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ナギ記  作者: 竜顔
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現実逃避は偉大だ

「似合ってる」


 そう言って視線をそらす舞浜君に、「どうだか」と思いながら私は溜息を吐く。


 今着ているのはゴスロリの衣装だ。現実ではすれ違うと思わず目で追ってしまうであろう、好きな人には失礼だけど私の感覚では「イタイ」格好だ。


 一応最初は着ぐるみ(顔出しタイプ)を着たけれど何かが違うと思ってこれにした。バニーガールはもちろんない、ナースもない、天使は悩んだけどエイローの時の「エンジェル・モーリン」が頭をよぎったので頭から消した。


 一方の舞浜君は騎士の恰好なので普段と大して変わらない。


「不公平だと思います」


「気のせいです」


 私の追及にも彼は目をそらしたまま答える。


 夕方に差し掛かろうか、という中途半端な時間の為どのエリアも人が殺到している状態ではなく余裕があった。なので戦いやすい第四エリアで狩りをすることにした。


 第四エリアはアントがうようよ寄ってきて稼ぎやすい林部分に人が固まっているので平原部分に出てウリボン、カッタリーあたりを狩ることにした。


 そこに向かう途中に舞浜君にスキルのことで相談したら、時短のために火力アップを図れるようなスキルがいい、ということなのでコストも低い【ATK補正】を取得。


 準備が整ったところで狩りを開始する。


 最初の標的となったのはウリボン、目につくとほぼ同時に向こうから迫ってきたので舞浜君が盾で受け止めて私が後ろからブーメランで攻撃。それから舞浜君が常にウリボンをひきつけて、頃合いに私に押し付ける。


 格下のウリボンはそれで釘付けになるので、その隙に舞浜君はアーツを溜めて叩き込む。


「へぇ」


 ウリボンを倒し、私の口から思わず声が漏れた。


「どうかした?」


「いや、ドロップが一つもないなんて初めてだったから」


 舞浜君の問いかけに答える。雑魚モンスターのドロップは最低0個、最大2個だ。でも私は【幸運】があったせいか0個を経験したことがなかった。


「そうなんだ…素材とか余ってるんじゃない?」


 私の話を聞いて舞浜君は驚きながら、冗談めかして言う。でも私は答えられない。


「…余ってるんだ」


 舞浜君の顔から冗談の気配が消えた。


「そのうち使うかも、って思って結構倉庫に」


 私の倉庫事情が少し公開されることになった。


 気を取り直して狩りを続ける。未だ私のかぼちゃはゼロ。早く一個でもいいからほしい。


 装備で完全耐性がついているけれど、【恋に惑わされし者】の称号の効果を忘れていた私はちゃっかりカッタリーに簡単に釘づけにされながらもそこそこの数を倒し、かぼちゃも集まった。


 「レッドパンプキン」も1個ゲットして、幸先はいいかもしれない。


 一旦休憩しよう、ということでビギに戻る。ちょうどクゥちゃんもログインしてきたので、そこで合流することにした。


 戻る途中、人も少しずつ増え始めあちこちに普段は目にしないような格好の人々とすれ違う。エルフの仮装は人気があったけれど実際にする人は少ない。というのも高身長のモデル体型の人はまだしも普通の日本人の身長だと、仮装だともろにばれてしまうし、「本物」とのギャップは滑稽に思われることが多いからなようだ。


 しかしそんななか明らかに身長が低い6人のエルフとすれ違った。


「勇者だな」


「まぁ、元々好きな格好をするのがこのイベントだし」


「確かに」


 舞浜君はエルフを見て一度は驚きの表情を見せたけれど、私の言葉に頷く。


「それよりもさっきからなんかちらちら見られてる気がして落ち着かないんだけど」


 私はそんなエルフの勇者よりもちらりと見てくる人たちの方が気になった。


「ナギさんにその恰好があってるからだよ」


 さっき視線を逸らしたくせに、と私は彼を睨む。


 ビギに着くとそこにも人が増えていた。新規のプレイヤーのために生産系が集中してしまっているために戦闘系のプレイヤーも必然的に集まってくるからこその賑わいだ。もっとも新規の人をターゲットにしている生産者はビギの東門付近に集まっているので、ビギに人が集まっているのは別の要因もあるかもしれない。


 休憩の前に露店を回って補充。喫茶店に入るのはなんか嫌だったので人が少ない場所で落ち着き、クゥちゃんを待つ。


「あ、ナギちゃん達お待たせ」


 しばらくすると背後からクゥちゃんの声がする。


「あ、クゥちゃ…」


 振り返ると言葉を失う。


「うわぁ、ナギちゃん似合ってる! お人形さんみたい!」


 クゥちゃんはなおも言葉を続ける。私はその言葉もよく耳に入ってこない。


 何故なら振り返った先にいたのは虎だった。正確には虎の着ぐるみだけど、顔が出ないタイプなので完全に虎…だ。


 クゥちゃんは虎好き、だから舞浜君がクゥちゃんが動物の着ぐるみにしているといった時に何となく想像はついていた。でも顔が出ないタイプでここまで虎とは思わなかった。


「あ、ぁ、クゥちゃん…だよね?」


 どう考えてもクゥちゃんなんだけど出てきた言葉はそれだった。


「そうだよ、虎だよ虎! 見て見て、指先から爪が出るんだよ!」


 そう言ってクゥちゃんの手…というべきか虎の着ぐるみの手の部分から、どうやって出してるのか不思議な爪がでてきた。


「す、すごいね!」


 それしか言葉が出てこなかった。


 そのあと冷静に戻れた私はクゥちゃんに何故顔出しタイプじゃないのか尋ねたら


「なんか違うなぁって思ったし、それにちょっと恥ずかしいし…顔が出ない方がいいかなぁって」


 顔を出してたら恥ずかしいから顔を出さないタイプにしたみたいだ。もうこれ以上触れてはいけない気がしたので話題を変える。


「じゃあ、どこに狩りに行く? これから夜が来るし」


「そうだね…でも聖樹はあんまり広くないからなぁ」


 私の意図を汲んでくれたのか舞浜君が早速乗ってくる。


「まぁでも聖樹しかなくない?」


 何故そんなアブノーマルな格好でノーマルに話せるのか問い詰めたくなるほどナチュラルにクゥちゃんが話に入り込む。


 結局聖樹に向かおう、と言うことになったのでルージュナへと移る。


 聖樹も人が多く聖樹に入るのでさえ順番待ち状態になっていた。そんな人の多さからさぞ聖樹の中は人で溢れかえっているのだろうと思っていたら、私達が狩りをすることにした12階はほとんど誰もいなかった。


「まぁ人が来る前に場所確保しようか」


「そうだね」


 舞浜君の提案に乗ってとある一室を拠点にするようにして狩りを始める。


「…うん、いや、あのね」


 さぁいざ狩りを始めようか、って時になってクゥちゃんが話し始める。


「よし、さっそく来たみたいだ」


「そうだね」


 その時にちょうどモンスターが部屋に入り込んできた。一応はノンアクティブのモンスターだ。


「いや、ちょっとま…」


 クゥちゃんが何かを言う前に舞浜君がファーストアタックを与えて戦闘に入る。最初は少し呆然としていたクゥちゃんも戦闘が始まるとすぐに切り替えて動き出す。


 ただ、虎の着ぐるみという格好でありながら、素早い身のこなしでモンスターにヒット&アウェイを決める姿は何ともシュールだ。


 ほどなくして戦闘が終わる。すると同時にクゥちゃんが話し始める。


「二人ともさ、ちょっとは突っ込もうよ!」


「「ん? 何のこと?」」


「ええ!?」


 いきなりのクゥちゃんの言葉に私と舞浜君は理解できなかった。


「いやいや、虎の着ぐるみはないって突っ込んでよ」


「「あっ」」


「ええ!?」


 慌てて何のことか説明するクゥちゃんに、私達が突っ込んでよかったんだって顔をしたためさらにクゥちゃんは驚きの声を上げる。


「もっといろいろ突っ込まれる覚悟だったのに…」


 さっきまで威風堂々としていた虎が、しょぼんという雰囲気を纏う。


「さっきもなんで顔を出すタイプじゃないの? とか虎のことにはノータッチだし、それならまだしも触れちゃいけない物を見た感出すし」


「「あ、あははは…」」


 クゥちゃんにとっては突っ込まれるよりも、触れちゃいけない感を出される方が苦痛だったらしい。それを知った私達は乾いた笑しか出なかった。


――――――――――

NAME:ナギ

 【ブーメラン使い】Lv27【STR増加】Lv27【ATK補正】Lv8【SPD増加】Lv23【言語学】Lv41【視力】Lv44【アイドル】Lv29【体術】Lv30【二刀流】Lv43【水泳】Lv28


控え

【幸運】Lv50


 SP37


称号 ゴブリン族のアイドル 恋に惑わされる者 ホマレの惚れ人 ファルカナンドの救世主

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