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ナギ記  作者: 竜顔
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ホレイーズ脱出作戦:第三棟

 早速攻撃を仕掛けるも即死判定は出なかったので、この効果が力を貸してくれるわけではないらしい。そしてどうやら私の姿を明確に確認できていないみたいで剣もただやみくもに振っているだけに見える。


 それでも…というかだからこそ余計に厄介だった。


 一度目は剣を落とさせてしまうと的確に私の心臓を一突きしてきて即死、二度目は脚が絡まって転んだところに丁度その振り回してる剣がジャストミート、そこからの連撃で倒された。


 そして三度目、ついに剣をぶんどることに成功した。私はHPを削られることなくその剣を持つことができている。むしろ剣にHPバーが表示されてそれが徐々に減っている。


 【闇夜の衣】の効果不明の部分が影響しているのかもしれないけど確認する余裕はない。HPは削られていないけど徐々に足に力が入らなくなって膝をつく。


 パリィィィン!


 しばらくするとそんな破裂音とともにHPバーが空になった剣が割れる。


 そして立ったまま無表情だったエストノークが口から黒い何かを吐き出すと同時に直立した状態を保ったまま後ろに倒れる。


 片膝をついていたことと、彼まで少し距離があったこともあって私は彼を支えるのに間に合わなかった。地面に頭を打ち付けた彼に若干の申し訳なさと気まずさを持って近づく。


 どうやら意識もあるようで呼吸も整っている。


「…すまない、助かった」


 エストノークは力なく呟く。耳を近づけなければその口から漏れる言葉が聞き取れないほどだ。


「く…身の丈に合わぬ者に恋した末路か」


 彼の表情には哀愁が漂う。


「どうかしたんですか?」


「全て終わった…いや、失ってしまった、利用されたんだ…俺は」


 私の問いに彼は淡々と答える。エストノークによると彼は貴族の令嬢と恋に落ちて当然のように向こうの親から反対されていたらしい。


 ところが現国王である「ペルケステス」さんがその噂を聞きつけて、依頼に応えたらエストノークを令嬢よりも上の位の貴族として迎え、結婚を認めさせるどころか国を挙げて歓迎してくれるとまで言ってくれたそうだ。


 彼はそれに喜び国王の依頼を受けたらしい。その依頼はとある囚人の開放の援助として第三棟で暴れ回ってほしいとの内容だったそうだ。何か変だと思っていたけれど王位継承のごたごたがあったばかりだからその関連でいわれのない罪で捕まった人を開放するのかな、と気に留めなかったそうだ。


 そして同時に任されたのがとある人の殺害だそうだ。それは看守の人だったみたいだけど、王曰く「罪のない人間にひどい仕打ちをしている情報を掴んだ」とのことで、それの隠蔽を計りたいのかと思って忠義を尽くすと思ってそれも了承したそうだ。


 そのための武器として渡されたのがああの剣【狂死の剣】と言われる武器だそうであの剣を持つ者は死ぬまで狂い続けるんだそうだ。


「なぜそんな噂の剣を持ったんですか?」


「手に持つまでわからなかったんだ…手に持って分かったんだよ」


 エストノークによるとあの剣は殺意を持つ者に共鳴して力を与えるらしく、それと同時に精神を蝕んでいくそうだ。そして狂人と化す。剣を落とすと嬉々として猛スピードで心臓を突いてくるのはそのせいだろう。


 話を戻して、指定された場所でその武器を入手した彼は自分の意志に反して剣を振り回し始めた。そして異常を察知して駆け寄る仲間も、牢屋の檻を壊した拍子に出てきた囚人も関係なく斬り捨てていったそうだ。


 標的となっていたのはこの第三棟の偉い看守さんみたいで、最上階まで駆け上がってその人も殺したそうだ。そしてそれから裏の発着場からやってきた人々を次々と斬り捨て、その最中で何が起こっているのか分かったらしい。


 現国王「ペルケステス」は狂っていて、自分はそれに利用されたのだと。裏の発着場からやってくる人々は王都の人々だったそうだ。


「きっと王都も壊れているんだろう…そして彼女も、……どれくらい時がたったのかもわからないが、どこの誰かもわからないけどありがとう、感謝するよ…」


 彼は目を閉じた。


【狂死の剣を破壊しました】


【闇夜の衣が消滅しました】


【チェインクエスト②をクリアしました】


 と目の前にログが流れる。①はどうなってるのかわからないけど②をクリアしたみたいだ。いつの間にか闇夜の衣も消えている。


 もう一度エストノークに顔を近づけてみるとただ彼は眠っているだけのようだ。


 ホッとしたのも束の間周囲の空間が歪み視界が真っ暗になる。


 気づくと列車の中だった。



【第二棟脱出:From謎の脱獄者】


第三棟の最上階を安全地帯とすることに成功した。

第三棟から敵の強さが上がるが君達なら進めるはずだ。

健闘を祈る。



 ふむ、どうやら第三棟の最上階も安全地帯にできたみたいだ。


「やったみたいだねナギちゃん、また戻ってきたから失敗したのかと思っちゃったよ」


 そこにはクゥちゃんがいた。エストノーク戦の二度の失敗ではやられる度にこの列車の部屋にクゥちゃんとともに強制送還されて、クゥちゃんが廊下に出てドアを閉めて私は部屋で待つということを繰り返したので、またか、と思うのも当然だ。


「まぁね、なんか悲しいお話みたいなのも聞けたし」


「そうなんだ、実はボクの方でも色々やってたんだ、ナギちゃんとは違うクエスト的な物」


 クゥちゃんから驚きの話が、なんでもサブミッションとかいって受けさせられたみたいだ。


「毎回連れ去られて強制的にミッションやらせれて、結構いい感じってところで気づけば列車で…」


 とクゥちゃんがどんよりした空気を漂わせる。なるほど、どおりで二度目の失敗の時なんか雰囲気が尖ってたのか。


「ご、ごめんね」


「いやいいんだけどね」


 列車が発着場に着いたので降りる。転移ポータルを踏んだ先には剣を振り回す男性が…いなかった。当然プレイヤーが集まってるだけだった。


 結構時間を使ってしまってたので、クゥちゃんと明日の集合時間を確認してログアウトした。




 家に帰ってクゥちゃんとの待ち合わせまで時間があったので少し掲示板を覗く。サブミッションのことやら先の棟の話、エストノークのことも書いてあった。エストノークに関しては助けてと言いながら剣を振り回している奴がいる、ってくらいで私が体験したようなことを書いている人はいなかった。


 時間になったのでログイン――


「お、来た来た、ちょうど行進隊が出発するみたいだよ」


 ということなので早速第三棟の行進隊に入っていく。


「カッサは今舞浜と一緒に脇道に何があるのか探索してるみたいだね、他の斥候プレイヤー達と楽しくしてるみたいだよ」


「そうなんだ」


 クゥちゃんがカッサ達の情報を教えてくれる。私はメッセージも送ってないし、舞浜君とはリアルで会話ゼロなので二人とは疎遠になっているけど、クゥちゃんはこまめに連絡を取っていたみたいだ。


 第三棟からモンスターが強くなるといってもその分人数を他の棟の時より多くしていることもあって割と発着場まで脱落者なくたどり着けるようになったらしい。モンスターが強くなろうとゾンビ系が苦手な私は人数の多さに甘えて中央辺りをキープしているので変わらずクゥちゃんとおしゃべりができる。


 周りからの戦えよオーラはあんまりない。寧ろもしもの時に備えて温存してると思われている節がある気がするので、そのもしもの時に「戦えない」とか言ったら大変なことになりそうだ、ともしもの時が来ないことを祈りながら歩いていく。


――――――――――

NAME:ナギ

 【ブーメラン使い】Lv19【STR増加】Lv20【幸運】Lv50【SPD増加】Lv17【言語学】Lv41【視力】Lv41【アイドル】Lv21【体術】Lv27【二刀流】Lv36【水泳】Lv22


 SP28


称号 ゴブリン族のアイドル 恋に惑わされる者 ホマレの惚れ人

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