ファルカナンド王国:激闘
にらみ合う兄弟の弟、リーステスに私と兵士の二人が加勢することでこちらが優勢になる…なんてことはなかった。
私が投げる武器はことごとく弾かれ、兵士の攻撃は流され、リーステスの攻撃にはもはや人間ではない反応速度で対応される。そして隙を見てはその度に攻撃を仕掛けてくる。
ペルケステスはすでに剣を右手だけで持ち、左手で闇の力を生み出す。右手は主にリーステスの対応に、左手は私達に対応している。
オスカーを苦しめていたサンクチュアリもペルケステスには効果がないみたいで、発動しても全く動きが鈍る様子がない。
「ロイヤル・レイ」
リーステスの拳から光が放たれる。
それをペルケステスは剣で払うと左手で生み出した黒く燃える炎をリーステスに放つ。
「ファルカナンド・エンブレム」
青白く光る王家の紋章が黒い炎を受け止める。
この青白く光る王家の紋章はそこに壁を発生させるような物みたいで、前に放つことで攻撃、そこにとどまらせることで防御、と攻守どちらにでも使うことができる。段々とこれで防御してそのまま前に放ってのカウンターが多くなってきている。
「はぁ!!」
黒い炎が消えたことを確認するとリーステスは紋章を放つ。そしてペルケステスが弾く。
ペルケステスはその時に両手で剣を持って全力で弾いているので、あれが完璧に当たれば相当なダメージを与えられるはず。だけどそれだけの隙を生み出す手段が今のところ見つからない。
「はぁはぁ…このままでは埒が明かぬな」
「ロイヤル・レイ」
何かをしようとするペルケステスに隙を与えないようにリーステスが攻撃する。兵士と私も追撃のために武器を構え、兵士は突っ込んでいく。
その瞬間、地面が爆発し暗闇が広がる。リーステスと私は距離があったおかげでダメージはなかったけど兵士は吹き飛ばされたようだ。幸い軽症だったのかすぐに起き上がる。
しばらくして再び月明かりによる光が目に見え始めると、ペルケステスは真っ黒な鎧を身に着けていた。そしてわずかに目が赤みを帯び、肌も黒くなっているように見える。
「兄上…そこまで堕ちてしまったのですか、ゴルトン!」
「サンクチュアリ!」
ゴルトンと呼ばれた兵士はすぐさまサンクチュアリを発動する。ペルケステスを中心に光のサークルが地面に描かれるけれどペルケステスには影響はないのか反応しない。
「ふぅふぅ…フゥフゥ」
怪物が伏せていた目を上にあげて私達をとらえる。
「なぜそこまで悪しき心にとらわれて…」
ゴルトンが呟く。赤と黒がその象徴らしい。
それまで凍るような無表情か、わずかに眉を寄せるかで、リーステスの放つ紋章を弾く時以外表情が大きく変化しなかったペルケステスが…これまで見たことない表情、ニヤッと口角を上げた笑顔になる。その顔は機械ではなかった。だけど人間でもなく、悪魔…それかケダモノだった。
瞬間だった。
「ファルカナンド・エンブレム!」
ペルケステスは視界から消えた、いや、目にもとまらぬ速さで接近してきた。それにいち早く反応したリーステスが紋章を壁に使う。ギリギリのところで間に合いペルケステスが剣を紋章に叩きつける。
「嘘だろ…」
リーステスに動揺が走る。紋章には亀裂が入り、ペルケステスもその壁を力で突き破ろうとしている。
「二人とも、何か有効な手段はないか!?」
リーステスは私達二人の顔を見る。でも私も、そしてゴルトンも返答することができない。今更ながら紋章は良くも悪くも壁…向こうの攻撃も防げるけどこちらの攻撃も防いでしまう。向こうが紋章を壊すのに躍起になっているうちに背後に回って攻撃するという手段もあるけどリスクが大きい。
何か方法は…と考えているうちに紋章が割れてペルケステスが目をカッと見開いた笑顔で迫る。リーステスの前に出たゴルトンは一瞬で吹き飛ばされ、間合いを詰められたリーステスの至近距離からのロイヤル・レイは躱されてリーステスも剣で吹き飛ばされる。
リーステスを吹き飛ばし、振り切られた剣を見るといつの間にかペルケステスの左手が空いている。そして左手を私に向けて闇の力をぶつけてくる…が人形の効果で無効化。
オスカーの時と同じく左手を掴むと肩に担いで背負い投げを繰り出す。するとペルケステスはうまく体を回転させて足で着地する。前傾姿勢になっている私は勢いそのままに地面に叩きつけられる。
ダメージ自体は2割ほどであまり大きくはない。だけど顔を上げると右手に持った剣を振り上げているペルケステスが目に映る。
ダガーで顔を攻撃しても止まるかわからない。あれこれ考えていたらあった。この場で最適なものが。
ローエスさんからもらった【デコイ】の効果がついている紙飛行機。
とっさの判断でそれを投げつけると、振り下ろされた剣が私の目と鼻の先で紙飛行機にぶつかる。
それで稼いだわずかな時間で距離を取ってダガーを顔を狙って投げる。左手で払われる。
しかしペルケステスの足元の地面にファルカナンド王家の紋章が浮かび上がり、ペルケステスの動きが止まる。
「青白の髪は我が王家の証…それを捨て去った兄上を、どうやらこの国の加護は敵と認めらたようだ」
右手の拳を突き出したポーズでリーステスは力を込めると地面の紋章の光が強くなっていくのを感じる。
「プロビデンス!」
リーステスが叫ぶと紋章から光の柱が立ち上り、ペルケステスを包む。
「グワアアアァァァァアアア!!」
光の柱で姿が見えなくなったペルケステスの絶叫が謁見の間にこだまする。
光の柱が消えると、そこには両腕をだらんとしながらも立ち続け、うつろな目ながらこちらを見据えているペルケステスがいた。鎧も砕けてほとんど意味をなさない物となっている。
「これでもまだ…なのか」
リーステスにしても今のは相当力を使ったようで膝をついて呼吸を整えている。
「フシュルル」
もはや人とは呼べないペルケステスは獣が威嚇するような声を上げると体が真っ黒に染まり、オスカーを彷彿とさせる姿となる。
「サンクチュアリ」
「ギャアアアアアァアァァァアア!!!」
ペルケステスの体が真っ黒に染まったのを確認したゴルトンがサンクチュアリを発動すると苦しみ始める。
「もうペルケステスじゃない! ただの怪物だ、活路はある!」
ゴルトンは私の方を向いて叫ぶと剣を構えてペルケステスに向かっていく。苦しみながらもペルケステスは視線を私に向ける。
誘惑。
するとペルケステスの身体がピタッと止まる。本当にもうペルケステスではない違う「何か」だった。
「うおぉぉぉらぁ!」
ゴルトンが雄たけびをあげながら両手で持った剣でペルケステスの後頭部を叩く。
「フシュゥ!」
後頭部を叩かれ前傾になるとペルケステスは体を回転させながら左拳をゴルトンの顔めがけて突き出そうとする…が、それは届かない。ペルケステスの右肩にスラッシャーVが突き刺さり、アーツ【フックブーメラン】の効果による謎引力で振り向きざまにペルケステスの上半身は地面に叩きつけられる。
「邪悪な力に効力があるとされる物だ、受け取るといい」
ゴルトンは光の槍を右手に生み出すと、その言葉とともに仰向けで倒れるペルケステスの心臓に突き刺す。
「グギャァァアアアアアア!!!」
その光の槍を中心に、真っ黒に染まったペルケステスの身体は普通の色に戻っていく。
月明かりしかない暗い部屋でも不気味に輝いていた赤い瞳もその赤い輝きを失い、真っ赤に染まっていた髪もリーステスのようにファルカナンド王家の紋章が放つ光と同じ白く青い色に染まっていき、その男が王家の人間であることを主張する。
「終わった…何も変わらなかった」
その口からは弱弱しく言葉が漏れていた。
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NAME:ナギ
【ブーメラン使い】Lv25【STR増加】Lv25【幸運】Lv50【SPD増加】Lv21【言語学】Lv41【視力】Lv44【アイドル】Lv26【体術】Lv29【二刀流】Lv42【水泳】Lv22
SP36
称号 ゴブリン族のアイドル 恋に惑わされる者 ホマレの惚れ人