ホレイーズ脱出作戦:改めて
大幅に遅れてすいません。
大勢の人で集まって行進しよう、という試みの第二陣はすでに出発していた。なので死に戻ってきた人はその次の第三の行進部隊に参加する人がほとんどで、再び準備をする人やまだ出発していない人に先の情報を伝えている。
そしてこの安全地帯においてもチャット類は使えないことが判明した。中には故障かなと思って仲間への連絡をどうしようかと悩んでいた人もいて、改めてこのイベントがランダムで団体の分断を行っているということがわかる。
「そろそろ列車が次の棟に着くころだね、あっちはどう思ってるんだろう」
クゥちゃんは首を傾げて先に進んでいる人達のことを考えている。
「もしかしてそこでも今いない人を待つか待たないかで分断ってことはないよね?」
「それもあるかもね」
私の考えにクゥちゃんも頷く。考え始めたらあらゆるところに「全員で一緒に」を壊そうとしてきている。
時間になったので脱出作戦の第三部隊が出発する。先ほどの反省を踏まえて私は最初から集団の中央付近をキープする。中央付近にいると戦うこともなくただ集団で歩くだけなので遠足気分になる。
死に戻ってきたプレイヤーが中心となって先導し、先ほどよりも時間も短く最下層の列車の停車場にたどり着いた。
「ここから気を付けてください!」
そうやって死に戻ってきたプレイヤーが注意をしながら一人一人列車に乗り込むのを見送っている。私達も一応死に戻ってきた側の人間だけど、注意を聞いて乗り込む。
今度もクゥちゃんと二人で同じ部屋だ。
列車が次の棟に着く時間は約20分。ゲームとしては結構長いと思うかもしれないけど、一応列車は安全なログアウト場所になっているようで時間がないならログアウトしてもいい。でもあんなことがあっては安心なんかできないだろうけど。
……ついてしまった。何事もなく。
第二棟着く。停車場には転移ポータルがあり、どうやらそこから第二棟の最上階に上がるらしい。
第二棟の最上階に移るとメッセージに載っていた「ここから外に向かう列車しか動いていない」というのは半分本当で半分嘘だったことがわかる。半分嘘というのはさっきの列車はまた第一棟に戻るみたいなのでその列車に乗れば第一棟に戻ることはできるはずだ。
そして半分本当というのは第二棟の最上階には転移ポータルはない。つまり一度ここに来てしまえばもう第一棟に戻る方法はないわけだ。
列車では事前の注意が功を奏したのか脱落したと思われる人が一人もおらず、何事もなく第二棟の行進を始める。
作りは第一棟とあまり変わらず大きな通路とその横に牢屋や所々に分岐路があるだけで、モンスターが少しだけ強くなっていること以外変化はなかった。
だからこそだろう。道に迷うこともなく気づいたら第二棟の列車の停車場についていた。
「ここまで順調だね」
「これなら勝手がわかってたら楽勝なんじゃ…」
私はなにか嫌な空気を感じながら言うと、クゥちゃんも疑問に思う節があるみたいだ。もしかしたらこの先超強力なボスとかがいて大変なことになる、とかあるかもしれないけど今感じる嫌な空気はそれとはまた違った何かだ。
列車も全く同じもので、今回もクゥちゃんと二人で同じ部屋にする。ここまで順調だから、と緊張感を解いたプレイヤー達を見て余計に不安な気持ちになりながら列車に乗り込む。
「ここまでは第一棟と同じだね」
さっきとは違う番号の部屋で内装が微妙に違う部屋を眺めながら現状のことをクゥちゃんが言葉にする。「ここまでは」というのはやはりこのままなわけがないと考えているのかもしれない。
ん?
「何かまた来てる」
空気感が変わったと思っていたらクゥちゃんのレーダーにも何かの存在が引っかかったらしい。
「ドアがノックされる前に開けてみるってのはどうかな?」
「うーん、それもいいかもね、じゃあボクが行くね」
「分かった」
何かが完全にこっちに来る前に先手を打とうということでクゥちゃんがドアを開け廊下に出る。廊下は真っ暗でまるで黒い霧に覆われてるような雰囲気が作られていた。
「何か見える?」
「いる…みたいだけど、よくわかんないかも」
クゥちゃんは目を凝らしているみたいだけどわからないらしい。なので私も廊下に出てクゥちゃんの代わりにその正体を掴もうとする。
もし第一棟の時と同じ存在ならば部屋に入ってドアを閉めてしまえばいい。第一棟の時に死に戻った人からの注意ではノックをされてもドアを開けないように、ということで誰もいなくならなかったわけだから。
よく考えてみると部屋から出る必要はないと思うんだけど、お互いに何か嫌な予感がするので出てきてしまったのかもしれない。
私が目を凝らした先に見えるそれは人ではなかった。何かというと布切れが宙に浮いているというべきだろうか。近づいてくるとより鮮明にわかる。フードを被った黒い何か。幽霊と言った方が簡単かもしれない。
「逃げよう!」
確実に第一棟の時と違うそれに私達は部屋へ逃げ込む。そしてドアを閉める。幽霊ならすり抜けてくるかもしれないとかそういうのはもう考えてなかった。
ドンドンドン!!!
「ナギちゃん! 開けてよ! まだ私入ってないってば!」
クゥちゃんの声が響く。私は慌てて部屋の方に振り向くとクゥちゃんはいなかった。だから慌ててドアを開けると廊下はいつの間にか明りが灯り、そこには誰もいなかった。
第三棟について列車を降りる。クゥちゃんが部屋に入るのを確認せずに自分だけ生き残ってしまったことに罪悪感がすごい。でもクゥちゃんなら許してくれるだろう。
…え?
列車を降りて顔を上げると誰もいなかった。
「どうやら君一人になってしまったみたいだねぇ」
車掌さんが話しかけてくる。のっぺらぼうかと思ってたら口あるんだと思って探したけどやっぱりのっぺらぼうだった。「キャシーちゃん」と同じ原理か。と妙に余裕があった。
一人では不安だけど仕方がないということで第三棟の転移ポータルを踏む。
「うわぁあああああ!! 助けてくれえええぇぇぇぇ!!!」
剣を振り回す男性がそう叫びながら私に斬りかかる。
「とまらねぇんだよぉぉおおお!!」
装備を見た感じプレイヤーではないみたいだ。でもどうすれば
「どうしたらいいんですか!?」
叫び続けている男性に声が届くように私も大きい声を上げる。
「助けてぇ! たずげでぇ!!」
男性はそれしか言わず、とりあえず私は殴ってみることにした。頬に思い切り拳がヒットするも男性は止まらない。
ブーメラン、ダガーなど色々と試してみたけれど攻撃では彼は止まらず私に斬りかかってくるので何度かダメージを受けて回復薬も消費する。
【アイドル】のアーツを駆使したけれど彼は止まらない。
しかし偶然両手で剣を構える彼の右手首に振り払うようにした私の手がチョップのような感じで当たり彼が持っていた剣が落ちる。すると彼は止まった。
「はぁはぁ、ありがとう、これで君を殺せる」
そう言って彼はニヤッとすると凄まじい速さで私のおなかを一突きした。そして一気にHPが0になる。
死に戻った場所はどうやら第一棟の最上階だ。
「あ、ナギちゃん! 戻ってきちゃったんだ」
そこにはクゥちゃんがいた。いつもと様子は変わらないのでホッとする。
「ごめんクゥちゃん、私だけ部屋に逃げ込んで」
「ん?」
クゥちゃんに謝ったけど伝わらなかった。
「何言ってるの? 後ろからものすごいスピードでボクやれちゃったはずなんだけど…」
「え?」
どうも話がかみ合わない。クゥちゃんによると私が廊下に出てきたときに後ろから反応できないスピードで捕らわれて私から引き離されてそのまま殺されたらしい。一応私も何が起こったかを説明する。
「そういえば、あの時のクゥちゃん私って言ってた」
説明し終わって冷静に考えてみるとおかしな点があったことに気づく。
「それとナギちゃんが言ったみたいに全員死に戻ってきてるわけじゃなさそうだから、ナギちゃんがドアをまた開けた時に何かの仕掛けが始まったんだろうね」
クゥちゃんは私の不思議な体験のことを考えていた。
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NAME:ナギ
【ブーメラン使い】Lv19【STR増加】Lv20【幸運】Lv50【SPD増加】Lv17【言語学】Lv41【視力】Lv41【アイドル】Lv21【体術】Lv27【二刀流】Lv36【水泳】Lv22
SP28
称号 ゴブリン族のアイドル 恋に惑わされる者 ホマレの惚れ人