ちょっとだけのつもり。
ファルカナンド王国での歓迎の後、
「ログアウトしなきゃ」
と言うと強制的にビギに送還させられた。おかげで転移ポータルの登録ができず、次行くときはそこまで歩いて行かなければならない。
ファルカナンドまで行き放題というところまではサービスしてくれないみたいだ。とそんなことだろうと思っていたけど少し残念な気持ちで昨日はログアウトした。
――でも、そんなことはどうでもいい。
今日からゲームはなるべく控えると決めていたのに。どうして目の前にはゲームの世界が広がっているのか。当然、ログインしたからなんだけど…。
昨日のうちに今日からログインを控えることを、よく一緒に行動するみんなにメッセージで伝えた。それで家に帰りついてちょっとだけ、と始めちゃったら「控えるって言ってたのに来てくれたの!?」みたいなテンションで話しかけられ。「一時間だけ…」と言った結果。
「そこ! 舞浜防いで!」
「了解!」
「ナギちゃん、今!」
「は、はい!」
クゥちゃんと舞浜君と3人で聖樹での狩りを行っている。イベントの報酬の使用感を確かめる目的もある。でも時間を制限してしまったせいなのか、検証のためには数が必要、短時間で数を狩るために効率大事、動きも機敏に、と奮起する二人のテンションについていけない。
正直、体育祭の練習の期間は控えたけど、それ以外毎日のようにログインしていてガチな人として片足を突っ込んだと思っていたけどまだまだ考えが甘かったらしい。
「ちょ、空腹度と渇水度が…」
「やっぱり早いな」
「早いね」
私は食料を頬張らずを得ず、それを見て舞浜君とクゥちゃんは考察を行っている。
今は【ファルカナンド・サークレット】と【英雄への贈り物:体】の組み合わせで装備している。最初は英雄への贈り物で全身を固めていたんだけど、ただでさえ少ない私のMPはすぐに無くなってしまうのでこの組み合わせになっている。
サークレットのMP自動回復(大)の効果で鎧のMP自動消費(小)を相殺…と言うより減少分よりも回復してくれる。
その代りサークレットの存在感の効果でモンスターが私をターゲットに襲い掛かってくる。でも一応格下のモンスターしか出ない階層なので、そこは鎧の威圧感や、私のアイドルの力で何とかなっている。
「次、来たよ、もう食べたよね?」
「あと20分くらい? 急ごう」
クゥちゃん…食べたけど何? 舞浜君、急ぐって何を?
あぁ、なんかこれで疲れて勉強どころじゃなくなりそうだ…。
一区切りしたら舞浜君の
「5分前だ」
と言う言葉で聖樹を脱出。それから二人に使用感がどうだったか色々と聞かれ、周りから見ての感想をお互い言い合って使いどころとか、どういった役割なら有効に使えるか、とかを考えていた。
聖樹を出た後は二人とも普段の様子だった気がするけど、私には二人が自分の知らない人物に思えた。
「明日は? また来るよね? 舞浜から聞いたけどまだテスト期間まで余裕あるんでしょ? ボクの学校と時期被ってるっぽいし」
とクゥちゃんに尋ねられたのを笑ってごまかしてログアウトした。
ログアウトしてからは勉強だ。10円玉を使って巧みに部屋の鍵を開けたお兄ちゃん――鍵を開けてると気づいていたけど無視した――から「勉強してたのか!?」とまるで私が勉強以外のことしかしてないみたいな物言いをされながら。
結局そのまま自分の部屋へと去って行き何の用だったのか、とイライラしたけどそれを目の前の数式にぶつける。…うん、わからん。
テスト範囲がまだ正確に決まってないらしい教科もあるけど、ほぼ全て範囲が出ているのでそちらを優先して行う。
翌日には決まってなかった教科の範囲も確定し、それにも手を付ける。時間制限を設けた時の狩りが恐ろしい物と感じた私はPCはできるだけ見ないようにしながら続ける。
それでも、寝る前にちょっと、と思ってログインする。
ログインするとゲーム内は夜だった。
「ふぅ」
どうやら今はクゥちゃんも舞浜君もログインしてないみたいだ。
装備を以前の物に戻してぶらりと散策する。どこかにゆっくりできる場所がないかなぁ、とか思いながらぶらついているとコールが来た。
『ナギちゃん、今暇~?』
それはシンセさんからだった。
『暇…かな? というかリラックスできる場所に行きたいかな、と』
『じゃあうちにおいでぇ~、リラックスできるように準備しておくから』
と私を家に招待してくる。なんでも丁度家に呼ぼうと思っていたらしい。ゲームの中にしかない景色でも見て気分転換しようと思っていたことと、相手がシンセさんということもあって悩んだけど、私の望みをかなえてくれそうな場所は特に思いつかなかったので結局シンセさんのマイホームに向かうことにした。
『今、玄関前』
『はーい』
玄関前についてコールで呼びかけるとすぐにガチャリっとドアが開く。
「いらっしゃい」
「おじゃまします」
一度来たことがあるとはいえ二人になるのは初めてだ。シンセさんがどんな人間か知っていれば無闇に二人きりになるのがいかに危険かわかるはずだ。
「今日呼んだのはこの子のことなの」
そういってシンセさんは小さい猫を抱き上げて私に見せる…かわいい。
「ほらぁ、クゥちゃん、あいさつしなさい」
「…クゥちゃん?」
シンセさんの言葉に驚いて言葉を失う。もしかしてクゥちゃんもカッサ同様【変身の心得】でも取得したのだろうか。
「そう、この子…虎みたいだし」
どうやら子猫と思ったら虎らしい…。逞しい「虎」と同じ名前でさぞ子猫のクゥちゃんも喜んで…いるのかな。眠たそうにしてる気がするけど。
「で、呼んだ理由がクゥ…ちゃんっていうのは?」
名前を呼ぶのに抵抗が…。
「この前のアップデートで交配ができるようになったみたいなの、それで運良く使役できたレオと普段連れてて一番強いウルフを交配させてみたの…」
ライオンと狼を交配させたら虎になるって…。
シンセさんによるとまだ「ベビー」だからホームの外に出せないらしい。成長させるためには遊んでくれる人が必要だそうで…。
「甘えんぼさんだから席を外すとすぐに不満が溜まって元に戻すのが大変なのよね…」
不満が溜まるとステータスが下がるらしい。不満を解消するためには抱きしめるのが一番効果が高いけど、下がったステータスはそのままなので遊んであげる必要があるそうだ。ちなみに眠った状態でログアウトした場合はそうはならないみたいで、シンセさんも気を使ってるみたいだ。
「でも眠そうですよ?」
「ノルマに届いてないからお風呂に入ってる間相手してあげてほしいの」
どうやら教育ママ…ならぬ、育成ママ? なようだ。ベビーのうちにステータスを極力高めると同時に早く成長させてこの気を使う状態から抜け出したいらしい。
「わかりました」
でも可愛い猫の相手をするのは気分転換になる。と喜んで引き受けた。
猫じゃらしやボール遊びで猫の相手をして、ボールに猫パンチする姿なんかに癒されながら、シンセさんが「ノルマ達成したからもういいよ」といっても聞かずに相手をしていた。
そして気付いたら日付が回っていたので慌ててログアウトしてベッドに入った。
翌日眠そうな私を見た舞浜君の
「勉強頑張ってるんだね、昨日本当にログインしてなかったし」
と言う言葉に心中穏やかじゃなかったのは秘密。
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NAME:ナギ
【ブーメラン使い】Lv27【STR増加】Lv27【幸運】Lv50【SPD増加】Lv23【言語学】Lv41【視力】Lv44【アイドル】Lv29【体術】Lv30【二刀流】Lv43【水泳】Lv28
SP39
称号 ゴブリン族のアイドル 恋に惑わされる者 ホマレの惚れ人 ファルカナンドの救世主