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ナギ記  作者: 竜顔
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パワーアップ

「揃った」


 バカップルがその愛をさらに温めた翌日。カッサがログインできないというので聖樹でおとなしく狩りを行った私達は休憩のためにルージュナに戻ってきて、換算所でかぼちゃをポイントに変換した。


 そして私は目当てのアイテムを入手し、これによって武器の素材が全て揃った。現在の【スラッシャーV】よりもかなり上の性能になる予定で、素材なしで作ってもらうと「ベリーワーカーズ」の二人にお願いしても相当な値段になるので、イベントで手に入って助かった。


 本来は「狩人殺し」のドロップアイテムなので、普通に入手するとなるともっと時間がかかったかもしれない。


「ちょっと素材が揃ったから『Berry Workers』に行ってくるね」


「わかった、話切り上げて早く戻ってきてね」


 Berry Workersへ行く旨を伝えるとクゥちゃんからそんな返事が返ってくる。これはラズベリーさんに絡まれても抜け出せ、というアドバイスと受け取るべきだろうか。


 対ラズベリーさんの意識をきちんと持ってブルジョールに転移、それからそのまま「Berry Workers」に向かう。


 今回のイベントで素材を揃えることを目的にする人も多いみたいで、いつものカウンターに列ができていた。


 その行列が少しずつ進んでいくのを待ちながら、この様子なら変に長い時間絡まれることはないかな、とか考えていた。


 しばらくすると私の順番になる。そこで私はあることを忘れていたことに気づくがもう遅い。


「あらー…ナ、ナギちゃん! どうしたのその恰好!?」


 ラズベリーさんは私の衣装を見て興味津々な様子を微塵も隠さず尋ねてくる。こうなったら躱そうとしても無駄だ、と思って答える。


「へぇ…舞浜君から、なるほどナギちゃんは彼の趣味に合わせるタイプね」


「違います」


 変な方向に話を持っていこうとするラズベリーさんを睨む。私の背後からも寒気を感じるような気配を感じるのはきっと間違いだろう。


「ふふふ、そうかしら? それで? 今日は何の用? あ、舞浜君って確かタンカーだったわね、まさか彼用の装備「ラズベリーさん!」…」


 それでも終わらせようとしないラズベリーさんの話を制して今日やってきた目的を話す。


「はい、じゃあ完成したら連絡するね…それとナギちゃんの彼にもよろしくね、あとわからないことがあったらお姉さんが教えてあ・げ・る♡」


「……武器楽しみにしてます!」


 何となくラズベリーさんが恐ろしかったので、笑顔で何もなかったように走り去る。


「あ、そういう態度かわいくないわよ!」


 遠くから聞こえるラズベリーさんの声に、次行くときは覚悟を決めなければいけなさそうだ、と思いながらみんなのもとに戻る。


「思ったより遅かったね…なんか言われた?」


 合流してすぐにクゥちゃんが追及してくる。「ちょっとね」と返すと思い当たるようなことがいっぱいあるのか何か納得したように返事をした後何かkんが得るようにクゥちゃんは空を見上げていた。


「さっきまでスキルの話をしてたんですよ、ナギさんは何かレベルが最大になったスキルありません? 第六エリアのダンジョンで狩りを始めてからぐんぐん上がって気が付けば、ってことがよくあるんですよね」


 クゥちゃんとの話が終わったとみてミカちゃんがパーティでしてたらしい話を振ってくる。確かにスキルのレベルも上がりやすくなり、【ブーメラン使い】と【アイドル】が最大値になっていた。


 【ブーメラン使い】の進化に必要なSpは10、一方【アイドル】は30と重く、進化させるなら【ブーメラン使い】だけかな。


「私もいくつか最大になってるよ」


「あ~やっぱりですか、でも進化させたくてもSpが…ってなりません?」


「なる! ってかなってる」


「ですよね!?」


 変なところでミカちゃんとシンパシーを感じていた。


「で、ナギちゃんは何を悩んでるの?」


 とクゥちゃんが私とミカちゃんのテンションが落ち着いたところで口を挟む。


 自分で勝手に決めるのもいいかな、と思ったけど一緒に行動することが多い…というかもう固定みたいになってるクゥちゃんや舞浜君に相談するのも悪くないかな、と思って相談することにした。


「どっちもとったら?」


「Sp6も残るなら大丈夫でしょ」


 クゥちゃんと舞浜君は結構簡単に解答を導き出した。まぁ元々【ブーメラン使い】の方は進化させるつもりだったので進化。【ブーメラン初心者】になった…ちゃんと進化してるよね? これ。


 そして勢いそのままに「あれ? どうせSp溜めてもスキルの進化ぐらいにしか使ってないよね」と言う気持ちで【アイドル】も進化させた。


 【アイドル】の進化は【スーパーアイドル】。特にアビリティが進化したわけではないけど新しいアーツを取得。その名も【ハートショット】。手で作った銃でターゲットを打ち抜くことで親衛隊状態にさせるアーツで、【誘惑】の上位互換でもある。


 これが【誘惑】の進化ではないので併用ができ、時間稼ぎがこれまで以上にやりやすくなった。


 大量のSpを消費して身軽になった私は喜び勇むように聖樹へと歩みだす。


「あれ、ナギちゃんが何か変」


「ほら、あれじゃないですか、お金を一気に使った時の喪失感のような開放感のようなウガーって状態ですよ」


「ん?」


「無駄な買い物したかも、って思った時にそれを認めないかのように使い潰すあれですよ」


 クゥちゃんはミカちゃんの言ってることがいまいち分かってないらしい。もちろん私もだ。


「あ、確かに一気にお金使うと、なんかちょっとやけくそになって余計なものが増えてたりすることがあるかも」


 少ししてミカちゃんの言っていたことを理解したらしいクゥちゃんには心当たりがあったみたいだ。


「その変なたとえはいいからさ、早くいこうよ」


 いつの間にか先頭を歩いていた私はそう言って振り返る。


「「あっ」」


 声こそ出していなかったものの男二人もそのシチュエーションを想像していたらしい。


 イベントも後半に入って追い込みをかける人も多いようで、第六エリアのダンジョンや第二エリアと勇者ゴブリンの村をつなぐあの洞窟に駆けこむ人が増えていっている。当然それは他の場所では満足に狩りができないからなわけだけど、皮肉なことにその二つのダンジョンに人が集中することで各所に余裕ができている。


 聖樹の12階、部屋数が少なく、かつあまり広くないこともあって人が少ない。そこで早速【ハートショット】の使い勝手を調べてみる。


 そこら辺を歩いていたモンスターに使ってみると、ぴんっと一瞬背筋を伸ばすようにこちらを見ると、すぐさま「お任せください」と言うような態度で私達に背を向けて周囲を警戒し始めた。


 その背後からクゥちゃんが爪でひっかきまわす。背後から不意に襲われたモンスターは反撃することもできず消えていった。


「…さすがにあれはかわいそうです」


 その光景を見ていたミカちゃんが消えていくモンスターの遺志を受け継ぐかのようにクゥちゃんと私をジトッと睨んでいた。


 新しいアーツがどんなものか検証が済んだ私達は普段通り…ではなくイベント仕様の戦い方で狩りを行い、頃合いにログアウトした。


――――――――――

NAME:ナギ

 【ブーメラン初心者】Lv2【STR増加】Lv32【ATK上昇】Lv9【SPD増加】Lv28【言語学】Lv41【視力】Lv46【スーパーアイドル】Lv1【体術】Lv30【二刀流】Lv43【水泳】Lv28


控え

【幸運】Lv50


 SP6


称号 ゴブリン族のアイドル 恋に惑わされる者 ホマレの惚れ人 ファルカナンドの救世主

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