騎士
二人の男女――男はドーベルさん、女はコリーさん――と一緒にダンジョンに入る。
私のことを知っていたら行けないので、ということでばれないように【スーパーアイドル】を控えに回すように舞浜君から言われて、言われた通りにしている。
そして思い出したけれど、やっぱりこのダンジョンでタンカーは不遇と言われているけどだからといって避けられるようなことはない。破壊無効の性能のいい装備がなければ盾役として攻撃を受ける役割ができない、とかしづらい、というだけで破壊のダンジョンのモンスターの耐久力を考えれば十分攻撃役としてカウントができる。
となると私達を誘ってきたときの二人の様子がおかしい気もするけど、今のところ大きな問題はないので追及する必要もないだろう。
コリーさんは桃色の髪で、長さは肩にかかるくらいで、耳の後ろよりやや上ぐらいのところに髪飾りのように団子を作っている髪型だ。一方ドーベルさんは短髪黒髪の普通の好青年、と言った感じだ。
戦い方は舞浜君が破壊無効の効果がついた盾を持っているのでそれで攻撃を受けてもらい、他のメンバーがそれぞれ攻撃するという形を取っている。私は主に投擲武器で戦闘を行っている。コリーさんやドーベルさんから尋ねられたけど「サブウエポン」と言い張り、背中の大斧が壊されないように、とかいろいろ理由付けしている。
納得してもらえたようであんまりしつこく追及して来なかった。
罠を解除するすべのない私達は罠にかかるしかない。即死トラップでないことを祈りながらまた何かの状態異常になる舞浜君を見つめる。
「毒…気分悪い」
今回は毒の罠だったらしい。コリーさんは【祈祷】スキルを持っているとかで舞浜君の治療を行う。
「ふぅ…それにしてもコリーさんはどうして【祈祷】を?」
「よく聞いてくれました! 私は聖騎士になろうと思いまして!」
毒が回復した舞浜君の質問にコリーさんが胸を張って答える。見た目は真面目な清純派と言う感じなのになんか暑苦しい。
「聖騎士?」
コリーさんの言ったことで分からない言葉があった私が首を傾げると、コリーさんがそれに気づく。
「はい! このゲームにはジョブがないので、そういった類のスキルで構成してるんです、味方を守るとともに回復も行えるスーパーな騎士になるんです!」
とコリーさんが語る。聖騎士、というと光魔法が使えたり回復魔法が使えたり、というイメージがあるらしく、そのために【光魔法】や【祈祷】といったスキルを取得しているんだとか。
「でも枠がないのでMPの確保が大変で普通の盾役になってしまいがちなんですよね…ソロでも思ったより安定しなったり」
とコリーさんの表情は暗くなる。理想と現実がうまく折り合いがつかないようだ。
「ちなみに俺は魔法騎士ですね、一時期は盾に杖にしようと思ってたんですけど…結局俺も枠の問題でMPの確保が難しくて魔法に頼らなくても戦える武器にする必要がって」
ドーベルさんの武器は剣…これは片手剣にあたるやつだろうか。
「へぇ、舞浜は?」
変装中はお互いを呼び捨てすることになっているので早速呼び捨てして聞いてみる。
「ノーコメント」
目が泳いでいる…彼も何かの騎士を目指した口か。
他愛もない会話をしながらも順調に4階層目に突入。ちなみにクゥちゃんはボス戦まで行ったそうだ。
それにしてもコリーさんが状態異常を回復してくれるのでそれらのアイテムが節約できている。それに舞浜君が攻撃を受けてくれるので装備も予備を使わなくていいかもしれない。
「あっ」
「どうかした?」
インベントリをみているととあることに気づいて、思わず声を上げる。舞浜君に誘われてすぐ破壊のダンジョンにむかったのでちょいちょい余計なものがインベントリ内に。主にスミフさんから買い取った【石ころ】のことだけど…インベントリの下の方に有ったので余計に存在を忘れてしまっていた。
「ごめん、別になんでもない」
「そうか、後ろ頼んだ」
振り返って尋ねてきた舞浜君に答える。ちなみに現在のフォーメーションは舞浜君を先頭にドーベルさんとコリーさんを挟んで最後尾が私だ。理由は暗闇でも目が利くからで、背後から迫られても対応できるからだ。
舞浜君…というか盾役が機能すると部屋での戦闘は格段に戦いやすくなる。まずは狼が飛びついてきても正面から受け止められるし、スケルトンも気にする必要がない。
5階層目へと突入する。
「順調ですね…」
コリーさんが呟く。
「そういえばタンカーだからって馬鹿にされたんだっけ?」
コリーさんの呟きをどう受け取ったのか御浜君は、二人が私達を誘ってきたときのことを問いかける。
「あれは嘘ですね」
さわやかにコリーさんが答える。…おいコラ!
「ク、クナさんから黒いオーラが出ている気が! ご、ごめんなさい」
コリーさんを仮面の奥から睨みつけていたら察知されたらしく、彼女は震えている。
「俺達破壊のダンジョンあんまり来たことなくて…周りがそう言ってるの鵜呑みにしただけなんですよ」
ドーベルさんが申し訳なさそうに話す。二人によると、タンカーは不遇、とか言われたので自分から率先して誰かを誘うということに躊躇してしまったそうだ、それで二人で潜った時に不意打ちくらって装備が壊されるわ罠にかかって大変なことになるわ、で周りの言ってることを本当だと思い込んでしまったようだ。
「しばらく別の場所でやってたんですけどやっぱり挑戦したくて…そしたらちょうど盾持って悠々と歩く人がいたので私達の同類かも、とか考えて誘ったんですが破壊無効の盾を持っている人だとは」
コリーさんは変わらず私を恐れながらも話す。ちゃっかり舞浜君がディスられている気がするけど、気のせいとして処理しよう。
「まぁ…俺も初めてだから間違ってないのかも、ただ二人だけの組み合わせってこのダンジョン関係なくダンジョン攻略に向いてないだけな気がするんだけど」
「「ぐふぅ!」」
舞浜君の一言が二人に強烈に突き刺さったようだ。確かに暗闇で目が見えない、敵が感知できない、罠が感知も解除もできない、ではどこのダンジョンでも苦労するだろう。【光魔法】の中に周りを明るくする魔法があるので目が見えない、ていうのは何とかなるかもしれないけど。
「まぁ、それに気づいたこともあって他の人がいればまだどうにかなるかも、と戻ってきたんです」
ドーベルさんはコリーさんと違って丁寧に説明する。とりあえず、これで二人が食い下がってきたことと喜んでいた理由が分かった。
「それに知り合いからバランスは気にしなくていい、て聞いていたので…余計に自分達と同じように見えた舞浜さんを誘ったと言いますか」
とドーベルさんが続ける。舞浜君も二人からの評価に少し困惑気味だ。頼りなく見えるんだろう。
「でも俺も初めてだし…クナ、何か注意する点とかある?」
「この階層からモンスターの攻撃力が上がるから舞浜以外は攻撃に当たらないように」
舞浜君からの質問に答える。みんな頷きを返す。
「ってもう次の階層への階段かよ」
二つ目の部屋を出てすぐに階段があった。まるでこれまで破壊のダンジョンに来なかった舞浜君や、一度諦めて戻ってきたコリーさんとドーベルさんの二人を歓迎するかのように、不気味なくらい順調だ。
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NAME:ナギ
【ブーメラン初心者】Lv18【STR増加】Lv39【ATK上昇】Lv30【SPD増加】Lv36【言語学】Lv41【遠目】Lv9【体術】Lv32【二刀流】Lv49【幸運】Lv50【水泳】Lv28
控え
【スーパーアイドル】Lv7
SP15
称号 ゴブリン族のアイドル 恋に惑わされる者 ホマレの惚れ人 ファルカナンドの救世主