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ナギ記  作者: 竜顔
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 アーサーが両手と顔を前に向けると、その頭上にある黒い巨大な玉がゆっくりとこちらに近づいてくる。


「ファルカナンド・エンブレム」


 レーザーよりも危ない雰囲気を醸し出す玉を防ぐために紋章を出現させる。


 大きな玉はゆっくりと紋章にぶつかる。相殺する形になり紋章は割れ、玉は薄くなって消えていく。その薄れゆく黒の奥に人差し指をこちらに向けるアーサーの姿が透けて映る。


 それに気づいて私はすぐに横に飛んで避ける。そこから再びレーザーが何発も襲い掛かってくる。


 しばらくしてレーザーが止み、気が付くと正面に瞬間移動していた。剣を振り上げ隙だらけなアーサーに向かって爆発系のアイテムを投げつける。


「グォ!」


 アーサーと私はお互いに少し吹き飛ばされて距離ができる。いち早く起き上がった私は体勢を整える。アーサーの位置的にはまだ壁が遠いけど、リーステスの剣は10分間しか装備できないことを考えるとやるしかない。


「ファルカナンド・エンブレム」


 すぐさま発動し、その壁となる紋章を前へ押し出していく。体勢を戻したアーサーはそれに気づき、レーザーを連射して紋章を壊しにかかる。


 あと少し、と言うところで紋章は割れてレーザーが私のところまで到達する。間一髪避けて、幸い掠ることもなくダメージはなかった。


 しかしじわじわと追いつめられている。さっき誘惑を防がれてしまったせいでMPが心許ないのに回復するだけの時間的余裕がない。もしリーステスの剣の制限時間を過ぎてしまえば、持っている武器や体術で物理的に応戦するしかない。


 ただその分作れる隙も減るだろうし、MPどころかHPを回復する時間すら確保しづらくなる。そうなればいよいよ終わりが近づくだろう。だからどうにかしてMPを回復するだけの時間がほしい。


 時間を作るには誘惑が一番手っ取り早いけどこのMPだと二度使えるかも怪しい。となれば一度きりと考えて挑むべきだろう。チャンスがあるとすれば瞬間移動直後だけど目の前に現れてすぐ発動できなければさっきのように防がれてしまうか、敵の攻撃で動作が乱れてファンブル扱いされてしまう危険性がある。


 あと賭けに出るとしたら…巨大な玉を発生させた時だろうか。


 と思っていたらアーサーがレーザー攻撃を止め巨大な黒い玉を発生させる。まだ賭けに出るべきではない、とか一瞬悩んだけれどすぐにその動作に入る。


 誘惑。


 発動するとアーサーの動作がピタッと止まり、黒い玉は消える。どうやら賭けには勝ったみたいだ。ゆっくりとMPポーションを口に含んで回復する。


 十分に回復したところで攻撃を再開。フックブーメランを発動して鉄のブーメランを投げつける。アーサーの方に当たると謎引力で地面に叩き伏せる。地面にうつぶせになったアーサーから急いで鉄のブーメランを回収すると駆け抜けながらそのまま残りわずかの爆発系アイテムを全てつぎ込む。


「グアアアァァァァ!!」


「ファルカナンド・エンブレム」


 距離を取った私は爆発の炎に消えたアーサーからの攻撃に当たってしまわないように紋章を出現させる。そしてそのまま前へ押し出していく。


 おそらく攻撃を仕掛けてきているのだろう。反抗するかのような力を感じながらも紋章を前へ。


 リーステスの剣の時間も無くなってきている。


 炎が消え、煙が晴れて口からビームを出し続けるアーサーの姿が見えるようになる。立ち上がることすらせず地面に体を伏せた状態のまま抵抗している。


 押し切ることができず紋章は砕け散る。アーサーは立ち上がることもせずに消える。そして私の背後に現れる。


 背中は完全に曲がったまま口をカッと開きビームの準備をしている。


 後ろにステップする。このままではビームに当たってしまうけど問題ない。唇に手を当て動作に入る。


 誘惑。


 目の前で堂々と披露したためアーサーはビームをやめて咄嗟にマントを使って顔を隠す。その瞬間にダガーを取り出しパワフルスローを使う。


 久しぶりに使うそのアーツによるダガーは猛々しくアーサーの頭に向かって飛んでいき、命中する。マントで顔を隠したために横を向くような姿勢になっていたアーサーはその衝撃で「壁際」で完全に後ろ向きの体勢になる。


 よろめくアーサーに私は右手の拳を突き出して叫ぶ。


「ファルカナンド・エンブレム!」


 再度空中に紋章が描き出されアーサーに向かっていく。リーステスの剣の残り時間はわずか、それで倒せなければ形勢はまたわからなくなる。


 前へ進む速さは少しばかり物足りないが、よろめいているアーサーは踏ん張れずそのまま壁に押し付けられる。


「ォォォォォォォォォ!!」


 壁に押し付けられてくぐもった叫び声が響く。しかし壁に押される力に抵抗するため手のひらは壁にしっかりと押し付けられレーザーを発射させる指先は真上を向き、仮にこの状況でレーザーが出せても満足に紋章に当たることもなさそうだ。口からのビームも、顔が壁を向いていては使うことすらできないだろう。


「いっけぇえええええ!!」


 ついつい私も大きな声を出す。リーステスの剣の時間はあと数十秒。


「ォォォォォォォ!!」


 10秒を切る。


 ふっと壁についていたアーサーの手から力が抜けたように見えた。


 5


 4


 3


 2


 1


 0


 リーステスの剣が光となって鞘に戻ると同時にファルカナンド・エンブレムを解除する。


 ドサッとアーサーが地面に崩れ落ちる。その力なく動く指先がこちらに向けられる。レーザーが発射するも私がいないところを通過していく。


 私はダガーを取り出し、チャージスローを発動して溜める。


 レーザーを止めて立ち上がろうとするアーサーの背中にダガーを投げつける。


 ダガーは背中に突き刺さりアーサーを地面に叩きつける。叩きつけられたアーサーは完全に動かなくなると頭の上の王冠が割れ、その王冠だけ残してアーサーは消えていった。



【壊れた王冠】

素材アイテム


壊すことが好きな王様の王冠。



【破れたマント】

装備カテゴリー:布

 DEF-20

 REG-20


某王様のマント。破れてるけどまだ使えるよ。



 残り一つはスケルトン系のレアドロップと変わらなかった。


 少し経っても部屋に残されたままでどうやったら外に出れるんだろうか、と考えている途中で自分の姿を思い出す。このままじゃバニーガール姿で人前に出るところだった。初心者装備に戻した直後光に包まれる。もしかしたらボスを倒した後の数十秒は装備が破壊された人でもそのままダンジョンの外に出されないようにするための配慮なのかもしれない。



<ボス撃破報告>


破壊のダンジョンの一人パーティ専用ボス

「スケルトンアーサー」の撃破を確認いたしました。


これに伴いましてカッスール公国領内の町が開放されました。


それでは引き続き『○○記』をお楽しみください。



 そのアナウンスがされる最中に周りの光が消えてダンジョンの前に飛ばされたことがわかる。死ねば当然死に戻り場所に飛ばされ、制限時間を過ぎた場合はここに飛ばされる。しかし今飛ばされたのは私一人。ボスを倒してもここに飛ばされる、と考えるには十分な材料でダンジョン前にいる人の視線が私に集中する。


「あ、あークリアした人がいるんだぁ、ソロって大変なのにすごいなぁ、死なないようにしたら時間が無くなるし」


 すっとぼけてみた。棒読みなんて気にしなくていいだろう。こうすればボスを倒したんじゃなくて時間切れで飛ばされたと考えるには十分のはず。


 しかし予想とは違い周りの人はぽかんとした後我に返って私に詰め寄ってくる。


「あなたが倒したんですよね! て待ってください!」


 いやいやこれだけの人に囲まれて質問攻めにされると思ったら逃げるでしょ!


 と心の中で叫びながらひたすら逃げる。振り切ったところでログアウト。カッサや、いつの間にかログインしていたクゥちゃんにはメッセージで事情を伝えた。


 カッサによると、公式サイトにボス戦の映像がアップされると言われたので運営にアップしないようにお願いした。


――――――――――

NAME:ナギ

 【ブーメラン初心者】Lv15【STR増加】Lv37【ATK上昇】Lv30【SPD増加】Lv35【言語学】Lv41【遠目】Lv5【スーパーアイドル】Lv5【体術】Lv31【二刀流】Lv48【幸運】Lv50


控え

【水泳】Lv28


 SP15


称号 ゴブリン族のアイドル 恋に惑わされる者 ホマレの惚れ人 ファルカナンドの救世主

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