ホレイーズ脱出作戦:三度目
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本当に皆様ありがとうございます。
あの手この手で死に戻りさせようと必死なイベントではあるけれど、そんな仕様のせいかデスペナルティはない。
私達同様すでに二度死に戻ってる人も多く、そしてもう一斉に集まって進もうという予定はない。つまりここから集まるのは自主的に、ということだ。
とはいえせっかちな人以外は人が集まり次第一緒に行こうとあちこちに呼びかけている。なのでまたしばらくすれば大勢による行進が始まるだろう。
それよりも問題なのは
「さっきの戦いで結構消耗しちゃったなぁ」
「さっき言ってた狂ってる人との戦闘で?」
「うん」
先ほどの戦いでの消耗は結局無駄になってしまった。あれに使った回復薬とダガーを返してほしいと思うのも仕方ないことだろう。
「にしても今回のイベントいろんな意味で難しいね、ナギちゃんの話を聞く限りただ進むだけがゴールじゃないみたいだし」
顎に手を当て考える素振りをしながらクゥちゃんはこのイベントの現段階での感想を述べる。
それから死に戻ってきた生産プレイヤーから回復薬を調達しながら次の出発の合図を待つ。徐々に死に戻ってくる人も増えている。
「ああ! くそ! ここ第一棟かよ! せっかく第三棟まで行ったのにどうなってんだ!」
死に戻ってきた人の中にはそうやって叫ぶ人もいる。もしかしたら何か方法があるのかもしれないけど今のところどこまで進んでもHPが0になったらリセットだ。
そして戻ってきた人達によると第三棟から急にモンスターが強くなり始めるみたいで生産プレイヤーだけではなく戦闘メインのプレイヤーも死に戻ってきている。
だけど私のような体験をした人は誰もいない。そもそも「部屋に籠る」が列車で安全に移動するための鉄則となっているので廊下に出るような人がいなかった。
「どうする? 次もまたそれに挑戦してみる? なんかありそうだよ」
クゥちゃんは私の体験が何かこのイベントのカギを握ってるんじゃないかと睨んでいる様子。
「そうなるとまた死に戻ってきちゃうね」
「デスペナルティはないけど地味に装備の耐久度は減ってるから困るよね」
なんて話しながら今の状況を考える。
まるで兵糧攻めにあっているかのような状況だ。このままでは下手をすれば物資枯渇で何もできなくなってしまう。アンデット系モンスターのゾンビ連中が落とす素材は使い物にならないみたいで、物資の補給は骸骨達に頼らざるを得ない。
幸い骸骨の落とす素材から回復薬を作るレシピが存在するようなので回復薬が今すぐに枯渇する可能性は低いと考えて大丈夫だろう。だけどこのままでは結局強い人以外誰も脱出できない気がする。
現状うまく進めてない私達だからいっそのこと寄り道するのもいいのかもしれない。
「気になるからそうしてみよっか」
私はクゥちゃんの提案に乗ることにした。
それからしばらくすると人数も集まったみたいで再び集団となって進んでいく。まるでデジャヴのようだと思いながら私は変わらず集団の中央に行きゾンビを極力見ないように心掛ける。
ほとんどの人が二度目、あるいは私達同様三度目ということもあってスムーズに進み、こんなに早いんだっけ? と思ってしまうぐらいあっという間に列車の発着場までたどり着いた。
部屋に籠るように、と面倒見のよさそうな人達から注意を促されて列車に乗り込む。今回も二人で一部屋。念のために言っておくけど一人一部屋ができないわけじゃないからね。
「で、この列車ではどうする? 籠る?」
「迎え撃ってみようか、何かあるかもしれないし」
「そうだね」
なんて話をして気が付けば第二棟。
「また何もなかったね…」
クゥちゃんは何か残念そうな空気を漂わせている。他の人の中にはノックされたという人もいるので偶然私達の部屋を通らなかったんだろう。
気を取り直して第二棟を進む。時々先行していたせっかちな人達を吸収していきながら第二棟の列車の停車場まで着く。
「ここからだね」
「必ず遭遇するとは限らないみたいだけどね」
気を引き締めるクゥちゃんとは違い私は苦笑いしながら列車に乗り込む。今回はもしクゥちゃんのレーダーに反応があったらクゥちゃんが真っ先に廊下に出て部屋のドアを閉める、という作戦だ。
列車は廊下に出れば窓があるけれど窓の外は真っ暗闇だ。部屋には窓がなく光源は部屋の電気のみ。
しばらくしたらフッと空気が変わる。そして
「来た…じゃあ行ってくるね」
今度は私達のところにも来たみたいで、クゥちゃんは廊下に出て部屋のドアを閉める。
それから何も起こらない。全く同じ条件じゃないと発動しないんだろうか、と不安になりながら時を待つ。
何も起こらず列車は第三棟に着いたみたいだ。部屋を出る、だけどそれがいかに異様かは冷静な今ならばよく分かる。
「どうやら君一人になってしまったみたいだねぇ」
車掌さんが言うとおり他には誰もいなかった。狙いはうまくいったと思いながら転移ポータルを踏む。
「うわぁあああああ!! 助けてくれえええぇぇぇぇ!!!」
これも全く変わらない。
「とまらねぇんだよぉぉおおお!!」
そう言って剣を振り回す男性を見ながら、止めたら殺しに来るでしょうが、とか思いながら一振り一振りを躱していく。
剣を叩き落とすとやられる。あれは油断しているしていないにかかわらず対応できるスピードじゃない。だからといってずっとこのままで止まるとは思えない。普通にモンスターと考えて戦った方がいいのかもしれない。
と思って早速攻撃に転じる。だけどやはりノンストップで斬りかかってくる男性に段々と押され気味になっていく。
「たずげでぇ、だずげでぇ」
とてもそう思っているとは思えないくらい猛々しく剣を振り回して攻撃してくる。戦うのは諦めて躱すことに専念する。どうも普通に戦っても勝てる気がしないし、なにやらあの剣が気になる。あれで操られてるのかと思ってたけど叩き落としたらやられるし、もしかしたら乗っ取られてるだけかも?
前と同じようにやっていては何も変わらないと考えて行動に移す。男性の懐に入り込み振り下ろされた剣を受け止める。そして思い切りぶんどる。
「ぅぐ…」
HPがゴリゴリと削られていき、体に力が入らなくなっていく。だけど
「止まってる」
男性は止まっていた。意識はないみたいだけど剣を振り下ろす格好のまま立った状態でとまっていた。
HPが削りきられないように剣を手放そうとするけどできず、HPの残りが3分の1くらいになった時に体が勝手に動き始め剣を振り回し始める。満腹度や渇水度も減っていき、そのままHPが尽きて死に戻った。
「――どうだった?」
死に戻ってすぐ待っていたクゥちゃんが丁度私を見つけて話しかけてきた。
「ダメだったみたい…それと前の時とちょっと違ったけどクゥちゃんの方もなんか違った?」
私は今回の報告とクゥちゃんがどうなったかも聞いてみる。
「ボクも今回はちょっと違ったかな、挟み撃ち攻撃されたし」
やっぱりクゥちゃんの方も少し違ったようだ。
これから人がまた集まるのを待っていたら夜ご飯の時間になってしまうので、私はそのままログアウトした。
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NAME:ナギ
【ブーメラン使い】Lv19【STR増加】Lv20【幸運】Lv50【SPD増加】Lv17【言語学】Lv41【視力】Lv41【アイドル】Lv21【体術】Lv27【二刀流】Lv36【水泳】Lv22
SP28
称号 ゴブリン族のアイドル 恋に惑わされる者 ホマレの惚れ人