ファルカナンド王国:狂王ペルケステス
怪物が両手を振り下ろすと地面を伝うように電撃が走る。
直線だったおかげで横に跳んで回避する。
スラッシャーVが肩に刺さったままなので他の武器で何とかしなければ。
タイタンキラーもホークさんに初めて会ったビッグワーム戦で、壊れるかもと心配していたのにここまでもった…しかしもう耐久度は1、次投げればおそらく壊れてしまうだろう。
誘惑を使って動きを封じる。そしてタイタンキラーを構えてチャージスローを発動。溜められる限り溜め続け、首元めがけてぶん投げる。
「いっけぇぇぇええええ!!!」
ハンマー投げで叫ぶ理由がわかった気分になりながら、全力を込めて投げたタイタンキラーの先を見つめる。
見事に首元に突き刺さり、怪物の身体がふわっと浮く。そして首から先が吹き飛ぶ。首を切り飛ばしたタイタンキラーは消え去り刎ねられた牛の頭蓋骨は地面に落ち、怪物の身体は地面に崩れて上からぺしゃんこにされたようになってしまった。
私は崩れた骨の肩辺りに落ちているスラッシャーVを回収する。
まだペルケステスとの戦闘が残っているのにタイタンキラーを使ってしまったのは勿体なかっただろうかと考えながら他の武器を考えたらスラッシャーVが刺さってしまったのでこうするしかなかったと自分に言い聞かせる。
ふぅっと崩れ落ちた骸骨の先…上の窓から漏れる月の光とそれに照らされる玉座を見上げる。
そこに奴はいた。
一体いつからそこにいたのかはわからないけど、確かに段の上にある玉座に一人座っている。
静かにその男は立ち上がる。立ち上がる前まで紫色だったその髪が赤く染まる。オスカーを彷彿とさせるけど全身が真っ黒ではないのでおそらくは違う…。
「やっと力を手に入れて、あとは計画を一つずつ実行に移していくだけだというのに…」
カツッカツッ
と段から一歩ずつ降りていき私に近づいてくる。
これってゲーム…だよね。ぞわぞわと背筋に何かが走り、私は少しでも奴から遠ざかろうとするも足の力が抜けて尻餅をつき満足に遠ざかることもできない。
「運命までいじってちょこまかとうるさい鼠だ」
現実でも、こんなにまで凍りついた目を見たことがあるだろうか。淡々としゃべりながら表情は一切変わらず目は正面だけを見据えている。
「こ、来ないで…」
じりじりと近づく奴に、その言葉を浴びせるのが精一杯だった。
「だが残念だったな…すべては完成した、もう一度同じ…いや、以前よりもさらに素晴らしいことができそうだ、むしろ感謝しなくてはな」
ピタッと私の目の前で止まる。そして正面しか見ていなかった視線が下を向き、私と目が合う。
「とはいえまた邪魔されては厄介だ…だがこの手で消せば問題ないか」
いつの間にか奴の右手には剣が握られそれを頭の上へあげる。
バタン!
「兄上! 侵入者が!」
謁見の間のドアが開かれたみたいで、私の背後から男性の声が聞こえる。
「ああ、ここにいるぞ、今から消す」
「あ…にうえ? 本当に兄上なのですか!?」
今更とはいえ目の前の男がペルケステスで、後ろから聞こえる声の主はリーステスだろう。リーステスはなぜかペルケステスのことを疑っている。
「どうかしたのか? わが弟よ、兄すらもわからなくなったのではあるまいな?」
一瞬ペルケステスの視線が私から逸れてリーステスの方を向く。リーステスの乱入で何とか精神を持ち直した私は立ち上がって距離を取りながら誘惑を使う。…効果はないみたいだ。そのまままだ話が通じそうなリーステスのそばまで駆け寄る。
「大丈夫ですか? 兄上は一体…いえ、ラドムスの言っていたことが本当になってしまったということですね」
リーステスに駆け寄る選択は正しかったようで、なりふりかまわず駆け寄ったためにバランスの崩れた体を支えてくれる。月明かりに照らされるリーステスの髪は銀…いや、薄い青色だ。
「リーステス…お前も邪魔をするというのならば一緒に消す、安心しろ、ネクロマンスの力で死んでも生きられる」
一切変化しない表情のままペルケステスはしゃべり続ける。
「そんな邪悪な力をいつの間に…兄上、どうして」
リーステスは動揺した後首を横に振ると私の方を見る。
「どうやら兄は討たねばならないようです…協力してください」
「はい」
リーステスに頷き返す。それを確認するとリーステスはペルケステスめがけて走り出す。私も武器を構えて追撃の準備をする。
「二人で来るか…オスカー!」
ペルケステスが叫ぶと窓を割ってオスカーが現れる。
オスカーは右手を挙げて、
「ザ・ナイト!」
光を一切通さない暗闇が場を埋め尽くす。しかしその闇は全て吸い込まれていき、再び月明かりが謁見の間を照らす。
「何!?」
オスカーは驚いているけど、人形と化した自分が吸収したとは思わなかったみたいだ。
「なぜそれを貴様が…」
だけど私が手に持っているのが何か気づいたペルケステスは初めて少し表情を動かした。
「私が兄上を止めます、あなたはまずもう一人の方を!」
「分かりました」
ペルケステスと剣を交えたリーステスの指示に従ってオスカーの前に立ちふさがる。オスカーは背中に羽が生えているみたいで滑空しながら向かってくる。
フックブーメランでオスカーを地面に叩きつける。
「オスカー! 奴を呼んで来い!」
「ハ!」
しかしそれも誘惑を使ってオスカーの動きを封じることで止める。そして振り払われたスラッシャーVを回収する。
「ぐぬぅ」
「魅力持ちか!」
ペルケステスは一切表情を変えることなくリーステスを対処し、こちらの戦況もしっかりと把握している。
「ロイヤル・レイ!」
リーステスの拳の先から青白い光が放たれる。固有のアーツだろうか。それをペルケステスは両手で持った剣でガードする。
「ファルカナンド・エンブレム」
リーステスの目の前に、青白く光る人一人くらいの大きさの王家の家紋と思われる紋章が現れる。そしてそれがそのままペルケステスのもとへと向かう。
「ぐぅおらぁぁあああ!!」
ペルケステスはその紋章を剣で弾き飛ばす。
ペルケステスが紋章を弾き飛ばした瞬間にリーステスは懐に入り込みその剣を振る。しかしそれも受け止められる。
「暗黒魔槍」
ペルケステスは剣を右手だけで持つと、左手に黒い闇の塊の槍を生み出してリーステスに投げつける。至近距離での不意打ちにリーステスも反応ができない。
いち早くそれに気づいた私はオスカー人○こと邪心の人形を二人の間に投げて、黒い槍は吸収される。
「助かりました」
リーステスは私にお礼を言いながらも視線はペルケステスをとらえて動かさない。
そろそろオスカーの誘惑が途切れる…。だけどもしそうなっても再び誘惑を使えばいい。オスカーがにやりとしながら右手を上げる。
「ダークスクリーン」
誘惑。
刹那のタイミングでオスカーが先に闇の幕を目の前に張ったようで誘惑は不発に終わったのか、その幕の向こうからオスカーの右手が突き出される。
とっさに何を思ったのか自分でもわからない。ただ今まで自分の人生で一度もやったことがないことだった。クゥちゃんの見よう見まね。オスカーの突き出した右手を持つと肩に担ぎ腰を落し、そのまま背負い投げを繰り出す。
「くはぁ!!」
見事に決まり地面に投げつけられたオスカーからボスッと黒い煙が噴き出る。
「サンクチュアリ」
「ギャアアアアァァァァァァ!!!」
オスカーを中心にするように白い光を放つサークルが出現し、オスカーは苦しみだす。そしてオスカーから黒い煙…闇の力(?)が抜けていき人形となったと思ったら人形が割れる。同じ人形は二つ存在してはいけないらしい。
「どうやら消すのは君じゃないみたいだな」
新たに謁見の間に現れたのは私をここまで案内してくれた兵士みたいだ。
「あれがペルケステス様……さあリーステス様を援護と行くか」
「はい」
目に映るのは剣と剣を交える兄弟だった。
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NAME:ナギ
【ブーメラン使い】Lv23【STR増加】Lv24【幸運】Lv50【SPD増加】Lv20【言語学】Lv41【視力】Lv43【アイドル】Lv25【体術】Lv29【二刀流】Lv41【水泳】Lv22
SP36
称号 ゴブリン族のアイドル 恋に惑わされる者 ホマレの惚れ人