表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ナギ記  作者: 竜顔
144/276

変化した世界

 帰りのホームルームで行われた席替えで舞浜君の前の席になって、なにやら真剣に考え事をしている表情だった彼に対して話しかけるというのが彼との現実での初会話となった。その時に今日も一緒に行動しようということになったので帰ってすぐにログインした。


 ログインすると昼だった。


 ホレイーズを脱出した人も増えたようで、ビギにはプレイヤーの活気が戻っていた。ただあちこち物資の補充に走るプレイヤーが多いようで、生産系も戦闘系も関係なく忙しそうだ。


 NPCの他の種族の人も昨日より多く見かける。エルフの男女、獣人にピクシーに、こっちを見て驚きの表情を浮かべるゴブリンの皆さん。とりあえずゴブリンの皆さんには軽く会釈する。そうすると恐れ多い、と言うようなリアクションを示してくれるのでそれはそれで面白い。


「あぁ、ちょっとどいてくだせぇ」


 大きな荷物を背負った行商人らしきゴブリンの邪魔になっていたようで道を譲る。荷物が重いのか身体は前に傾き顔を上げられないようだ。


「あぁありがたい」


 そう言ってゴブリンは頑張って顔をこちらに向けると目が点になる。


「こ、これはナギ様でしたか、申し訳ございません」


 さっきとはまるで言葉遣いが変わったので思わず笑ってしまう。


「とんだご無礼を、そこで商いやりますんで、よければ立ち寄ってください、お詫びの品をお渡しいたしますので」


「いえいえいいですよ別に」


「そうですか…」


 私がお詫びを断ると何か言いたげな顔をする。


「きついでしょう? 早く荷物を下ろした方がいいと思いますよ」


「…心遣いありがとうございます」


 納得したのか穏やかな表情でお礼を言って本当にすぐそば荷物を下ろして「商い」を始めた。


 そういえばゴブリンは各地に出歩く行商人ポジションだったことを思い出して、新たに拡張されたエリアのことも知ってるんじゃないかと思って聞いてみることにした。


「まだ何か御用で?」


「少し聞きたいことが…」


「はい、何でも言ってください!」


 お詫びができる、という喜びなのか行商人さんは声を弾ませる。


「ファルカナンド王国とか、カッスール公国とかについて何か知ってますか?」


「ええ知ってますとも」


 といって行商人さんは来る客をさばきながら、各国のことを教えてくれる。


 ファルカナンド王国は、砂漠化によってホレイーズの真ん中から王都を遷都したらしく、ホレイーズは現在まるごと大きな建物で覆った「大監獄」となっているそうで、大監獄及びその周辺のちょっとした作物が作れる程度に健康な土地を「ホレイーズ」という一つの都市の名前となっているそうだ。


 都市ということでその大きな建物には多くの人が暮らしているようで、階層は三階層、かつての監獄棟の高さまでが一階層で、その上には天井があり、その天井がそのまま二階の床で…とにかくすごそうだ。かつての監獄棟群は未だに使われているらしく一階と二階が囚人たちの収容に使われるらしく三階が居住地となっているらしい。


 転移ポータルで第三階からのみかつての処刑の谷へと向かう列車の発着場へと行けるようで、現在処刑の谷は人の手が加えられて現王都と直通しているらしい。


「そして確か、数代かけて先日漸く完成に至ったようでそれを機に開国されました、ゴブリン王も近々お邪魔すると聞きましたね」


 どうやらその「開国を機に」という体で実装されたみたいだ。


「カッスール公国は…」


 と行商人は渋い表情になる。


「かつての帝国と手を結んでいた連中でして…以前のルージュナとの軋轢の要因ともなった国ですね」


 と行商人は説明する。あんまりゴブリン達にとって気分のいい相手ではないらしい。


「ナギさん」


 行商人と話していたら舞浜君がやってきたので、新エリアの話はやめて行商人さんと別れる。


 ホレイーズの期間中満足に装備の手入れができなかったからそれをしたいということで、舞浜君が贔屓にしているという鍛冶屋さんのところへ向かう。


「あれ?」


 その向かう先にある店と、そこに立つプレイヤーの顔を私はよく見る。そしてどうしても知り合いにしか見えない。


「おぅ! 舞浜じゃないか…ってナギちゃんも一緒? 知り合いだったのか!?」


「ええ! 聞きたいのはこっちですよ、舞浜君と知り合い…なんですか?」


 スミフさんだった。スミフさんも私と舞浜君が知り合いだと知らなかったみたいで驚いている。一方の舞浜君は平然としている。


「もしかして俺達が知り合いだって知ってたのか舞浜?」


 スミフさんが舞浜君に尋ねる。


「まぁね、赤字覚悟で投擲武器作ってるって言ってたし…ナギさんの話を聞いてると、どうもね」


 どうやら舞浜君は私達が知り合いだと以前から知っていたらしい。


「そうか、で、今日はどっちがどういった要件なんだ?」


 事情が分かったスミフさんは早速本題に入る辺り、別々に来ていた客が実は知り合いだった的なことは前にもあったのかもしれない。


「とりあえず装備を修復の余裕は?」


「あるな」


「じゃあ」


「わかった」


 とお互いに短いやり取りで交渉が終わる。


「ナギちゃんはダガーは?」


「いります」


 といって私もダガーの補充をする。


 用が済んだのでスミフさんの店を後にする。


「で、どこに行くの?」


 と舞浜君に尋ねる。今の彼は装備がサブの装備なのでタンカーとして期待できる場所も限られているだろう。


「ポルトマリア…海で狩りでもしよう」


「わかった」


 舞浜君の提案に頷く。確かに海中なら水着装備になるし、水着は相当性能がいいので盾が多少格落ちしたところでタンクとしての性能が落ちる心配はない。


 ポルトマリアは人で溢れかえっていた…ビーチに限らずだからこの表現で間違ってない。あちこちに水着を着た他の種族の人々。


「すごいね」


 舞浜君もその光景に驚いているみたいだ。


「とりあえず海に入ろう」


「あ、待ってーそこのカップル」


 舞浜君の言葉に頷いて海の方へと向かっていると後ろから止める声が聞こえるので振り向く。


「私達もご一緒していいかしら?」


 と言う声の主を舞浜君と二人で見上げる。…エルフのカップルらしい。声の主は彼女の方みたいだ。


「え、ええっと…いいですけど」


 舞浜君の精神が削られていくのを感じながら、私もエルフの二人が一緒になることを了承する。


「やったーありがと」


 と無邪気に笑う金髪ポニーテールの彼女さんと、じっと黙ったままの無愛想な彼氏さん…「ベリーワーカーズ」とか言い出しそうだなぁ、とか考える。


「あ、でも武器何使います? 弓矢って海中じゃ威力が弱くなってしまうんでしょ?」


 我に返った(?)舞浜君がエルフの二人に問いかける。


「そこはご心配なく、エルフをバカにしないで」


 と彼女さんはウインクする。すると何かに気づいたのかすかさず


「あっ、彼氏を誘惑してるみたいでごめんなさい」


 と言うので


「彼氏ではないんで」


「ふふっ、怒らない怒らない」


 とその時の表情がどこか恐ろしかった。


 私達二人より背が高いエルフカップルとともに海に繰り出す。


 投擲武器は海中ではほとんど役立たずなので、私は主に【アイドル】によるサポートを行う。エルフの二人は弓矢を使うけど、水中でもその威力が弱まらずモンスターに突き刺さる。


 パーティ構成が後衛に偏っているけれど、私達の水着が性能がいいのでエルフの二人のガードに付けるということもあって安定して狩りができた。


 何度か休憩をはさみながら続けて、ゲームで夜がやってくるころに引き上げた。


「ふぅ、面白かったわ、ナギちゃんと、舞浜君ね、また会ったら一緒に狩りをしましょうね」


 と狩りを終えるとカップルは去って行った。


「ねぇ舞浜君…男の人の方、何か喋った?」


「……さぁ?」


 結局彼氏の方は一言もしゃべらなかった。


――――――――――

NAME:ナギ

 【ブーメラン使い】Lv25【STR増加】Lv25【幸運】Lv50【SPD増加】Lv21【言語学】Lv41【視力】Lv44【アイドル】Lv29【体術】Lv30【二刀流】Lv42【水泳】Lv28


 SP39


称号 ゴブリン族のアイドル 恋に惑わされる者 ホマレの惚れ人 ファルカナンドの救世主

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ