かぼちゃと仮装
遅れました。
ちょっと字数多めです。
テスト後に昼食をとり、午後からの集会が終わったらホームルームをして解散。他のテスト期間中の日に比べると明らかにおそいけれど、普通の授業日よりは早く帰ることができる。
家に帰りつくと早速ログインする。
ゲーム内は昼。時間帯も平日の夕方前なので、プレイヤーの数も微妙だ。それでも様々な衣装を身に纏ったプレイヤーは目立つ。
各町で入手できる仮装の衣装の種類は主に、ブルジョールはヴァンパイアや貴族など、ポルトマリアは海産物の着ぐるみや海賊。エイローはナースや、天使、バニーガールで、天使服以外は女性用の衣装しかない。
ルージュナは動物の着ぐるみで顔を隠さない物や隠すものとがある。ファルカナンドは騎士、ホレイーズはゾンビや骸骨。ビギはかぼちゃの被り物。ヴォルカは…インディアン? みたいな感じのが多かった。
他の種族のところではその種族に見えるようなものだった。エルフならエルフ耳。ピクシーは羽。獣人はケモミミ付きのカチューシャとへそ出しルックになるような毛皮の衣服(?)、特に短パンは尻尾付き。
ゴブリン王国領で手に入る衣装を着ると原始人にしか見えない。
今回行われているハロウィンと一周年記念の合体イベントは、それらのコスプレ中のみにドロップするアイテム「ジャックパンプキン」と「レッドパンプキン」が重要なカギを握っている。
どちらもハロウィンと聞いてイメージするあの顔のようにくりぬいてあるかぼちゃで、「ジャックパンプキン」は1個につき1ポイント、「レッドパンプキン」は1個につき10ポイント、イベント期間中各町に設置された換算所でポイントに換えてもらうことができ、そのポイントを使って景品を獲得できる。
そして同時に換算したかぼちゃの数は累計され、ポイントと同様の計算方法でランキングが作られていて、このランキングの上位者には褒賞が用意されているみたいだ。なんと上位三名に与えられるアイテムにはあの【猛者の証】もあった。
とにかく、このイベントは大量にかぼちゃを集めてポイントに換算しまくればいい。
ポイントで分かるように「レッドパンプキン」は「ジャックパンプキン」よりドロップ率が低く、ボスモンスターやレアモンスターだと雑魚モンスターより若干ドロップ率が高くなる。
そのこともあってか各狩場はボスモンスターの奪い合いだったりで殺伐とした雰囲気になり、一周年記念によって常時開放された新規受付の門戸に入り込んできた新規プレイヤーにもさまざまな影響を与えていた。運営は苦肉の策として、イベント中は人が多いところのボスモンスターは常時複数存在し、レアモンスターは出現しないことになった。
…それにしても、舞浜君遅いな。
ここ最近の状況を思い返しながら、一向に来ない舞浜君を待つ。
イベントが始まってすでに三日目、この間私は一つもかぼちゃを手に入れていない。そもそもコスプレ衣装を舞浜君から受け取ってないので始めることすらできない。
それでも、今回のイベントがアイテム収集系のイベントだったことと、2週間にわたって行われることもあって、Lvが最大値だけど進化させるのに消費Sp20とか結構重くて放置している【幸運】持ちの私にとっては楽なイベントだと思っていた。しかしそんな甘くはなかった。
生産者のためにキノミンイエロー乱獲をしていた時、コスプレ衣装に身を包んだプレイヤーの人とパーティを組んで行動することがあった。単純にコスプレじゃない私にはいつも通りのドロップ品が手に入るし、コスプレの人にはかぼちゃが手に入る、ということでパーティを組めばイベント参加者の狩場を奪わずに済むからだ。
その時に偶然【幸運】持ちの人と会話することがあって、その人はその時【幸運】を控えに回しているというので理由を聞いたら、今回のイベントでのレアドロップは「ハロウィンクッキー」というアイテムだそうで、これが【幸運】によってぼろぼろ出てきて肝心のかぼちゃ収拾の邪魔になるらしい。結局【幸運】持ちでもそうでなくとも「レッドパンプキン」のドロップ率は変わらないらしい。
クッキーも換算所でアイテムと交換できるけど、ポイントと交換できるものと違ってイベント感が微妙なアイテムばかりらしい。
蘇生薬や、一定時間ドロップ枠を+1してくれる「ハロウィンキャンディー」あたりはイベント感があるけど、ポイントでは「パンプキンキャンディー」という一定時間かぼちゃ枠+1のアイテムや、他にも装備強化の素材なんかと交換できるので、ランキングのことも考えるとクッキーはおまけ程度の考えになってしまう。
「ハロウィンキャンディー」と「パンプキンキャンディー」の違いが最初よく分からなかったけど、要するに前者はドロップ0がなくなる代りにドロップがクッキーだけの時がある。一方後者は確実にかぼちゃ1個はドロップする。
一応クッキーの交換リストには「レッドキャンディー」という「レッドパンプキン」のドロップ率アップのアイテムもあるけど、ポイントの方には「ハロウィンチケット」といって「オーランタン」という最低二つかぼちゃをドロップするモンスターしか出現しない空間に行けるアイテムがあるので余計にクッキーのうまみは低い。
そのこともあって【幸運】を控えに回すために何のスキルを取るべきか考えていたら舞浜君がやってきた。
「遅れてごめん、親に頼み事されて断れなくて」
開口一番謝罪からだった。
「事情があったんならしかないよ」
と舞浜君の事情に理解を示す。
「じゃあ早速だけど衣装渡すね、選べるように数と種類はそこそこ集めたつもり」
と言って舞浜君がごそごそとしだして、衣装をインベントリから取り出して私に手渡す。
【ナース:白】
装備カテゴリー:セット装備
DEF+0
効果:ハッピーハロウィン(イベント期間限定)
自動鉄壁(イベント期間限定)
完全耐性(イベント期間限定)
白色のナース服。白衣の天使とはまさにこれ。
ハッピーハロウィンはおそらくドロップがかぼちゃとかクッキーに変わる要因だろう。そして、鉄壁と言うのは完璧なタイミングで発動したらダメージ0になるスキルから来ているみたいだ。それが自動で行われる、ってことは一方的に殴れるということになる。そのおかげで強い相手と戦っても死ぬことがないけどイベントの趣旨を考えたら雑魚狩りがメインなので恩恵は薄い。
それから次々と舞浜君が渡してくる。性能は一緒なので説明文だけを言うと。
【ナース:ピンク】
ピンク色のナース服。エロさを際立たせる色合い。
【ナース:水色】
水色のナース服。着用者の可愛らしさが増すとか増さないとか。
【天使:白】
白い天使。これで君もエンジェル・モーリンになれるよ
ここで唐突なエンジェル・モーリンの登場に思わず声を出しそうになった。
【天使:青】
青い天使。…天使に青色とかあるの?
【バニーガール:黒】
黒いレオタードのバニースーツ。普通こそが最もいい証である。
【バニーガール:金】
金色のレオタードのバニースーツ。ゴージャス。
【バニーガール:白】
白いレオタードのバニースーツ。これぞ本当の白兎。
「…あのさ、舞浜君」
何とも適当な説明文に気を取られていたけれど、次々と渡されるいかがわしい物の数々に私は黙っていられなくなった。
「なんか変なのばっかりな気がするのは気のせいかな?」
私はにっこりと舞浜君に笑顔を向ける。それを見て彼が少し顔をひきつらせて後退する。
「え、いや、その」
「これを私に着せるつもり?」
「え、選べるように、ね」
「これから選べと?」
と私が問い詰めて近づくたびに、彼は少し引き下がる。
「いや、まだあるから」
「…ん?」
「ちょ、ちょっと待って、誤解、誤解だから!」
彼が両手を前に出して私にストップをかける。そして慌ててまた次々に差し出す。
それらは兎の着ぐるみと猫の着ぐるみ、顔出しと顔を出さないタイプの両方。ゴスロリ系衣装も渡された。
「あの…さぁ」
半分思考を止めかけながら舞浜君に抗議の視線を送る。
「いや、だってクゥさんも動物の着ぐるみにするみたいだし…」
と彼も反論を始めた。クゥちゃんと一緒ならば恥ずかしい格好も少しは大丈夫だけど。
「それにナースとかは一応需要があって、結構トレードに応じてくれることが多いみたいだから、ナギさんが気に入った衣装を楽に手に入れられるように…て思って」
と彼は続ける。先ほどの衣装にはそういう事情があったらしい。でも
「これ私がトレードに出したらそういう趣味って思われると思うんですケド?」
顔がある程度知られている私にとってそれはつらい。
「とりあえず今日はその中で気に入ったやつでお願いします、じゃあ行こう!」
と舞浜君は目が泳ぎながらあからさまに話を切り上げる。ごまかしたな、と私は彼を睨み、どれを着用するか熟考する。
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NAME:ナギ
【ブーメラン使い】Lv27【STR増加】Lv27【幸運】Lv50【SPD増加】Lv23【言語学】Lv41【視力】Lv44【アイドル】Lv29【体術】Lv30【二刀流】Lv43【水泳】Lv28
SP39
称号 ゴブリン族のアイドル 恋に惑わされる者 ホマレの惚れ人 ファルカナンドの救世主




