神風
ボスのドロップを倉庫から取り出した私はブルジョールに転移し、「Berry Workers」に赴く。鎧などの装備のオーダーメイドを受け付ける場所は行列ができていて、しかもそこに立っている人が「ベリーワーカーズ」のどちらでもなかったのでブティックの方に入る。
ブティックのレジも別の人が立っていたのでコールでラズベリーさんを呼びつける。少しすると店の奥からラズベリーさんが出て来た。
「ナギちゃん、どうしたの? わざわざ呼び出したりして…まさかナギちゃんも破壊無効の装備を作れって?」
ラズベリーさんは少し疲れたような表情で尋ねてくる。
「違います、ボスを倒したので、それで何ができるか聞きに来ました」
私がそう言うと店内の人の視線が集まった。それを見たラズベリーさんが奥に連れて行ってくれる。
普段話をする場所でもある作業場に入ってすぐのスペースを通り過ぎ、ラズベリーさんの作業台と思われるところに連れて行かれる。「Berry Workers」の作業場は大体布系用の作業台と机のワンセットのみだ。鍛冶をするときには炉の近くにある作業台を使い、こちらは誰の作業台とかいうのはないみたいだ。
「さて、ここなら話しやすいでしょう」
作業台を横にするように立つラズベリーさんが口を開く。ブルーベリーさんと共同なようで机が二つ並び作業台も他の人のよりも大きくなっていて、その上鍛冶スペースも近い。これでも一応店主なんだっけ。他に優遇されているのはブラックベリーさんで、あちらは専用の試着…撮影スペースがある。
と少し頭が別のことを考えていたのを消して、ラズベリーさんの作業台にアーサーのドロップ品を並べていく。
「これで何ができますか?」
「本当にそのままの意味だったのね、……うーん、見ただけじゃわからないかなぁ、扱ってみないと」
ラズベリーさんでも扱ってみないとよく分からないらしい。
「その場合失敗すると使えなくなっちゃったりするかもしれないけど、それでもいいなら色々やってみるけど」
ラズベリーさんの提案に私も表情がしぶくなってしまう。あれだけ頑張ったんだからと思うと使えなくなるのは勿体ない。
「まぁ私達も忙しいからそんなことやってる余裕があるかもわからないし…となると、頼めるのは一人だけね」
私の様子を見ていたラズベリーさんが言葉を続ける。頼めるのは一人だけ、というとあの顔しか思い浮かばない。というか多分その人だろう。
「ローエスなら見るだけでどんなものができるか大体は分かると思うから、頼んでみるね」
やっぱりその人だったみたいだ。私がここに来たのもあわよくばローエスさんに会えるかも、と思ってきたわけなのでラズベリーさんの方から頼んでもらえるのはありがたい。ローエスさんとはフレンド登録してないので、自分の都合で用事を頼みづらかった。
「ローエスは今ギルドホームにいるみたいね、ギルドホームはビギの――」
ラズベリーさんからローエスさんの居場所とギルドホームの場所を教えてもらい、その場を後にする。
ギルドホームの場所はマップにマーキングしてもらえるわけではないみたいなので色々なギルドのギルドホームが密集している所だったこともあって少し戸惑ったけれど、投擲武器が描かれた看板が掛けられていたので迷わずに済んだ。
ギルド「神風」、ホークさんをギルドマスターとしている、ジェットさんやスカイさん、ベリーワーカーズの二人にローエスさんも所属している投擲プレイヤー中心のギルドだ。
そのギルドホームは入ってすぐ誰でも出入りできるスペースが用意されている。現在ギルドメンバーの中高生の多くが受験生ということでログイン率が減っていて、多いときでも所属メンバーの半分にも及ばないという状況らしい。
それを寂しがっているホークさんの一声によって、なぜか生産系のプレイヤーによって造られた武具の展示会が行われている。
ベリーワーカーズの二人は鎧系の展示で、リヴァイアサンの鱗と海の衣を使った「ビキニアーマー」なる物が展示されていた。普通のビキニと違う点は脛当てががあることだろうか…もっと守るべき場所があると思うんですけど。
ローエスさんはほとんど木製の人形だった。唯一違うのは「海色のワンピース」である。上は白く下に向かうほど徐々にマリンブルーに染められていくような色合いに見えたワンピースは、角度が変わると色合いも違って見える。
その幻想的な色彩の美しさに見とれていると背後から人が近寄ってくるのに気付いた。
「ラズベリーの話だと違う用件だったはずだが…」
ローエスさんだった。
「とりあえずレンタルさせてもらえるとインベントリで確認できるんだが」
とローエスさんからトレードの申請が来た。なので言われた通り貸し出す。
「何かわかりますか?」
「見ただけでは何とも…実際手に取る必要がありそうだな、ちょっと待っとけ」
ローエスさんはそう言うと奥に消えてしまった。おそらく奥はギルドメンバーしか入れないようになっているんだろう。
ローエスさんを待っている間に展示会を見て回る。しばらくするとローエスさんがやってくる。
「何ができるか、まではさすがにわからんがおそらく破壊に関する効果がつくだろうとは思う、あとは王冠とマントは相性がよさそうだからそのまま合わせた方がいいかも、ってところだな」
と見た感想を述べながら私にそれらを戻す。
「じゃあ、それで」
「わかった、あとの一つも何かのアクセントになるかもしれん…そっちは俺が買い取るとして、手間賃から引くか、そうなると――」
言われた通り素材を渡す。お金は後払いでいいということだった。完成は明日以降になるだろうというとローエスさんはそのまま奥に行ってしまった。顔がめちゃくちゃにやけていたのは、新しい素材で作るからだろうか、それとも何やら変なこと考えてなければいいけど。
ちなみに「海色のワンピース」は展示会の時期が終わるとともにオークションにかけられるそうで、ほしいならかいとればいいとのこと。別にほしいわけでは…。
一応展示物を全て見終わってギルドホームから出る。他にやることもなかったので適当な場所でログアウトした。
そのあとは宿題などリアルの都合を優先し、結局再びログインすることはなかった。
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NAME:ナギ
【ブーメラン初心者】Lv17【STR増加】Lv39【ATK上昇】Lv30【SPD増加】Lv36【言語学】Lv41【遠目】Lv8【スーパーアイドル】Lv7【体術】Lv32【二刀流】Lv49【幸運】Lv50
控え
【水泳】Lv28
SP15
称号 ゴブリン族のアイドル 恋に惑わされる者 ホマレの惚れ人 ファルカナンドの救世主
少し字数少な目ですが。




