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ナギ記  作者: 竜顔
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ホレイーズ脱出作戦:オスカー

 これまでよりも明らかに遅いペースで進行している。休憩も多く、その度に生産系のプレイヤーが武具の修復に回復アイテムの供給、料理の提供などで忙しくなっている。


 そういったことをやりながら、見事に脱落者なく発着場までたどり着いた。第三棟から第四棟へと向かう列車では死に戻ることはないみたいで、何か起こるといえばただ部屋の照明が急に暗くなるくらいだそうだ。


 だけどわざわざ廊下に出てどうなってるか確認するような人はいないみたいだ。あくまで「部屋に籠る」こそ列車で最も安全なことだという考えが浸透している。


 私とクゥちゃんはいつも通り二人で一部屋だ。二人で部屋に入って、さあ次の発着場までゆっくりしようと思っていた矢先だった。



【チェインクエスト③:オスカーを探せ】


列車が第四棟に着く前に

列車のどこかの部屋にいるオスカーを探して倒せ。

解放条件:チェインクエスト②クリア

     第三棟~第四棟の列車の部屋に入る

クリア方法:千本ノックの時間だ!



 新たなクエストが表示される。


「またクエストだよ…」


「そうなんだ、ボクの方には何もないみたいだね」


 呆れたようにしてクゥちゃんに告げた後、制限時間があるのでゆっくりすることもなくクエストに向かおうと、ドアを開ける。


「クゥちゃん…」


「ん?」


「ついてきてもらっていいですか?」


 廊下は尋常でないくらい真っ暗で、【視力】のスキルを持つ私でもさっぱり何も見えなかった。クゥちゃんに助けを求めたのは決して怖いからではなく、【感知】のスキルが必要だと思ったからだ。決して怖いわけではない! 断じてそんなことはない!


「いいよ」


 クゥちゃんは変だと思うこともなかったのか普通に返事が返ってくる。怖くなんてないさ。


 クゥちゃんと一緒で恐怖心が和らいだ私は――元から怖くないけど、ほら、所詮ゲームだし?――廊下に出て散策する。


「部屋の中に人がいるとかわかる?」


「うん、わかるよ」


 クゥちゃんの返答にホッとする。もしそれがなかったらクゥちゃんは戦闘の部分も含めての精神安定剤でしかなくなるところだった。


「で? クエストって何するの? 人を廊下に出して行けばいいの?」


 クゥちゃんが問いかけてくるので、声がする方を見ると真っ暗闇。声の感じから至近距離にいるはずなのに姿が見えないとはクゥちゃんを連れてきた意味が…そばにいるだけでも大事。


 クゥちゃんにクエストの内容を伝える。


「そうなんだ、でも部屋に人がいるとわかっててもそれがプレイヤーなのか、ってまでは列車の中じゃわからないんだよね」


 内容を聞いてクゥちゃんは自分のスキルがあてにされたと気づいたみたいだ。しかしすべてが思い通り、というわけにはいかないみたいだ。


「この部屋には人が一人いるみたいだね、で、どうする? ノックしたところで出てきてくれるとは思わないけど」


 クゥちゃんに指摘されて今更ながら気づく。「部屋に籠る」がセオリーの列車でノックした程度で出てきてくれるかは謎だ。


「あ、でも鍵ってついてなかったよね、第一棟では先手を取りやすくするためにノックしたのかもしれないけど、私達なら強行突入すればいいんじゃない?」


 きっと今のクゥちゃんはいたずらを思いついた子供のような表情をしているに違いない。


「じゃあボクが前だね、行くよ? 3、2、1、ドーン……?」


 先手を取れるように私はダガーを構えてクゥちゃんがドアを開ける…はずだったけど、ドアは開かなかった。


「もしかしてだけどさ、車掌さんから部屋が割り当てられるのってさ、何か力を振り分けられてるんじゃ…ドアを開けるための」


 要するにその部屋を割り当てられた人にしかドアを開けられないのでは、ということだ。


「…みたいだね」


 クゥちゃんからは力のない返事が返ってくる。突き破ってみることも考えたけど、全部の部屋そんなことしてる余裕はなさそうなのでやめた。


 コンコン


 素直にノックする。しかし返事は返ってこない。警戒されているんだろう。


「多分声は聞こえると思うんだよね、だからプレイヤーにしか通じないような話題があれば判別できると思うんだけど」


 初めてエストノークと会った時のことを思い出す。クゥちゃんが開けてと叫んでると思ったからドアを開けたら…だったことを考えると声は届くはずだ。


 そしてプレイヤーじゃないとわかったらドアを突き破ればいい。


「今ならナギちゃんとツーショットが撮れますよ!」


「え?」


 ガタガタ!


「え?」


 クゥちゃんの発言と部屋の中の様子に私はきょとんとする。


 ガチャ


「それは本当か!?」


 出てきたのは男性だった。


「はい、画像珠はありますか?」


「持ってねぇ! スクショは?」


「それじゃツーショットにならないじゃないですか」


「くそ! って何やってるんですか?」


 急に丁寧な口調になる男性。てか「何やってるんですか」はこっちが聞きたい。


 一応事情を説明して穏便に去っていく。


 それから次々に部屋を訪ねていく。ドア越しに会話をしたりしてプレイヤーかどうかを探っていく。


 そしてついに到達する。


「鍵は開いている、入れ」


 ノックをした時の返事が明らかに違う。


「失礼します」


 言われた通り中に入る。内心こんなことなら色々と精神を削らなくてよかったのにと思う。


 部屋は電気がついていないけど、なぜか窓がありそこからは月明かりが漏れていてわずかに部屋を照らしていた。


「ん? 誰だ貴様らは?」


 月明かりが漏れる窓際にいる赤い髪に真っ黒な肌で、人間というより悪魔に見える男が口を開く。


「人に名前を聞くならまずは自分が名乗るべきでは?」


 ドアをノックした後事情を説明すると、もう時間がないじゃないか、と協力してくれる人がいた。今答えたのもそのうちの一人だ。


「フハハ、それもそうだな、我が名はオスカー、とある命を受けて第六棟に向かっている! 邪魔立てするというならここで消えてもらうぞ」


 暗い部屋に黒い肌と見えづらい姿の男が右手を掲げる。それに反応して前衛の人達が前に駆け出す。


「ザ・ナイト!」


 オスカーがそう叫ぶとさっきまで月明かりでわずかな光があった部屋は、廊下同様真っ暗闇になってしまい、何も見えない。


「何! 何故貴様!?」


 だけど問題ない。廊下での戦闘になる可能性も考えて【感知】系スキル持ちの人も連れてきている。


 私のクエストのはずだけど、こうなっては戦いようがないので他人に任せる。しかし戦闘音を聞きながらいつでも戦えるように集中だけは切らさない。


 パチン


 指を鳴らす音が聞こえたと思うと部屋の電気がついて明るくなる。


「あれ?」


「ハーハッハッハッハ!! その程度でやられるほど甘くないわ!」


 得意顔で高らかに笑い声をあげるオスカー。そして部屋には【感知】系スキルを持たないプレイヤーしかいなくなっていた。


「俺達がどこかに飛ばされただけのはずだ、窓がなくなってる」


 部屋を注意深く観察していた協力者のプレイヤーの言うとおり部屋の窓がなくなっていた。


「ぬぉ!」


 状況が分かったので素早く切り替え【誘惑】でオスカーの動きを封じる。その隙に一斉に攻撃が始まる。


「ふぐぅ、貴様らぁ…」


 オスカーの右手に火の玉が現れる。しかしそれを放つ隙を与えず私はダガーを手首めがけて投げる。


「ぬぁ」


 見事に命中し火の玉が消える。前衛の人達が駆け寄り追撃する。


「うぉぉぉおあああああアアアアア!!!」


 オスカーは助けを求めるように右手を天井に向けて差し出し、体からは黒い煙(?)が吹き出してオスカーの身体が消えていく。


 そして最後には醜い人形がそこに残った。



【邪心の人形】

効果:闇属性吸収


邪悪な心を注ぐことで命を持って動き始める人形。某国の王の所持品。



 人形を拾うとちょうど第四棟につくところだった。


――――――――――

NAME:ナギ

 【ブーメラン使い】Lv19【STR増加】Lv20【幸運】Lv50【SPD増加】Lv17【言語学】Lv41【視力】Lv43【アイドル】Lv22【体術】Lv27【二刀流】Lv36【水泳】Lv22


 SP28


称号 ゴブリン族のアイドル 恋に惑わされる者 ホマレの惚れ人

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