ホレイーズ脱出作戦:4
【チェインクエスト③をクリアしました】
【第四棟進出:from謎の脱獄者】
第四棟最上階を安全地帯と化すことに成功した。
オスカーを撃破したことでここからの列車の安全も保障されるはずだ。
安全に監獄棟間を移動できるはずだ。
健闘を祈る。
列車が第四棟に着くのとほとんど同じころにこれらのメッセージが届く。
「ありがとうございます」
「とりあえず、成功ってことかな、ならよかった」
「お疲れ様です」
この部屋に残っているメンバーにお礼を言うとそれぞれの返事が返ってくる。
「じゃあ、列車から出ましょうか」
一人がそういうと部屋から出て列車を出る。
「お、成功したみたいだな」
「ええまあ」
「あ、ナギちゃん、よかったぁ、急に反応がなくなったからどうなっちゃったのかと思ったよ」
列車を出るとそこには元々の部屋に取り残されてしまっていたと思われる協力してくれたプレイヤーを先頭に、ノックして回って事情を知っているプレイヤーが待っていた。
「これまでの安全地帯化もナギさんが?」
「ノーコメントで」
追及に対してノーコメントを貫く。サブミッションやらが頻発しているこのイベントのおかげか、私のもその一つで安全地帯化の一要因に過ぎないと考えてくれたのか細かく追及されることもなかった。
転移ポータルを踏んで第四棟最上階へと移動する。
「ここから初めての奴も多いから、一度偵察みたいな形で戦闘メインのプレイヤーだけで少しだけ移動する、行けると判断したら生産の人達も一緒に行くことにした、戦闘メインの人一度集まってもらっていいかな」
リーダー役の人がこれからの予定を大きな声で話す。とはいえ第三棟で結構時間を使っているので、私は中途半端な時間になると考えて、ログアウトすることにした。
「とりあえず様子見に行ってくる、明日もここにいるから気にせずログアウトしていいよ、明日の集合時間は…」
そのことを話すとクゥちゃんも了解してくれる。明日の待ち合わせ時間を決めてログアウトする。
珍しく結衣ちゃんが学校を休んだので京ちゃんと二人でゲームのことを気兼ねなく話すことができた。その内容は主にイベントのことでの話が多かったけど、話が逸れては舞浜君とのことを茶化そうとしてくる京ちゃんにこのイベント中は舞浜君と一緒に行動してないことを話して牽制する。
「あら、かわいそうに…」
と言った後は触れてこなくなった。
そんな学校が終わって家に着くとクゥちゃんとの待ち合わせがあるのでログインする。
ログインしたけどまだ待ち合わせまで少し時間があるせいかクゥちゃんは来てないみたいだ。もしかしたらクゥちゃんは家に着くギリギリの時間に設定しているのかも、と思うとあまり気にしたこともなかったクゥちゃんの日常が気になってくる。今度ちょっと聞いてみようかな。
そしてメッセージが来ていた。
【チェインクエスト④:ファルカナンド王国】
君のおかげで強い運命の力に抗うことに成功した。
元凶を討つために君にしかできないことがある協力してほしい。
君をファルカナンド王国に連れて行く。
第四棟の特別な発着場に一人で来てほしい。
この発着場への入り口は脇道のどこかにあって鍵があれば入れる。
鍵は第四棟の牢屋のどこかに隠してある。
解放条件:チェインクエスト②クリア
チェインクエスト③クリア
誰かが第五棟に到着する
順不同
またチェインクエストだった。今回は一人で発着場に来い…って無理だよ。
「どうしたのナギちゃん? 考え込んで」
私が考え込んでいるとクゥちゃんがやって来たみたいだ。
「いや、またクエストがあって…」
そのことを話すとクゥちゃんも険しい表情になる。
「うーん、まず第四棟のモンスターがそこそこ強いってことと、ゾンビ系どうするの? ってことと、牢屋にしても脇道にしても探すのが大変、ってことの三つが大きな問題かもね」
クゥちゃんは冷静にこのクエストを実行するうえで私の脅威となる点を指摘してくれる。
「それに今のところ脇道を入念に調べている人は少ないし、第二棟くらいまでしかいないんじゃないかな?」
「となると?」
「カッサに頼めばって思うけど…ログイン中みたいだからメッセージ送ってもね」
今日中には無理といった表情をクゥちゃんは作る。このイベントでの遠方との連絡手段はメッセージしかなく、それもログイン中は見ることができない。
「それかここに来ている斥候役の人に協力をお願いするか…」
「俺達の力を借りるか…だな」
代案を出すクゥちゃんの後に誰かが割り込んでくる。振り返ると知ってる人達がいた。
「ジェットさん!」
「ナギちゃん久しぶり、会いたかったよ!」
抱き付こうとしてくるジェットさんを躱し、その後ろにいる人に目をやる。スカイさんとローエスさんだ。
「久しぶりー、いやぁいつ以来だっけ?」
スカイさんは笑顔で話しかけてくる。
「で、なんか困ってるみたいだったが、話を聞いてる限り宝探しをするみたいだが」
ローエスさんが珍しく真剣な表情で真面目に話を進めていこうとしている。
ジェットさん達にも事情を話す。
「一人で発着場…ってことは入り口の前まではみんな一緒でいいってことじゃないか?」
話を聞いていたローエスさんが疑問を投げかける。確かにそうかもしれない、と全員が考える。
「となるとまずは鍵探しか、そして脇道…、時間がかかりそうだなこりゃ」
ジェットさんが頭を掻きむしる。
「二手に分かれても連絡取れないし地道にやるしかないでしょ、時間がかかるんだからさっさと行動しよう」
スカイさんの言うことにみんな頷いて行動に移る。
「とりあえず、ほれ、デコイもちの紙飛行機だ、一応持っておけ」
ローエスさんから紙飛行機を渡される。その光景が意外なのかジェットさんとスカイさんは目を丸くする。
「俺達なんて必要だから使っただけでも怒るくせに…」
スカイさんのその小さな呟きは私の耳には届いていた。
1階層ずつ虱潰しに牢屋、脇道両方を調べていく。ただそれだけでも1階を調べるだけでも相当時間がかかる。
忘れてるかもしれないけど一棟は全30階。最上階は元々看守たちの部屋ということもあってかだだっ広い部屋でしかなく調べる必要はないけれど、それでも29階分調べなければならない。
「他に協力者がいてくれるといい気がするんだけど…いい連絡手段もないしなぁ」
2階層目の探索を始めたばかりのところでジェットさんがもうギブアップモードだ。途方もない探索活動に嫌気がさしている。
一度だけ進行中と集団とばったり遭遇して何をやってるのかと不思議な目で見られた気がする。多分サブミッションだとでも思われてるんだろうけど。
戦闘も何度か行っている。ジェットさんとスカイさん、クゥちゃんと攻撃型のプレイヤーばかりなので殲滅は早い。そして私はゾンビ系にはまだ慣れてない。
「うぅぅぅ」
「弱ったナギちゃんもかわいいね…うぉ!」
ジェットさんのいつもの調子も今の私にとっては気分の悪さを加速させるだけだ。しかし番犬ならぬ…番虎? と化したクゥちゃんがおよそVRとは思えない殺気を放って牽制している。時々殴ってる気がするけど気のせいだと思う。
2階層目の探索を終えて収穫なし…というわけではないけど、クエストに関する進展はない。たまに入手するアイテムは全てローエスさん行き。がらくたが多くてローエスさんによって生まれ変わって壊れ性能になっていただく方がいいだろう、という判断だ。
3階層目を終えたところで私はご飯の時間が近づく。みんなは時間が許す限り探索してくれるというので、ご飯を食べたらすぐ戻ることを約束してログアウトした。
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NAME:ナギ
【ブーメラン使い】Lv20【STR増加】Lv21【幸運】Lv50【SPD増加】Lv18【言語学】Lv41【視力】Lv43【アイドル】Lv23【体術】Lv27【二刀流】Lv37【水泳】Lv22
SP30
称号 ゴブリン族のアイドル 恋に惑わされる者 ホマレの惚れ人