ゴブリンと共闘
年老いたゴブリンにしばらく待てといわれたので、年老いたゴブリンに質問しながら時間をつぶしている。
このゴブリンによると、ゴブリン族は皆人間の言葉が分かるそうだ。だが、外の連中のことを話しても、よくわからない、ばかりで私たちが戦ってきたゴブリンについては何も言及してくれない。
「で、ナギちゃんはどうしてゴブリンの言葉が分かるんだ?」
ジェットさんの質問に、はて? と私も首をかしげていると
「図鑑の最後のページに記されておるからじゃ、ゴブリンの言葉が分かるように特殊な力でな、ここが開放しなければわからないままじゃが、開放される前に最後のページを見ておれば、わしが手荒な真似をせずに済んだのじゃが…」
「う…そ、それは申し訳ないです」
年老いたゴブリンの一言につい謝ってしまう。聞くと、言語学は必要だがレベルは関係ないとかで、最後のページを見たかどうかが全てらしい。図鑑を奪われたときは敵だと疑ってごめんなさい。
「おーい、帰ったぞ」
振り返ると洞窟から出てくる一つの影、よくみるとその影は左利きの「彼」だった。
「む、やっぱりここを開放したのは嬢ちゃんだったか」
「はい、えーっと」
「俺の名前はレフトだ! よろしくな」
「あ、私の名前はナギです」
二人(?)でやり取りをしていると、ジェットさんとロマンさんが何話してるんだ? と私に目を向けるので、二人に「レフト」さんを紹介した。
「洞窟の先は結構まずい状況だ、ゴブリンも人間もあそこは駆け出しばかりだからな」
レフトさんが真剣な表情をする。それからロマンさんが洞窟の中がどうなってるか確認する。現状特に変化はないとか。
「じゃあ急ぐぞ」
そうやってみんなに声をかけるジェットさんをレフトさんが止める。
「あそこに転移ポータルがある、あれで外まで一瞬だ、だから準備が必要ならそこの老いぼれにいってくれ」
それを通訳する、ジェットさんもロマンさんも準備は必要ないとのことで、レフトさんとPTを組み、ポータルへ移動する。そして第二エリアへ
「この中で前衛はいるのか?」
「ああ、俺が前衛だ、ただあまり受けるのは得意じゃないな」
レフトさんの言葉を通訳するとロマンさんが答える、ロマンさんの武器は片手斧だ。
「こっちもだ、なら受けるのが得意な奴も必要だな」
戦闘は今まさに起こっている、遠くからでも割と見えるほど大きく、黒に近い紫の甲冑、馬、オーラのようなエフェクトの騎士がいた。そしてそれに群がるようにゴブリンとプレイヤーが戦っていた。
「あんまりのんびり出来そうもない気がするんだが」
ジェットさんが戦闘への参加を促す。すると向こうからまた一人ゴブリンの姿が、あれは指輪をしたスーパーゴブリンだ。
「俺はリングっていうんだ、受けるのは得意だ、レフトに呼ばれてきた」
「細かい話は後だ、行こう!」
ジェットさんはまるでゴブリンの言葉が分かってるかのようなタイミングでみんなに声を発する。リングさんをPTに入れて、一斉に駆け出す。
敵の騎士は槍を使うようで、囲まれればなぎ払い、隙ができたと思うと突いてくる。そしてこのエリアに出てくるには不釣り合いなほど攻撃力が高く、プレイヤーもゴブリンも薙ぎ払われるだけで大体消えていく。
リングさんが挑発をかけてターゲットになる、そのうちにレフトさんとロマンさんが攻撃していく、他のプレイヤーや、ゴブリンも同様にそうするが、どちらにしてもあまり効果がうかがえない。
私も槍が届かないところから攻撃。タイミングやポイントを探るため観察しているが、今はまだそれに関係なく投げている。
騎士の兜は目の部分のみが開いているタイプの兜で、その中は真っ黒で騎士の目を確認することはできない。私はそこを狙い投げる、しかし、盾でガードされる。
しばらく胴体に投げるがダメージを受けている様子がないので、石ころを投げてみると盾でガードした。
「嬢ちゃん、盾でガードされたら固定ダメージでもダメージは入らねぇ」
レフトさんの声が聞こえる。どこにいるかはよくわからない。
前ではリングさんが突きを受けている、以前と変わらずリングさんもレフトさんも武器はとげとげの付いた棍棒だけで、盾なんか持っていない。そんななか騎士の攻撃を腕で受け、棍棒で受け、うまく処理している。
スーパーゴブリンは強い、リングさんの戦い方はそれがよくわかる。それでも有利に進んでいるとは思えない。考えれば、第二エリアでダントツに強いスーパーゴブリンですらてこずる相手に、ここにいる多数のゴブリンやプレイヤーでは戦うことすら無謀ともいえる。
騎士を乗せる馬も戦っている。その蹴りは脅威で、その上この馬も特にダメージを受ける気配がない。
私は騎士をあきらめ、馬の目に狙いを切り替える。馬は首を振ったり動きが大きいためなかなか狙いにくい。
騎士が槍を持つ右腕を上げる、なぎ払いの合図だ。だが前衛のゴブリンは引き下がらない、そうすれば馬が動けるスペースができてしまい、なぎ払いの範囲が拡大してしまうためだ。そして、槍が振るわれる――瞬間、馬の動きが大人しくなる
――今!
馬の目にダガーが刺さる。馬は鳴き声を轟かせ、前足が宙に浮き、後ろ足で立っているような状態になる。すかさず騎士は盾を持っている左手で手綱をつかむ――
一本の光の筋が騎士の脇腹に打ち込まれる
――ズドオオォォォン!!!!!
爆発音のような音が轟き、騎士が馬から落ちる。落ちた騎士に前衛が一斉に群がり攻撃を加える。そして騎士が消えるとともに、馬も消えた。
「「「やったぁ! 倒したぞ!」」」
歓声が上がり、ゴブリンもプレイヤーも関係なく抱き合っていた。おそらくさっきまで、お互いに警戒し、敵同士であっただろうに…。
私はその場に座り込んだ。そこに他の四人が集まってくる。
「どうやら馬から落とせば大したことない奴みたいだな」
「ジェットさん、最後のあれってなんですか?」
と敵の分析を近づいてくるジェットさんに尋ねた。そう、最後のあれはジェットさん。直接見たわけではないけど、私の目に入らない位置で何かのアーツをチャージしていた。ジェットさんは、秘密、とだけしか言わなかった。肝心なことはいつも秘密にされてる気がするなぁ。
《緊急インフォメーション》
今回の『ゴブリンとの共闘』は全エリアでクリアを確認いたしました。
つづいて『ゴブリン王国』との国交回復のため貿易ルート防衛戦を行います。
時間は本日20:00より場所は北のエリアとなっています。
それに伴って一時的に北門が開門されます。
『貿易ルート防衛戦』
クリア条件:北エリアに出現する敵の殲滅
成功した場合
・北門開門と北エリアの開放
・ゴブリン王国への通行許可
・ゴブリン族と非戦闘化
失敗した場合
・北の一部のエリア開放
・ゴブリン族と敵対
皆様、是非ご参加ください。
「おお! 開かないといわれた北門の開門の条件になっていたのか!」
ロマンさんが叫ぶ。よっぽどうれしいのか声が弾んでいる。
「ナギちゃん、聞きそびれてたけどあの通行証みたいなやつは何だ?」
ジェットさんは、通行証の正体が気になるらしい。
「アイテムです、イベントリでも移動させられないものですけど」
「へえ、どこで手に入れたの?」
「秘密」
「…そうか」
さっきの仕返しだ。さっきの攻撃のこと話してくれたら、こっちもちゃんと話してあげるんだから。
「まぁ、他にも聞きたいことがある、つってもスーパーゴブリンにだが…ナギちゃん? 通訳してもらっていい?」
ジェットさんがちょっと私の機嫌を窺うように聞いてくる。もしかしたら怒った顔をしていたのかも、そんなつもりはなかったので少し申し訳ない気持ちになりながら。スーパーゴブリンとジェットさんの間に入った。
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NAME:ナギ
【投擲】Lv28【STR補正】Lv22【幸運】Lv19【SPD補正】Lv20【言語学】Lv18【】【】【】【】【】
SP22
称号 ゴブリン族の友