順調すぎて…
6階層目は通路にも明りが灯っていた。
ドーベルさんが持っていた松明の火を消す。
「えーっと、明かりがついてる部屋には狼がいるって話だけどこの場合は?」
「例にもれず」
舞浜君からの問いかけに端的に答える。
そして確か狼もいきなり空中での前転攻撃をしてくるようになるはずだ。その上バウンドしまくってどこから飛んでくるかわからないとかいう事態にもなるはず…。
はっ
狼のことで考え込んでいたらいつの間にか視線が集まっていた。
「何か問題でもあるんですか?」
コリーさんが首を傾げて尋ねてくるので、複数の狼を見たら警戒すべし、と伝える。
そんなことを言っていると狼が三体いる部屋を発見する。分岐路はないのでその部屋を通過するしかない。
「噂をすれば…というやつ?」
「とりあえず舞浜以外は通路で待機で」
「「わかりました」」
舞浜君が耐えて狼が空中での前転をやめた時が、攻勢に出るタイミングだ。
「じゃあ行きます」
舞浜君が一人中に入って行く。狼が地面をけって空中に飛びあがると体を丸めて回転を始める。そして舞浜君めがけて動き出す。
三体ともがぶつかると弾きあって不規則な軌道で舞浜君に襲い掛かる。四方八方から攻撃されてさすがの彼でも盾だけでは受け止めきれずに攻撃を受けてしまっている。舞浜君の装備が盾以外破壊されて体勢を崩されかけたころ狼たちの技(?)が終わる。
その瞬間に私達三人が部屋の中に飛び出していき狼と対峙する。動きに気を付けて攻撃を加えれば簡単に倒せる相手だ。コリーさんとドーベルさんの二人も攻撃を受ける前に倒せたようだ。
「あのさぁ、俺って部屋で耐えてる意味あった? 狼があの状態になったら通路に逃げて終わるの待っててもよかった気がするんだけど」
装備を整え、回復している舞浜君が意見してくる。
「…さぁ行こう」
私は先を促す。
「クナさんって思ったより抜けたところありますよね」
コリーさんが苦笑いしながら告げる。抜けてることは否定しないけど…思ったよりって、そんなに今の私が優秀な人に見えるんだろうか。まぁ仮面着けてるし、会話にもそこまで積極的に話しているというよりはコリーさんのペースに引っ張られる形だからクールキャラとでも思われているのかもしれない。
次からは舞浜君が狼の攻撃を発動させた後通路に撤退という作戦で動いた。その結果さっきよりも楽な戦いになり気まずくなった。
そんなことを繰り返しているうちに7階層目へと突入。7階層目は真っ暗な空間だった。早速ドーベルさんが松明を持って火をつける。
階段を降り立った先が通路で、分岐路もなくまっすぐ進んだ先の部屋にゆっくり舞浜君が入る。
プシャッ
「うぉ!」
「スパイダー・マム」の糸で捕縛された。幸いゆっくり動いていたので被害者は舞浜君だけで済んだ。一瞬ガッツポーズしてしまったのは多分破壊無効の装備の素材をドロップする「スパイダー・マム」に遭遇したからだろう。決して神様が私の代わりに復讐してくれたんだ、とか考えてない。
「コリーさん、こちらに、ドーベルさんは火魔法が使えるならあの糸を焼いてください」
私が指示を飛ばすとドーベルさんは魔法の詠唱に入る。私はコリーさんを手招きしながら部屋への入り口付近を陣取る。
「光魔法を…この方向に撃てば当たると思います」
「分かりました」
私の指示に頷きコリーさんは魔法の詠唱に入る。そしてその時にドーベルさんの火魔法が舞浜君の動きを封じていた蜘蛛の糸を焼き払う。
すぐに舞浜君は通路に戻ってきて、入れ替わるようにコリーさんの光魔法が部屋の天井に向かって放たれる。
ドサッという音とともに「スパイダー・マム」が落ちて消えるのを確認した。
「本当にいきなりでびっくりしたぁ」
舞浜君が目を丸くして驚いている。その顔がちょっとツボに入って笑ってしまった。
「人の不幸を笑うあたり…Sですね」
コリーさん、それは違います。私が抗議する時間もなく男二人が部屋の中に入って行く。
それ以降特に何もなく7階層目を突破。ここから先は正直ソロの時に【バニードールの制服】を使って突破しただけなので今の装備では不安だ。
「ここから強いモンスターが出てくる、注意すべきはスケルトン・ストーカー、急にフッと現れて不意打ちしてくるから」
私の注意に全員が頷き慎重に動き始める。
暗闇を突き進むこと十数分。私は【石ころ】最強説という仮説を立てていた。理由は簡単だ。最後尾を歩いている私に何度かスケルトン・ストカーは襲い掛かってきた。しかしその度に【石ころ】で防ぐ。もちろんダメージは入るけど、【石ころ】が壊れるだけで防具は全く壊れないのだ。
ソロの時咄嗟に鉄のブーメランで攻撃を防いだ時も防具が壊れなかったのでもしや、と実験したら成功した。
狙われるのは先頭の舞浜君か最後尾の私だけで、舞浜君の方は盾で対処しているのでソロの時あんなに厄介だと思っていた「スケルトン・ストーカー」が全く厄介じゃなかった。舞浜君のおかげでスケルトン・リーダーも脅威にはならない。
破壊無効の盾があるだけで全然違う。装備が整ってきて攻略が捗っているというのも納得だ。舞浜君自身のレベルアップは正直な話よくわからない。ごめんね。
多分今回で一番広くて複雑だった8階層目を突破し、9階層目へ。しかしここでハプニングが起こる。
「向こうに…階段が見える」
舞浜君が言葉にするのも無理はない。降りた先は明るい部屋で、しかもその奥には階段が…。ここに来て最高の構造を引き当てたと言ってもいい。
明るい部屋、ということで当然狼がいる。4体。一人だったら部屋に飛び込むしかないけど四人いるので全員が部屋に入るまでこの階段は残る。
簡単に9階層目を突破し、何ともあっけないと思いながらボスへと向かう。
「初挑戦でボスなんだが…」
「私達も絶望から立ち直ったらボスなんですが…」
「それどころか四人パーティのボスってまだ倒されてませんよね? いいんですか俺達で?」
『ボス戦終わったよー、勝ったよー…ってあれ? 今かけちゃだめだった?』
舞浜君、コリーさん、ドーベルさん、そして最後はクゥちゃんからのコールだ。とりあえずクゥちゃんに今からボス戦だから、と伝える。頑張っての返事をもらって階段を下りていく。
「クナさん何も言いませんね?」
「いや、普通はもうちょっと喜ぶものじゃないかと」
コリーさんが私の様子がおかしいとでもいうように首を傾げてきた。私がソロで来た時はやっとここまできたんだ、って気分だったけど…私がおかしいのだろうか。
「順調すぎてなんか…これは違うんじゃないか、と思ってしまって」
ドーベルさんが頭を掻く。なるほど、言われてみればそうなのかも、でも1階層目で半分ぐらいの時間を使わされたことがある身からすればこういうラッキーは喜んで受け取るべきだと思う。
階段を下りたらボスの部屋へとつながる扉。
「松明は消して大丈夫そうだな、じゃあ行くぞ」
ドーベルさんが松明を消したのを確認した舞浜君は扉を開けて部屋に入る。
部屋に入ると、視界を覆うのは一面の銀色。
部屋が銀色と言うわけではなく、部屋にいる大きな物体が銀色ということだ。その物体は巨大で、形はお持ちみたいな形状でその頂点は天井に着きそうなほどだ。
「ん? なんかきたー」
銀色に輝く物体から声がする。
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NAME:ナギ
【ブーメラン初心者】Lv19【STR増加】Lv40【ATK上昇】Lv30【SPD増加】Lv37【言語学】Lv41【遠目】L10【体術】Lv32【二刀流】Lv49【幸運】Lv50【水泳】Lv28
控え
【スーパーアイドル】Lv7
SP20
称号 ゴブリン族のアイドル 恋に惑わされる者 ホマレの惚れ人 ファルカナンドの救世主