ホレイーズ脱出作戦:処刑の谷
最上階で待っていたクゥちゃんに事情を話そうとすると、みんなが集まってからと言われて待つ。カッサや舞浜君、そしてバカップルの二人にシンセさんまでいた。
みんなが揃ったところで私が何をしてきたかを簡単に話す。そして行った先で戦う必要もあるということを伝える。
「とりあえず脱出できるのか調べる必要があるな」
とカッサは楽しそうな笑みを浮かべてやる気に満ちている。
「ナギちゃんが大丈夫なら早速行こうよ」
クゥちゃんはそう言って私に顔を向ける。
「行こう!」
パーティはカッサ以外の6人で組んで最上階から出発する。私達に合わせていくつかのグループも出発する。
なんかよく分からないけど、もうゾンビに拒否反応が出なくなっていた。ちなみにミカちゃんはダメなようで彼氏のゆうくんにしがみついている。ゾンビ系にしろ骸骨系にしろ光魔法が弱点なので、彼女にはゾンビ系も克服してもらいたいところだ。
アイドルのLvが25に上がった時に習得したアビリティは【アイドルパワー】。このアビリティは私のステータスを異性のパーティメンバーにほんのわずかに加算するというもの。気持ち程度なんだけど、私はペルケステスの腕輪のおかげでステータスが3倍になっているので「あるとうれしい」くらいには加算されているみたいだ。
少しなら光魔法が使える舞浜君と、骸骨とは普通に戦えるミカちゃんが、その光魔法でどんどん殲滅していくので思ったよりも早く階段のところにたどり着く。
「ここ下りればいいわけ?」
カッサが尋ねてくるので私は頷く。
「覗いたら下から大量のゾンビが…とか言いませんよね?」
とミカちゃんは顔を青くしながら聞いてくる。その絵を想像して
「うぷ」
大量のゾンビはまだ免疫ができてないみたいで急に気分が悪くなった。
「ちょっと! ナギちゃんが戦えなくなっちゃったじゃん!」
「ご、ごめんなさい!」
クゥちゃんに責められてミカちゃんもうろたえる。それをシンセさんが窘めて階段を下りていく。
両開きの大きな扉は開きっぱなしで、その向こうに列車が見えている。
「普通に発着場に着いたみたいだな」
舞浜君は周囲を見渡しながら呟く。一緒についてきていたプレイヤーもあちこち見まわしながら列車に近づいていく。
特に何の仕掛けもないことを確認すると次々と列車に乗り込んでいく。今回はどうやらパーティ単位で部屋を割り当てられるらしく、パーティに入っていないカッサとだけ別の部屋になってしまった。
でも同じ部屋でくつろいでいればいいか、ということで同じ部屋に七人が入る。部屋のドアを開けっ放しで廊下に出てみたりするメンバーもいながら、到着までの時間をくつろいでいると、
<みなさん! 部屋にお戻りください!>
というアナウンスがされたのでみんな部屋に入る。もちろんカッサも私達の部屋だ。
そのアナウンスの後、特に何もなく列車は止まる。クゥちゃんのレーダーに何かの反応がないことを確認して廊下に出る。
「誰もいない?」
廊下に出ても他のプレイヤーの気配を感じられなかった。クゥちゃんも同じ感想なようだ。
「最低でもこの部屋には誰かいたはずなんだけど…」
と途中の部屋を指さしながら呟く。
列車から降りると目の前に崖になっている壁が立ちはだかっていた。列車の前方に当たる場所に目をやると柱のような棒のようなものが立っていた。
近づいていくとその柱は二本あり上の方には大きな刃がつるされていた。
「ギロチン…か?」
カッサはそれをギロチンと考えているみたいだ。一応みんなにはここが「処刑の谷」ということは伝えてないので、記憶にあるギロチンと見かけが違うそれが何なのかカッサが確信を持てないのも仕方がないことだろう。
「うわぁ!」
とギロチンを眺めていたカッサの変な声を聞いて、カッサの方を見ると、ギロチンの柱と柱の間から腕が一本ニョキッと生えていた。
それを見て全員が絶句。その腕は徐々に伸びていき、もう一本も生えて、その腕の持ち主と思われる人間の顔、体が何もない空間から生えてくる。
「ゲートか?」
カッサはそれまでギロチンと考えていたそれが何かのゲートだと考え始めた。
「うぉっと、…驚かせちまったみたいだな」
ゲートと化したギロチンから現れた男は私達を見ながら気さくに話しかけてくる。その男は中年の男で、私の知っている人間でもあった。
「お、嬢ちゃん、そっちはうまくいったみてえだなぁ、それじゃ、ペルケステスの腕輪を渡してもらおうか」
その男は私に目を向けるとそう言いながら右手のひらを差し出す。パーティメンバーは「知り合い?」という表情で私を見つめているけど、私がその男を睨んでいるのを見て表情を引き締める。
「あなたが敵だったんですね、トルーマスさん」
その中年の男はファルカナンドでミニスさんと名乗っていたミルト姫とともに宿屋まで案内してくれたトルーマスさんだった。
「敵? おいおい、あんたを城に潜入させたのもこの俺だぜ?」
「そもそも潜入を頼んできたのもそちらですよね?」
と私が聞き返すとトルーマスさんはフッと笑って、
「まぁもとから、お前たちをここで消して力づくで奪うつもりだからいいんだがな」
そうやって目をカッと開いてニヤッと笑うと私に向かって駆け出してくる。
高速のステップで舞浜君とゆうくん、シンセさんのゴーレムを躱すとトルーマスは私の懐めがけて飛び込んでくる。
「ファルカナンド・エンブレム」
発動条件は右手拳を前に付きだし、技の名前を声に出して言うこと。特に声を出すということが恥ずかしい「ファルカナンド・エンブレム」を発動する。
「んぐ!」
トルーマスは見事に頭から青白く光る紋章と言う「壁」にぶつかる。
「何それ!」
「体制を整えるんだ!」
私の新技にリアクションを示してくれるクゥちゃんにニヤニヤしながら、私は紋章を消す。カッサはそんなクゥちゃんに言い聞かせるように指示を出す。ちなみに右手を前に突き出した体制を解除すれば紋章は消える。
「挑発が効いてない?」
「おいおい理性ある人間に効くと思ってんのか?」
舞浜君の疑問に面白そうにトルーマスは言い返す。
「でも狙っている相手が分かっているから、防ぎやすいはず」
シンセさんはゴーレムと、ウルフも駆り出して指示を出しているみたいだ。
「チィ! 邪魔くせぇ!」
トルーマスも私に近づけないことにいら立ちを覚え始めている。
「狙いはナギちゃんっていうより、ペルケ…とにかく腕輪だ!」
さすがのカッサもさらっと言われた一回だけでは「ペルケステスの腕輪」というワードを記憶するのは無理だったらしい。
「それでターゲットが固定されて挑発が効かないってことか」
舞浜君は一番カッサと付き合いが長いだけあって、今の言葉の意味をくみ取っている。
トルーマスは攻撃を躱し、防御を躱し、何とか私まで迫って攻撃しようと必死だけど、うまくいかず結局元の位置に戻ってはまた突っ込んで、を繰り返していた。
お互い攻撃を当てられず膠着状態に陥る。
「く、ひとまず周りの連中を消すか」
とついにトルーマスは標的を変える。舞浜君だ。
「ぐぉ!」
トルーマスの頭突きは盾で防いでいる舞浜君にも相当なダメージが入り、HPが一気に削られる。
もう一度来た頭突きにパリィを決めようとしたところでトルーマスは寸止め、そこから回し蹴りの態勢に入る。
しかしその足が舞浜君の盾に到達する前に一瞬で間合いを詰めていたクゥちゃん蹴りがトルーマスのお腹に突き刺さる。
「ぶふぉお!」
わずかに舞浜君側に飛ばされたトルーマスに舞浜君の攻撃と、このイベント中結構お世話になっているフックブーメラン発動中のブーメランが突き刺さる。
くの字の背中側を舞浜君に叩かれて前傾になったトルーマスの肩甲骨辺りに当たったフックブーメランの効果により腹から地面に叩きつけられた。
「うわぁ…」
思いっきり顔面を地面に打ったトルーマスを見たミカちゃんが引きつった表情で声を上げる。
そこに起き上がったトルーマスの鋭い視線が向けられていた。
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NAME:ナギ
【ブーメラン使い】Lv25【STR増加】Lv25【幸運】Lv50【SPD増加】Lv21【言語学】Lv41【視力】Lv44【アイドル】Lv26【体術】Lv29【二刀流】Lv42【水泳】Lv22
SP36
称号 ゴブリン族のアイドル 恋に惑わされる者 ホマレの惚れ人 ファルカナンドの救世主