ホレイーズ脱出作戦開始
ログインすると暗い大きな部屋の中にいた。周りを見渡すと石でできているタイルが床に、壁は煉瓦を重ねてあることがわかる。人も大勢いて、露店を開いているプレイヤーもいる。
天井には電気(?)もあるけれど、その光は小さくさながら夜の街灯一つくらいの明りしか供給してくれていないみたいで、あちこちで松明を燃やしたり光魔法で明りを確保している。それでも物資の問題もあってか使う場所が限定され、部屋全体が昼のように明るくなることはない。
「ナギ様、今来ましたよね? メッセージ見ました?」
「え? まだです」
「イベントの詳細が書かれてますよ」
「そうなんですか、ありがとうございます」
「いえ、俺はここでログインしてきた人の案内をしてるだけなんで」
突然男性から話しかけられて何事かと思ったけど、そういうことらしい。さわやかな笑顔で別の人に向かっていく彼を眺めながら、自分の知名度に苦笑いしつつメッセージの確認をする。
【ホレイーズ脱出作戦:From謎の脱獄者】
ホレイーズは全30階層の監獄が6棟連なってできているある意味大きな都市だ。
棟を移動する際にはそれらをつなぐ列車を利用する。
現在はここから外に向かう列車しか動いていない。
そして今安全な場所はこの第一棟の最上階と各棟の停車場しかない。
他の場所を安全地帯としたければ各地にある仕掛けを解除する必要がある。
尚、某国滅亡により本来とは逆ルートが脱出となっているので注意されたし。
前情報よりも詳細が書いてあるけれど、書き方が公式な感じじゃないせいか何か色々と隠してそうだと思ってしまう内容になっている。
一応進むほど危険になっていく理由付けがされているので、運営にもまだ世界観を大切にする人がいるのかと感心したのはここだけの話だ。
プレイヤー間ではすでに、一斉に時間を合わせて大人数で出陣しようとその時間帯が予定されている。第一陣の出発に参加するつもりだけどまだ余裕がある。
「ナギ様、まだ何かあるんですか?」
先ほどの彼が声をかけてくる。
「いえ、別に」
「そうですか、メッセージを読まれたなら別の場所に移動していただけるとありがたいんですが…」
「あ、すいません」
そう言って立ち去る。どうやら彼は立ちっぱなしの私がまだ何かあるのかと思って声をかけてきたようだ。
しばらく待っているとクゥちゃんと舞浜君とカッサがログインしてきた。
「おひさー」
「「「おひさー」」」
カッサの挨拶に全員が返す。
「いやーログインするだけで結構時間がかかったなぁ」
カッサは「本当ならもっと早く着くはずだったのに」と愚痴を漏らす。一番に来て私達を出迎えるつもりだったみたいだ。
周りではそろそろ全員一斉出撃の時間が迫っているということで、仲がいい面子と思われる人たちが集まって話をしている。
「そろそろ時間だ!」
ここからでは姿が見えないけど、その一言の後に集団となったプレイヤー達が一斉に移動を開始する。私達もそれについていく形で出発する。
出てくるモンスターはアンデット系のモンスターで、ゾンビっぽいのから骸骨まで現れる。私は骸骨は海底遺跡で慣れたけどさすがにゾンビは直視できない。
「こんなグロいのよく登場させられたな」
誰かの呟きが耳に入る。
「ナギさん、つらいなら集団の中に入る?」
「そ、うだね」
舞浜君の言葉に甘えて行進する人混みの中に入っていく。
「気分悪そうにしてる人結構いるね」
クゥちゃんが周りを見ながら告げる。私だけじゃない、ということを教えて私を安心させようと配慮だろうか、ありがたい。
大人数での行進とあってモンスターをほとんど寄せ付けず順調に進んでいく。分かれ道は大抵細く広がって行進できないため、一番広い道を進んでいく。その道がメインの道となっているらしく今のところ行き止まりはない。
そのまま一番下の階まで下り、停車場にたどり着いた。そこには大きな列車が何両も連なって停まっていた。
その列車に全員が乗り込む。列車でありながらホテルのようでもあり多くの部屋が用意されている。のっぺらぼうの人形が制服着てるだけに見える車掌さんの案内を受けて、私はクゥちゃんと、そして舞浜君はカッサとそれぞれ二人で一部屋ということになった。
部屋について一息つくと、クゥちゃんは何やら操作をし始める。どうやら舞浜君達と連絡を取ろうとしてるみたいだ。
「今気づいたけどチャット系使えないね」
しかしそれは叶わなかったみたいだ。クゥちゃんによるとPTチャットやコールが使えないようでメッセージは使えるみたいだけど届いてない気がするとのこと。
「ログアウトしてしかメッセージは確認できないってことかな」
「多分そうだと思う」
私の推測にクゥちゃんも頷く。どうやらこのイベント中はログインしている限り仲間との連絡手段はないみたいだ。それがより一層なにか胡散臭い雰囲気を醸し出している。
舞浜君達に割り当てられた部屋がどこかわからないし、連絡も取れないのでクゥちゃんと二人でのんびりしていた。
「きゃぁぁああ!!!」
どこかから叫び声が聞こえる。
「何?」
とクゥちゃんに聞くけど…わかるはずもなく微妙な表情が返ってくる。とりあえず部屋のドアを開けて確認しようとすると、
「待って! 何かこっちに来てる」
クゥちゃんが待ったをかける。【感知】系のレーダーで今まで見たことがない反応だそうだ。だからモンスターなのかプレイヤーなのかNPCなのかわからないらしい。もっともプレイヤー以外なら敵の可能性もあるんだけど。
コンコン
沈黙の中にドアをノックする音が響く。
「私が出るからクゥちゃんはいつでも飛びかかる準備をしといて」
「分かった」
投擲メインの私では部屋という狭い空間でクゥちゃんとチームプレイは難しい。だからどうせならクゥちゃんが無傷で万全に戦闘に臨める方がいい。そう思って私はドアを半開きに開く。
「う! …そ」
「ナギちゃん!!」
半開きにしたドアの隙間から見えたのはフードを被りその素顔は闇に染まってわからない何か。そして同時にその何かが持っていたナイフで心臓部分を一突きにされた私は一瞬でHPが0になった。
心臓を突かれても即死なんて滅多にあることじゃない。即死攻撃を使う存在なんだとわかった。
このよくわからない状態で【蘇生薬】を使えば無駄になる可能性も高いと考えて温存。そのまま死に戻った。死に戻った場所は最初の場所だ。
「あんたもか?」
死に戻った先で重装備の男性に声をかけられる。この人もドアがノックされて開けたらナイフで即死だったそうだ。
直後にクゥちゃんがやってくる。
「クゥちゃんまで死に戻ってくる必要なかったんじゃ?」
戦闘をしてやられたにしては早すぎるクゥちゃんに問いかける。
「うーん、でもナギちゃんアンデット苦手だし、それに一緒にいなきゃ意味ない気もするし」
「ありがとうございます」
私は主に「アンデット苦手だし」の部分に感謝を申し上げておいた。知り合いがそばにいてくれるのは心強い。
「一応カッサ達にはメッセージ送っておいた…必要があるのかわからないけど」
クゥちゃんがこういうのも、次々とプレイヤーが死に戻ってくるからだ。
「連絡できない、死に戻る人とそうでない人…分断がテーマみたいだね」
クゥちゃんが呟く。9月も終わりに近づこうかという頃の、ちょっとホラーなイベントはまだ始まったばかりだ。
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NAME:ナギ
【ブーメラン使い】Lv19【STR増加】Lv20【幸運】Lv50【SPD増加】Lv17【言語学】Lv41【視力】Lv41【アイドル】Lv21【体術】Lv27【二刀流】Lv36【水泳】Lv22
SP28
称号 ゴブリン族のアイドル 恋に惑わされる者 ホマレの惚れ人




