ホレイーズ脱出作戦:エストノーク
第二棟の最上階が安全地帯になった。その意味がよく分からなかったけど、どうやら第二棟の最上階も死に戻り場所として選択できるようになったみたいだ。
「登録制じゃないのは助かるな」
とは第三棟からここに死に戻ってきた人の言葉だ。登録制じゃないということは第一棟に戻りたければそっちに死に戻ることができるということ。
そういった処置がとられているということはもしかしたらこの状況に至るまでに何かを見落として先に進んでしまう危険性があると考えられているんだろう。そのうちまた前の棟に戻る必要性がでてくるかもしれない。
とにかく、第二棟に死に戻ってきた人達を吸収して先に進んでいく。
先ほど手に入れた布は装備可能みたいで装備してみたけど特に変化はなかった。クゥちゃんの予想では次の列車の後で役に立つはずということなので、その時までインベントリの中だ。
人が増えたので集団の中央を陣取ってゾンビを見ないように細心の注意を払う。その最中に生産系のプレイヤーとも少しイベントのことで情報交換した。やはり物資の節約のために売買や修復を渋る生産系プレイヤーも増えてきたみたいで、トッププレイヤー以外の特に攻略組はこれから苦しくなっていくだろうとのことだ。
第一棟よりも(体感では)早く列車の停車場に着く。ゾンビを見なくて済んだので気分もなかなか爽快だ。
列車では二人部屋。今回は最初からクゥちゃんが部屋の外に出るということになった。それなら別々の部屋でもいいような気がしたけど、これまで二人部屋の時に何かがあるのでそこは変えなかった。
まぁ列車が出発して気づいたんだけどこれ、いつクゥちゃんがいなくなったかわからないよね。昨日の二回目も結局列車が第三棟に着くまでクゥちゃんがどうなったかわからなかったから余計に今回は条件を満たしてないんじゃないかとか考えてしまった。
列車が停車したので部屋のドアを開けて廊下に出る。
ん? 明るい?
廊下の窓からは太陽の光が差し込み明るくなっていた。薄暗く黒と紫ばかりが目に入っていた今回のイベントとあまりに違う光景にある種の恐怖を感じる。もしかして元の世界に戻れないんじゃないかとか。
まぁそんなことはないみたいだけどね。
列車を降りると車掌さんが見送ってくれる。のっぺらぼうだった筈の車掌さんも若い好青年に変わっていた。
「どうかなさいましたか?」
優しく微笑み尋ねてくる車掌さんに「別に」とだけ答えて周囲を見る。後ろを振り返っても列車と暗闇しかなかったはずの停車場も青い空と列車の後ろには黄土色の壁が見えている。
監獄棟に目を移せば大きな入口があり転移ポータルは見当たらない。そして壁の色は黄土色だ。
で、予想と違い過ぎて何をすればいいのかわからないんだけど。
もう一度車掌さんを見る。とりあえずここがどこなのかということだけでも聞きたいんだけど。第三棟なら何か関係があるのかもしれないし。
「その目に見える物が全てとは限りません、それはつまり、見れば一部を知ることができるということでしょう」
車掌さんは私の考えが分かったのか、よくわからないことを言う。見ていけって意味でとって大丈夫だろうか。
入口から監獄棟へと入る。囚人たちが私を見てくるけれど気にせずに先へと進んでいく。警戒はするけれどモンスターはおらず、看守たちは私に気づかないのか素通りしていく。よく見れば囚人たちも私を見ているわけでもなさそうだ。
となれば何故車掌さんに私が見えていたのか不思議だけど、今は先を急ぐ。
途中の看守たちの話を聞く限りここが第三棟であることが分かった。そして監獄棟には表と裏があるみたいで表の列車の発着場には入口が構えてあり、裏手の列車の発着場は転移ポータルが設置してあるとのこと。
これが本当ならイベントでは監獄棟の表から次の棟の裏に到着していることになる。だけどこの状況下では列車は表から表のみつながっているみたいで裏は使われていないらしい。
裏が作られたのはもしもの時に上と下から挟み撃ちにできるようにということみたいだ。イベントを思い返すと裏の発着場からだと転移ポータルに乗ったらその棟の最上階になるので、なるほどそういう理由かと納得する。
今回のイベントは理由付けがされているし、変に世界観を壊してこないとは…運営らしくない。
第三棟の最上階に到着する。最上階はどうやら看守たちの部屋ということのようで、書類の処理をしている人やただくつろいでいる人もいる。そして私に気づく人はいない。
そこでふと一人の看守に目が留まる。あの剣を振り回している人にそっくりだった。私はその彼に近づいて観察する。
「おいエストノーク、指令だ」
剣を振り回す人そっくりな看守――エストノークというらしい――に一人の看守が近づき小さな声で何かを話している。エストノークの近くには誰もおらず、他の看守たちはこちらに全く注意を向けていない。
「例のアレは前話した通りだ、わかってるな? これが成功すれば俺達も貴族に一歩近づく、そしたらお前…」
「言わなくていい、分かってる」
「じゃあな」
「ああ」
怪しい会話を終えた後、話しかけてきた看守はエストノークから離れていく。
【闇夜の衣】
誰でも装備可
効果:隠密(暗闇・影)
暗殺(隠密中は即死攻撃)
????
某国の暗殺者が纏っていた衣。
それとほぼ同時に私の手にさっきまで何もわからなかった衣が現れて情報が読み取れるようになり、メッセージが届く。
【チェインクエスト②:狂乱のエストノーク】
暴走するエストノークを止めろ。
解放条件:一度以上狂乱のエストノークと遭遇
闇夜の衣所持
エストノークの過去と遭遇
順不同
クリア方法:闇夜の衣が力を貸してくれるはずだ
どうやら剣を振り回してるのはこのエストノークで間違いないみたいだ。そのメッセージを確認すると、エストノークに別の看守が近づいてきて
「準備はいいか?」
と聞いてくる。エストノークは返答に困っているので試しに私が「いいよ」というと
「ああ、いいよ」
エストノークは私と同じ返答を看守に返す。すると私は光に包まれまぶしさに目を閉じる。再び目を開けると列車の部屋の中だった。
「あれ? ナギちゃんどうしてここに?」
「クゥちゃんこそ」
そこにはクゥちゃんもいた。
「さっきまで第二棟でナギちゃんが死に戻ってくるかもって待ってたんだけど」
どうやらクゥちゃんの様子から本物だということがわかる。そして私も状況を話す。説明が全て終わらないうちにふっと空気が変わる。だからできるだけ短く話す。
「近づいてくる様子はないけど何かいるみたい、じゃあ私が外に出てドアを閉めるね」
クゥちゃんによるとおそらくこれはあの場所へと導くための強制的な物だろうということで、私が頷くとあの場所へとたどり着いたときの状況を再現する。
ドアはノックされることなく列車が停車場に着いたのが分かった時に廊下に出る。
「どうやら君一人になってしまったみたいだねぇ」
のっぺらぼうの車掌さんからお言葉を頂戴し、【闇夜の衣】を纏う。何もわからない時は他の装備と変更するタイプだったのに、他の装備の上から装備できる。そして転移ポータルを踏む。
そこには剣を振り回すエストノークがいた。しかし大声で叫ぶことがなくこれまでと様子が違う。
まぁ、どちらにせよ彼を止めなければならないことに変わりはない。
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NAME:ナギ
【ブーメラン使い】Lv19【STR増加】Lv20【幸運】Lv50【SPD増加】Lv17【言語学】Lv41【視力】Lv41【アイドル】Lv21【体術】Lv27【二刀流】Lv36【水泳】Lv22
SP28
称号 ゴブリン族のアイドル 恋に惑わされる者 ホマレの惚れ人




