と違わぬ身体ということになる。


 今ならばばれずにあちこち触ることもできる。しかし落着け、ストーカーもしておいて、知らないうちにボディタッチではこの娘の好感度を上げることはできまい。


 知らないうちにならいいじゃないか? 俺を信頼してくれる彼女を裏切るなんて…特に今日は虫の居所も悪そうだ。次怒らせると俺は詰むかもしれない、それだけは嫌だな。


 顔をテーブルに伏している彼女の髪の毛でも眺めるかと思ったが、寝息すら立てない空っぽな「彼女」を真剣に見つめることはできそうにもなかった。


 葛藤の末、俺は防衛戦に関する情報がないかと掲示板を眺めることにした。


――――――――――


 夕食を済ませ、先にお風呂でもと思ったら兄にとられる、ジェットさんの都合も聞かず一方的だったことを反省しながら、お兄ちゃんのおかげで待たせる時間が短くて済んだと前向きにとらえ、ゲームの世界に戻る。


「んん…」


 待機にするとメットを被った瞬間に戻ってくることが分かった。もしかしたら現実ではいつもと違う体勢になっているかもしれないと、若干「本体」が心配になった。


「おっおかえり~」


 ジェットさんはいつもと変わらない様子。体の各部分を確認してみるが、動かされた形跡はないようだ。


「そういえばジェットさんは食事とか大丈夫なんですか? 私、自分のことしか考えてなかった気がして」


 ジェットさんは全然問題ないといった様子だった。


「何見てるんですか?」


「掲示板、どうやら俺たちはこのまま他人と組まないほうがいいかもしれない」


 掲示板では明らかに私たちと違ったところで戦った、調教スキル持ちのプレイヤー以外ゴブリン族と会話できる人の話は載っていないらしい。


 ジェットさんが不思議に思っていたので、マキセさんとのことを話す。年寄りのゴブリンの話だと最後のページを見ていればいいといっていたので、その人は最後のページまできちんとチェックして読めないことを確認してくれたのだろう。


「ゴブリンと話せるのはナギちゃんと、その人と、マキセぐらいか、とにかくゴブリンとPT組んでるのは俺たちぐらいしかいないみたいだから、誰かと組むのは避けた方がいいかもな」


 理由を聞くと、目立つといいことがない、と。特に今回は私が発動させたことでもあるわけだから他のプレイヤーからどういう目にあうかわからないのに、うかつに動かない方がいいといわれた。


「ナギちゃんが目立ちたいなら別だけど…俺としては――」


 最後は小さくつぶやくように言ってたからよく聞こえなかったけど、私は目立ちたいわけじゃない。個人的には第一陣第二陣のプレイヤーとかかわることが多いから、そろそろ第三陣のプレイヤーと一緒に冒険したい。目立つと先輩方から引っ張りだこになるかもしれないけど、それはなんか違うし。


「時間だ、そろそろ行こう」


「はい」


 喫茶店を後にし北門へ向かう。途中中心街に人が多すぎるのか、中心街の周りにまで人で溢れていた。主にPT勧誘なんかが多かった。


 ジェットさんが集めた情報では前衛と後衛で別れて戦う作戦が練られているらしい、でも戦闘がどういったものになるのかわからないので、あくまで仮の作戦だとか。


 北門の前に着くと人でごった返していた。すでに北門は開かれており、一時的っていうのはてっきり防衛戦が開始してからと思っていたけど違ったみたい。


「ジェットさん知り合いいます?」


 この人だかりだ、しかも待ちに待った北門の開門となればそうそうたるメンツがいると予想できる。


「いる…けど、今は会いたくはないな」


 さっき言っていたことが要因にあることはすぐに理解できる。指揮者のような人が大きな声で指示を出し、それにしたがって門を出た後配置につく。


 共闘の際の敵が出てくるならその戦い方もわかる。馬に乗った騎士と、馬に乗っていない盾と剣を持った騎士の二種類がいるらしく、馬に乗っていない方は手に持った盾と剣を落とすと瞬殺だとか。


 そして外に出て気づく、光魔法を使える人や松明を持った人が大勢いるため見事に明るい。【視力】のスキルの恩恵は今は感じられそうもない。そんなのんきなことを考えていた――


――――――――――

NAME:ナギ

 【投擲】Lv28【STR補正】Lv22【幸運】Lv19【SPD補正】Lv20【言語学】Lv18【視力】Lv1【】【】【】【】


 SP15


称号 ゴブリン族の友

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