ロマン
ブーメランの件から数日が経った。アップデートも終了し、いざ北へ――とはいかず、北門の開け方を探しクエストに明け暮れる人も増えた。私は全く興味がなく、ゲームの昼の時間帯がうまくかみ合わなかったので、練習に時間が割けず、主に言語学のレベル上げをしていた。
マキセさんに貸していた図鑑も返ってきた。結局読めなかったそうで、進展はない。
時間があわなくなったのはアップデートの際にゲーム内の時間調整が行われたためだ。久々にいい感じの時間がきて、今私は第二エリアの奥にある洞窟に来ている。
「おっと…ここにはトラップがあるぞ、気をつけろ」
マッチョな男性がそういう、この人は「ロマン」さんといってこの洞窟を何回も周回している物好きな人だ。なんでも、初めてダンジョンに潜るような人の案内人をして、お金を稼いだりもしてるらしい。
私も洞窟に入る前につかまった…。暑苦しい人だと思っていたけど、ロマンさんがいてくれてよかった。洞窟に入ってから、まったく準備が足りなかったことを痛感させられた。
暗くて見えない、罠が分からない。松明はロマンさんが渡してくれたし、罠に関してもロマンさんはスキルを使える…というより配置が換わらないらしいので全部記憶しているみたいだけど。
「ってかおっさん、罠の配置全部記憶してるんじゃなかったのかよ」
今のはジェットさん。私に気づかれるように、でも何かするわけでもなくついてきていたんだけど、洞窟に入ろうとしてロマンさんにつかまったら、こんな男と二人だけなんて危険だ。といって一緒にくっついてきた。今の発言はおそらく、ロマンさんがわざわざ罠感知のスキルを発動していたからだろう。
「いやいや、いつ配置が換わるかもわからんし、常に注意せねばな!」
――絶賛ツアー中だ。この洞窟は一緒にPTを組んだ人以外と接触することがないタイプのダンジョンらしく、このダンジョン内にも私たち三人だけだ。だからジェットさんも必死にくっついてきたらしい。
そもそも私がこの洞窟に来たのは、蝙蝠系のモンスター目当てだ。ホムラに言われた練習をやろうにも荒野ウルフを一人では少し辛かった。一撃もくらったことがないことが自慢だったのに、この前くらってしまった挙句、危うく死に戻りするところだった。
そこで、ランクを下げてきたわけで、洞窟ツアーを楽しみにきたわけでは…。敵はジェットさんが片っ端からやっつけていくし。
「そこの曲がり角に入ると宝箱だ、嬢ちゃんが取るといい」
とロマンさんの指示に従い宝箱のアイテムをとる。初心者用ポーションだった。
「おっさんはなんでこんなところにいつまでもいるんだ? もうこの洞窟の罠とかじゃレベルは上がらないだろ?」
「ああ、そうだな、だがロマンがあるじゃないか! この洞窟は他の洞窟と違って特に何もない、ボスもいなければ伝説の武器があるわけでも、クエストに関係があるわけでもない、だからこそ怪しいじゃねぇか! 他のは攻略が早い奴らに先こされちまったけど、ここで何か発見すれば俺が一番になるんだぜ?」
「でも何もないんだろ? それってただの無駄じゃね?」
ジェットさんの一言にロマンさんも頷き、それでも何もないと決まったわけじゃない、と言い放つ。その生き方は誰も真似しないまさしく「俺記」だと思っていたら、他にも「洞窟バカ仲間」がいるとか。
そんな話を聞きながら私も当初の目的を話し、蝙蝠(こうもり)相手には私が率先して戦うことになった。
途中でジェットさんから「黒鉄みたいにやるつもり?」と聞かれてしまった。まだちょこまか動く敵には足を止めないと当てることができない…。
ロマンさんの案内のもと、洞窟内の隅々まで回る。
「とりあえずここが終点だな、ほんと何もないだろ?」
ロマンさんが言うようにその部屋には宝箱が置いてあり、別にレアなアイテムが手に入るでもなく、敵がいるとかでもなく…。
「一応この下にも部屋があるんだけどな、それこそ何にもないんだが…ついでにいってみるか?」
私の目的はあくまで蝙蝠だけど、この洞窟は特にモンスターが再び沸くまでの時間が長いらしいので、帰るよりは行ってないところへ行き、できるだけ時間を使いたいと思ったので、
「はい、お願いします」
とロマンさんの提案に乗る。ある程度の地点まで一旦戻り、それから階段がある場所まで行き下の階に降りる。降りた後曲がり角を左に曲がると、少し開けた何もない場所が目に入る。
「まぁここだ、この洞窟で一番怪しい場所でもある、だがとくには何もない、壁も調べてみたりしたんだがな…」
その開けた場所に入り、壁に近づこうとすると私の胸のあたりの何かが光りだし、それが胸から出てきた。
目の前で宙に浮き、光るそれは【猛者の証】だった。
「嬢ちゃん! なんだそれは!?」
ロマンさんの慌てるような声だ。いや、もしかしたら興奮しているのかもしれない。きっと今までこんなことはなかったんだろう。
私も訳が分からず呆然としていた。――すると目の前の壁の真ん中あたりに細い光の筋が入る。
「何かの通行証的な物なのか!? ボスが出るかもしれない、準備しろ!」
ジェットさんのここまで必死な声を初めて聞いた気がする。だから私も正気に戻り、戦闘態勢に入る。そういえば洞窟に入る前も必死だったような、いや、それとはまた違う、純粋さ的なものが。
ものすごい音が響き、徐々に壁の光の筋が太くなっていく。そしてその先の全貌が明らかになっていく。――
――そこには村があった。何かおかしいような気がする、違和感がある。でも村だった。
「村…があるな」
ジェットさんが口を開く。
「敵はいなさそうだ…入ってみるか」
ロマンさんの言葉で先ほど開いた壁を通り抜け村に入る。
《緊急インフォメーション》
皆様『○○記』をお楽しみいただき大変ありがとうございます。
この度新たに『ゴブリン王国』が開放されたことをお知らせいたします。
また、今からより『ゴブリンとの共闘』を開始いたします。
強敵にてこずるゴブリン達を助けてあげてください。
発生場所は主にゴブリン系出現エリアとなっています。
尚、これにより世界が様相を変えましたことをお伝え申し上げます。
「おおお! 俺の予想は当たってたんだ! 嬢ちゃんありがとう! いい経験をさせてもらった!」
村に入った瞬間表示されたインフォメーションに、ロマンさんが歓喜のあまり制限の効かない大声で叫ぶ。
「とりあえず、ゴブリン達を助けに行くぞ!」
そういってジェットさんが後ろを振り返り洞窟へ戻ろうとする。が、ロマンさんは動かない。
「いや、今ので世界が様相を変えたとあっただろ? そうなると罠の配置も変わってるかもしれんし、敵が強くなってるかもしれん、そうなると誰かを助けに行くなんて問題じゃない、俺たち自身が危ない」
「じゃあどうするんだよ」
二人のやり取りを聞いてると、背後から腰のあたりをつつかれ振り返る。
そこにはこの村の違和感の正体があった――ゴブリンだ。この村に入ってきたとき人の姿はなかったが、どこからか話し声は聞こえていて、その声の正体をつかむことができなかった。先ほどのインフォメーションもあり、この村の住人がゴブリンであると即座に理解できた。
目の前にいるのは、年老いたと思われるゴブリンだ。そのゴブリンが何かを指さし、話しかけている。
「ナギちゃん、何言ってるかわかる?」
「わ、わからないです」
そうやって振り返りながらジェットさんに答える――
「――うふっ!」
ゴブリンにおなかを殴られた、私は膝をつきゴブリンの方を見上げるとモンスター図鑑が奪われていた。全員が一斉に戦闘態勢に入り、私も立ち上がり攻撃しようとすると、ゴブリンは図鑑の最後のページを開いた
――ここにゴブリンのすべてを記す――
「読め…る? 読める!」
「やっと話ができるようになったのぅ」
やれやれという表情でゴブリンはしゃべり始めた。
――――――――――
NAME:ナギ
【投擲】Lv28【STR補正】Lv22【幸運】Lv19【SPD補正】Lv20【言語学】Lv18【】【】【】【】【】
SP22
称号 ゴブリン族の友




