ファルカナンド王国:謁見の間
宿でしかログアウトできなかったので、ログインすると広がる宿の部屋を見回す。窓を覗くとまだ闇が広がり、部屋の電気が私を照らしているので相変わらず夜みたいだ。
掲示板の方は第六棟から第一棟に戻されたことでどうなってるんだという人たちであふれていた。一応クゥちゃんに伝えていたおかげかやみくもに第六棟に向かう人は少なかったようで、集団で出発した人以外は第一棟に戻されずに済んだらしい。
噂が本当ならば、チェインクエストの指示もあっておそらく今のうちにペルケステスを倒せということだろう。
宿の主人からは「こんな時間にどこへ!?」と驚かれたけど、「散歩」と言えばそれ以上詮索はされなかった。
宿を出るとすっかり人通りのなくなった王都を城に向かって歩いていく。城の近くは貴族の区画になっていると聞いていたけど豪華な見た目とは裏腹に思ったよりも大きくはない屋敷がずらりと並んでいた。どの家が地位が上でどの家が地位が下なのかよくわからない。
遠くからもその姿を見せていた城は思ったよりも遠く一向に城門を確認することもできない。道の途中で出会った酔っぱらいのおじさん曰く城に入るのに特別に貴族の許可はいらず、直接向かうことができるらしい。
もしそれを聞いていなければもっとこそこそと歩いていただろうけど、今は堂々と直進している。
城の中に入るのはもっとこう変装して潜入したりとか考えていたけど、コソ泥のようにして入り込むしかないみたいだ。
やっとのことで城門にたどり着く。謁見の間ってどこにあるんだろうか、というほど城は大きい。王都を囲む防壁が5メートルくらいの高さだと考えたらそれの3倍くらい高く、それに比例するように敷地も広いようだ。
「こっちだ」
か細く小さな声が聞こえたのでそちらを振り向くと、誰の姿も見えず、その代り縄梯子が城壁にかかっていた。
それを使って城の敷地内に入る。謁見の間の位置が分からないので虱潰しに調べるしかなさそうだ。
周囲を見渡して誰もいないことを確認しながらまずは入り口を探す。どうやら城門の裏に兵士が立っていたみたいたいだ。そして当然城の入り口にも兵士が立っているわけで。
「ん? なんだお前は」
後ろから来た人に見つかってしまうわけで。
「国王様に用事がございまして…」
それで許されるはずもないだろうけど。
「…なぜここにいる? ……し、侵入者!!」
遅っ! という突っ込みを言う余裕もく門のそばにいた兵士二人と入り口付近にいた兵士二人のうち一人が一気に駆け寄ってくる。入り口のもう一人は城の中に入っていった。増援を呼ばれる前に突破しなければ。
【アイドル】効果は発動しない…チェインクエスト絡みは厄介ですな。誘惑も効かないのでまずは背後の兵士を蹴る。ダメージはない。
あれ? これって無理なんじゃ…。
一人でも数を減らしておきたいと思ったけど諦めて囲まれないうちに入り口に向かって走る。入り口からやってくる兵士を躱して、アーツ【ダッシュ】を使って一気に加速して城の中に入っていく。
「侵入者だ! 侵入者だ!」
おそらく城の中に入って行った兵士だろう。大きな声で叫んでいる。その兵士を追い越してとにかく走る。
「城の中に入ったぞ!」
「どこだ!」
「探せ!」
「城の明かりをつけろ!」
「絶対に逃がすな!!」
兵士たちの叫び声を聞きながら私はただ目の前の道を走り続ける。この際満腹度とか渇水度が限界まで来てもいいやと思いながらとにかく走り回る。
「はぁはぁ…」
「どうかしたのか?」
人気のない場所に着くと男性の声が話しかけてくる。まぁ、兵士さんだ。そこでふと思いつく。
「ほらこれを拾ったもので、国王様に届けねばと」
そう言って私が取り出したのはオスカー人○(自主規制)だ。
「ふむ、侵入者と言う声が聞こえるが…聞かなかったことにしよう、ついてきなさい国王様なら謁見の間にいるはずだ」
た、助かった。兵士はみんな兜で顔が分からないので今どんな顔をしているのかはわからないけどとりあえずこの兵士に付いていくしかない。
「もしばれたら首になるんじゃないですか…」
「はははは、侵入者である君が心配してくれるのか、おかしな話だ」
ごもっとも。
「国王様が謁見の間で行っていることに我々も興味がある、しかしもし許可もなく立ち入ればそれこそ首だろう、ならば国王に会いたいという侵入者に暴いてもらえばいい、もしやましいことなど何もないなら侵入者の君を消せばいい話だろう?」
どっちに転んでもこの兵士にとっては問題ないようだ。私は本当は会いに来たんじゃなくて倒しに来たんだけどね。謁見の間に向かう途中に食べ物と飲み物を渡されてそれを消費して満腹度と渇水度の回復を図る。
「すぐそこだが見張りがいる…しばし待たれよ」
すると見張りの兵士としばらく話をした後、見張りの兵士はどこかへと向かい、それからまたしばらくすると連れてきてくれた兵士もどこかへいなくなった。
私は恐る恐る謁見の間の扉に近づく。そして入り込む。
キィィィ、ガタン
謁見の間の奥の壁の上の部分には窓があり、月の光が部屋の中をわずかに照らす。その光に照らされる黒い大きな影。
「兵士どもが騒いでおったのは貴様のせいか小娘…」
ローブに身を包んだ巨大な生き物…手は人の骨、足は見えずわからないけど顔は牛の骨の怪物は私の方を向くと低く重く響く声でしゃべりだす。
「見られたならば消さねばなるまい」
怪物の右の手に火の玉が宿る。そして放つ。
私はそれを躱して誘惑を使う。効いたみたいで動きを封じることに成功する。ステージフラッシュでダメージを与え、同時に光に弱いのかまぶしそうにしているのでスラッシャーVを取り出して攻撃する。
「おのれぇ!」
宙を滑るように近づいてくる怪物と距離を保つように走りながらスラッシャーVを投げつける。
埒が明かないと思ったのか一周ほどしたところで怪物は止まり、牛の頭蓋骨の口が開く。丸い火の玉が口の前に現れる。
それが放たれるのを阻止すべく顔に向かって投げると、怪物は左手をすっと挙げて見えない壁を発生させたのかスラッシャーVは何かにぶつかったかのようにして落ちる。
それを拾うために前へ出ると火の玉が発射される。予想外のスピードに私は躱しきれず直撃する。
「うぐぅ」
3割ほどHPを削られ、なおも落ちたブーメランを拾いに行く。
拾ってすぐにフックブーメランを発動する。見事に右肩辺りに当たるも突き刺さりっぱなしになってしまった。
「嘘…」
空中の敵に引っかけて落とすアーツだから前に倒れさせるとかできると思ったのに現実はそうでもないらしい。
「ぐぅわっはっはっはっは」
私の様子が楽しかったのか怪物は笑い声をあげる。
ならば、とタイタンキラーを投げつける。
「どぅふ」
おなか付近に当たり、体をくの字に曲げて少し吹き飛ぶ。すると怪物は右手に火の玉を発生させ、左手に黒色の炎を纏わせる。タイタンキラーの回収は後回しにして距離を取る。
怪物は右手と左手を合わせて合体させたそれを放つ。十分距離があったために躱すことに成功した…と思った瞬間地面に当たったそれから爆発とともに火柱が上がる。直撃は免れたものの爆風に吹き飛ばされてまたダメージを受ける。
だけど丁度いい具合に怪物側に吹き飛んだのでタイタンキラーを流れのままに回収することに成功する。
顔を上げると怪物は両手を上げてその手の先からバチバチという音が鳴っていた。
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NAME:ナギ
【ブーメラン使い】Lv22【STR増加】Lv23【幸運】Lv50【SPD増加】Lv19【言語学】Lv41【視力】Lv43【アイドル】Lv25【体術】Lv27【二刀流】Lv39【水泳】Lv22
SP30
称号 ゴブリン族のアイドル 恋に惑わされる者 ホマレの惚れ人




