破壊のダンジョン
水曜日。
「今どんな感じ?」
私は後ろの席の舞浜君に声をかける。もちろんこれだけ言えば通じるくらい私達の共通の話題は少ない。
「まぁ…少しはつかめてきたかなぁ、でもまだ一対一じゃないと厳しい」
舞浜君は少しずつ【鉄壁】のタイミングがつかめてきているみたいだ。知らないところでちゃんと成長してるらしい。
「最初は補正なしでダメージ受けるし失敗してイライラするしで嫌だったけど、成功するとなんか楽しいんだ」
と舞浜君は目を輝かせる。
「ナ…松木さん達は破壊のダンジョンに挑戦するんでしょ? その期間中に間に合えばいいけど…ピーチさんにまだ認めてもらえそうにないし」
と少し自嘲気味に笑うけど楽しそうな雰囲気は感じられる。
「じゃあ楽しみに待ってる」
と言って舞浜君に向けていた体を教卓の方に向ける。そしてその時にそんな会話をしている私達にいつの間にか周りの視線が向けられていたことに気づき恥ずかしさがこみ上げてきた。
「ヒソヒソ…あの二人ってできてるの?」
「え? できてるでしょ? 絶対そんな雰囲気だったじゃん…ヒソヒソ」
聞こえてますよ皆さん。それともあえてギリギリ聞こえるボリュームなんでしょうか。ヒソヒソ声に視線を向けると一斉にそらす。
違うから…といっても当分は収まりそうにないなぁ。
ゲーム内は平日でのアップデートと言うこともあってか17:00から昼が始まる時間に調節されていた。ビギの南門は人で溢れかえり、露店が邪魔にしか感じないくらいの混み具合だった。
早速パーティ募集する人がいる傍らで固定のパーティが来るのを待ってる人もいる。私も少し待っているとクゥちゃんがやってきた。どうやら今日は問題ないらしい。
それから少しするとカッサもやってきた。だけど3人で挑むのはどうなんだろうか。
「あ、シンセからコールが来た」
そのまま3人で行くか悩んでいるところにクゥちゃんにシンセさんからコールがかかってきたらしい。
「早いね、で、なんだって?」
「…情報通り装備を壊してくるみたい、そのかわり今のところそこまで強くないってさ」
と私の質問に少し間を空けてクゥちゃんが答える。その間にシンセさんと会話しているのだろう。
「とりあえず行ってみるか?」
段々と人が少なくなっていく様子を見ながらカッサに促されて南門を出る。
ダンジョンはビギから出てすぐ視認できるところに出現していた。ドーム型の岩でできた洞穴みたいな外見だ。ランダムダンジョンなので入るたびに内装は変わるけど、下に降りていくのは変わらないみたいだ。
出現するモンスターは骸骨や狼系、あとは蜘蛛だとか。あとは人数によって出現するモンスターの種類が変わるとかいろいろ憶測は飛び交っている。
荒野ワームを見てなんか気分が悪そうなカッサをスルーして荒野に不自然に伸びる人の列の後ろに並ぶ。ただ入って行くだけなこともあってどんどん前へと進んでいく。なのにカッサは「まだかまだか」と呪文のように呟いている。カッサはダンジョンが好きなんだなぁ、と私はしみじみ思う。
「…ナギちゃん今結構黒いこと考えてなかった? …ていうか考えてるよね?」
「ん?」
クゥちゃんが変なことを聞いてくるので首を傾げると、何か諦めたようにそっぽを向いてしまった。カッサには余裕がない。
私達の番になりそのままドーム型に入って行く。すると浮遊感を感じたと思うと気づいたら洞窟の中にいた。
カッサがすぐに松明に火をともす。
「ちょ…休憩しよう」
すごく気分が悪そうなカッサが要求してくる。
「すごいトラウマになってるみたいだね…」
クゥちゃんはそのカッサを優しく見つめる。
とりあえずカッサが休憩しているうちに襲い掛かってきたスケルトンを撃退する。武器も壊されるかも、と思ってスミフさん作の鉄のブーメランを使ったけどすぐに倒せた。
【鉄のブーメラン】
武器カテゴリー:ブーメラン
ATK+12(STR依存)
鉄製のブーメラン。それ以外に何と言えと?
説明文が挑戦的なのはなぜだろうか。というのはおいといてこの性能でもすぐに倒せるのだからシンセさんが言う「強くない」っていうのは嘘じゃないみたいだ。
「耐久力なら気にする必要はなさそう、問題は攻撃力だね」
「はぁ…落ち着いてきた、そうだなぁ、装備を破壊されるの前提だからそこまで驚異的ではないと思うが」
クゥちゃんの言葉に復活したカッサが返す。さて、カッサが復活したところで改めて出発する。
最初の階層は部屋がなく通路だけで、しかも迷路のように複雑な作りになっていた。角を曲がると待ち伏せていたスケルトンが剣を振り上げている姿というのはスケルトン自体に慣れていても恐怖を感じる。
「あ」
「どうしたの?」
何度かその手の奇襲を受けて見事に引っかかって何度か安物装備が壊されてしまったころ、道を歩いているとクゥちゃんが唐突に声を上げる。
ちなみに攻撃力もほとんどなく装備を壊すためだけに存在するかのような威力しかない。
「えっとシンセのミニゴーレムも一撃で粉砕されたって…」
「…かわいそうに」
死に戻りする気がしないと思うほど攻撃力が低いけどゴーレム系のモンスターにとっては地獄らしい。
スケルトンの奇襲に慣れたころ下の階層に降りる。この階層は部屋があり、部屋で数体のスケルトンが待ち構えている場面が多かった。その代り待ち伏せが減り装備が壊される心配は少なくなった。
「うーん、余裕?」
カッサが私達二人の方を見ながら言う。今のところこのままいけそうな気さえするほど順調だ。問題はどこまで下りられるのか、とかモンスターが強くならないのか、とかそのあたりだ。
しばらく進んでいると暗い通路に、カッサの松明とは別の光が目の前に映る。
「なんだあれ?」
「行ってみよう」
クゥちゃんの提案に乗って途中の分岐路も無視して光の方へと向かっていく。どうやら明かりのついた部屋の光が通路の方に漏れていたみたいだ。
近づいていくと部屋に何かがいることが分かった。またスケルトンかと思ってみると人の肩の高さに顔があるほど大きな狼が一匹いた。ここまで骸骨しか見てなかったので初めての狼だ。
顔は黒く、背中の方も黒い反面おなか辺りや足は白い毛でおおわれている。
「狼?」
部屋に入ってクゥちゃんが首を傾げるとほぼ同時に狼が飛びかかってきた。
「うわぁ!」
飛び上がた後空中で加速してクゥちゃんに向かってくる。クゥちゃんは咄嗟に爪を顔の前で交差させて防御の姿勢を取る。
「う!」
クゥちゃんは弾き飛ばされ、爪も折れてしまった。安物の爪なので壊れても安心、というのはクゥちゃんの言葉。
クゥちゃんを弾き飛ばした後後ろに翻って着地した狼めがけて私はブーメランを投げる。着地した狼はそのままブーメランめがけて走ってくる。
ちょうどブーメランと接触する、というところで首を振るとガキィンという音とともに鉄のブーメランは砕けた。
「…俺の目が正しければ武器が壊されなかったか?」
カッサが見ちゃいけない物を見た、という口調で聞いてくる。クゥちゃんの爪が折れたのは防御姿勢をとったせいだと思っていたけど単純に武器を壊せるらしい。
そんなことをやっていると今度は地を蹴って宙に浮いた狼が体を丸めてその場で前方へ回転し始める。それから一気に速度を上昇させて私にぶつかる。私は弾かれると同時に防具が破壊される。私にぶつかった狼はバウンドしてクゥちゃんにぶつかる。
クゥちゃんも同様に弾き飛ばされて防具が破壊される。ゴムボールみたいにバウンドした狼は今度はカッサに向かう。
カッサはハロウィンイベント中に取得した【拳】を信じて素手で殴る。狼は回転し続けるも止めることに成功。カッサの拳が狼の回転の摩擦でいたそうだな、とかのんきに考えていたらカッサのHPバーが9割消える。
「うそーん」
部屋にカッサの間抜けな声が響く。
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NAME:ナギ
【ブーメラン初心者】Lv9【STR増加】Lv35【ATK上昇】Lv26【SPD増加】Lv30【言語学】Lv41【視力】Lv47【スーパーアイドル】Lv3【体術】Lv30【二刀流】Lv46【幸運】Lv50
控え
【水泳】Lv28
SP12
称号 ゴブリン族のアイドル 恋に惑わされる者 ホマレの惚れ人 ファルカナンドの救世主