ファルカナンド王国:噂のペルケステス
「おい嬢ちゃん、車掌とかなり話し込んでたみたいだが何かあったのか?」
小さい呟きに気を取られて車掌さんの方を向いていた私に小太りの男性が話しかけてくる。
「いえ、そういうわけでは」
「そうか…もしかして王都は初めてか?」
思案気な表情を作った男性は何か合点が行ったのか一つ頷いた後また私に尋ねてくる。
「ええまぁ」
「やっぱりな、だとしたら何がどこにあるかもわかんないだろ? 俺が宿屋に案内してやる、もちろん俺一人じゃない、変な疑いをかけられても困るからな、おい! ミニス!」
案内してくれるという男性に呼ばれたミニスという人は女性だった。
「はいはい! なんでしょうかおやっさん!」
元気のいい返事をするミニスさんは、くりくりとした黒い瞳にやんちゃな子供のような顔つきで「おやっさん」というセリフがあんまり似合わない。その髪は白に近い薄い水色でアップで纏めた髪は肩甲骨の真ん中に落ちるほど長くややウェーブがかかっている。
「この嬢ちゃんが王都は初めてだそうだから、宿屋まで連れてくことになった、少し遠回りするぞ、そのついで明日の配達分を今日少し配達しておこう」
「わかりました! おやっさん! よろしくお願いします! 御嬢さん!」
「よ、よろしく…」
威勢のいいミニスさんに、よろしくおねがいします、はむしろこっちのセリフで、「御嬢さん」と言われるほど歳も身分も大差ないでしょうに…と心の中で突っ込む。
発着場から王都に入る。発着場の反対側には大きな城が遠目からでもわかるほどにその存在感を示している。
中年の男性――トルーマスさん――に連れられて王都の東側にあるそこそこ大きい宿屋にたどり着く。
「さ、ここが俺のおすすめの宿だな」
「ありがとうございます」
宿まで案内してくれたトルーマスさんとミニスさんにお礼を言うと、
「また何かあったら言ってくれや、一応ここに書いてあるところに俺達の店があるから」
そう言ってトルーマスさんから簡単な地図が書かれた紙切れをもらった。それを確認した後、私のMAPにもトルーマスさんの店がマーキングされる。
別れを告げて宿の中に入り、受付のところでチェックインをすませる。あれからチェインクエストに関して何もない。と思ってひとまず部屋に入ってみる。
部屋はベッド、机と椅子、あのはクローゼットが置いてあり、部屋の窓からは外の景色を見ることができる。
何をするべきか調べる必要がありそうだと思いながらも時間が時間だったのでログアウトした。
一人での活動になってしまったので誰かと時間を合わせる必要もないので家に帰ってきてすぐにログインする。いい感じにゲーマーになってきている気がする…気のせいだと思って処理する。
どうやらクゥちゃんもすでにログインしていたみたいなので、監獄棟にいない今なら通じるかも、と思ってダメ元でコールしてみた。
『クゥちゃん』
『うぇ! ナギちゃん!? どうしてコールができるの?』
通じた。携帯電話みたいにどちらか一方が通じないところにいると不可能、ってわけではないらしい。
『さあ?』
『そう、でも通じるならお互いの状況を連絡し合えるから便利だね』
理由はよく分からないけど、そういうものだ、ってことでクゥちゃんも納得したみたいだ。だってゲームだし。
『そういえば今日第六棟の鍵がみつかったんだって、それで今多くの人が第六棟に向かってるみたい』
『そうなんだ』
『ボクはナギちゃんが帰ってくるの待ってるから、カッサ達と一緒に』
『ありがとう』
第六棟の鍵が見つかったってことはホレイーズを脱出できるってことだろうか。となると今私がここに来ている意味は…? クゥちゃん達は待ってくれてるみたいだから無理せず、でも早く元の場所に戻れるようにしないと。
とりあえず何をするべきかというアナウンスは一向に無いので、宿で情報が集まりそうな場所を尋ねてからそこへ向かう。
トルーマスさんでもいいかと思ったけど、車掌さんに色々と聞いてるのを見られてしまってるので、あんまりしつこく色々と尋ねると怪しい人と思われてしまうかもしれないと考えてやめた。
宿の主人からは酒場へ行くといいと言われたので酒場へ向かう。昼でも営業していると言っていたので問題ないはずだ。それに休暇中の看守たちがよく昼間から飲んでるらしいので好都合かもしれない。
酒場に来るとそこには屈強そうな大男から華奢な外見とは裏腹な逞しい腕の男性など、多くの男たちが酒を飲んで騒いでいた。
「おやぁ~嬢ちゃん、こんなところに何しに来たのぉ~? お兄さんたちと遊びたいなら遊んであげるよぉ~」
酒場の雰囲気等を考慮した結果、身の危険を感じたので退避。
「はぁはぁはぁ」
酒場を出てその扉の前で膝に手を突く。未だに強烈な酒のにおいが鼻にこびりついているけれど気にしている余裕もない。
「はははっ、ここは嬢ちゃんみたいな小娘にはまだ早いよ」
おそらく私のことを言っていると思われる声はすぐ近くで聞こえる。周囲を見ると一人のトルーマスさんよりも年上と思われる男性がいた。
「なんか酒場に用でもあったのか?」
「ええ、この国のことが知りたくてですね…宿で聞いたら酒場がいいというもんですから」
男性の質問に答えると男性はまたニヤッとしたかと思うと、
「かっははは! こんなお嬢ちゃんにここを紹介するたぁ宿屋の主人も悪趣味なもんだ、どこの主人かは知らんがな!」
何がそんなにおかしいのか、と思ってむすっとした表情をおじさんに向ける。
「まぁ知りたいことがあるってんならおじさんが答えてやろう、こう見えておじさん生まれも育ちも王都なのよ、最近遠くに行っちまった子供達…というより孫を想うと寂しくてなぁ、おじさんの孫もそろそろお嬢ちゃんぐらいになるはずなんだが」
としみじみと語り始める。一応尋ねたところお孫さんはせいぜい3歳くらいであることが判明した。より一層強く睨み付ける。
「若い女の子とのお話を楽しみたいだけなのに…」
もうめんどくさいので答えてくれるというならこの人でいいやと思って何を聞こうか考える。車掌さんと話してるときは思い浮かばなかった疑問が今はいくつもある。まずは、
「ペルケステス国王ってどんな人なんですか?」
エストノークの話を聞く限りは外面はいい人に見えて実は悪人、といったイメージだけど実際どうなのか確かめてみる。
「そうだなぁ…最近まで王位継承でごたごたしてたが悪い噂は聞かないから、でも悪い噂があったから王位継承でごたごたしたんだったかな?」
おじさんによると、「真実の目」を持つとされるラドムスという男が「ペルケステスは悪しき心を持っているから王にふさわしくない」としてペルケステスの弟にあたる、リーステスを推薦した。だけど弟は兄を尊敬しており、また王位に興味がなかったために結局ペルケステスが王位を継承すべきということになっていく。
しかし、そうなると今度は妹にあたるミルト姫を推薦し始め、姫もその気になるが、援護する者はおらず、姫を手籠めにしたなどと言われてラドムスは不敬罪の罪で捕まり第六棟に幽閉された。
処刑まであと少しというところで、ラドムスが「ペルケステスは王にふさわしくない」と言ったことを利用して、姫を王位につかせようと何者かが隠れて姫を操っていたのではないかとしてシルヴァートという姫の側近の男の名前が挙がり、ラドムスは開放され、代わりにシルヴァートが第六棟に幽閉されたそうだ。
「どうしてラドムスさんは釈放されたんですか?」
「ん? 元々リーステス様に肩入れした者は誰一人咎められておらぬからな、ミルト姫の件で何もなかったのなら咎めるわけにもいかなかったんだろう」
そしておじさんの話ではどうやらラドムスはホレイーズの列車の車掌の一人で、権力者への影響力は皆無に近くリーステスの時も動いていたのは貴族たちだけだったそうだ。そのことから何の後ろ盾もないミルト姫がラドムス一人の言葉で積極的に王位継承に名乗りを上げるとは考えられず、彼の発言が悪用されたと結論付けられたらしい。
ちなみにラドムスは今普通に列車の車掌をしているようだ。
――――――――――
NAME:ナギ
【ブーメラン使い】Lv22【STR増加】Lv23【幸運】Lv50【SPD増加】Lv19【言語学】Lv41【視力】Lv43【アイドル】Lv25【体術】Lv27【二刀流】Lv39【水泳】Lv22
SP30
称号 ゴブリン族のアイドル 恋に惑わされる者 ホマレの惚れ人




