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ナギ記  作者: 竜顔
12/276

ホムラ

「渚?」


 その声は唐突に後ろからやってきた。振り返るとそこには知った顔があった。


「雄君!?」


 雄君――火野雄大はお兄ちゃんの同級生、というより私たち兄妹の幼馴染で、小さいころ三人でよく遊んだ。お兄ちゃんと雄君が中学に上がったあたりから、遊ぶことは少なくなっていった。それでも雄君は私にとってお兄ちゃんみたいな存在で、私にとって自慢の兄は本物よりも…。ちなみに私のVRメットのお金を出してくれた一人だ。


「さっきチラッと顔が見えたから、まさかとは思ったがやっぱり渚か」


「あっ、VRメットの件、ありがとう」


 プレゼントは前日に京ちゃんが渡してくれたので、直接お礼を言えたのは京ちゃんとお兄ちゃんの二人だけで、雄君と京ちゃんの彼氏には言えてないままだった。


「ああ、喜んでくれたんならよかった、聞いた話じゃ半ば強引みたいだったし」


 間近で見る雄君は、髪の毛は赤茶色、目も赤く、おそらくエディタによるものと思われる。そして鎧も赤茶色の金属製で、武器は斧らしく、大きな両刃の斧が背中に掛っている。そしてその大斧も深い赤色をしている。とにかく赤い。


「雄君はどうしてここに?」


「今日は秋人と予定があわなくて他のやつらと先に行かせてるんだ、それに聞いたら渚には一度もあってないとか言うし、暇だから様子を見に来たってところだ」


 秋人(あきと)はお兄ちゃんの名前である。


「そうだよ、現実の知り合いは誰も来てくれないんだよ!」


 私はちょっと怒った顔で言った。正直まさか一番最初が雄君とは思わなかったけど。


「そうなのか? それは悪かったな」


 そういって雄君は私の頭をぽんぽんっと優しく叩く。


「で、これからどこ行くんだ?」


「ついてくるの?」


「ああ、秋人たちはいつ終わるかわからんし、こっちの世界の渚がどんなもんか気になるというか、心配だしな」


 そんなことを言われる。もう子供じゃないのに。なので


「心配するならお兄ちゃんの方じゃない?」


 と言ってみた。お兄ちゃんなんか普段はぽや~んとしてるしゲームしててもそんな風な時があるんだから。


「秋人はあれはあれでやる時はやるからな、その点渚はできるんだかできないんだかはっきりしないやつだからな」


 そういってまた頭にぽんっと手を置かれる。雄君は私たち兄妹のお兄ちゃんみたいでもある。でもお兄ちゃんと二人で話すときは目線が同じで話しているから違和感がすごい。 


 それより私ってそんな評価だったんだ…。間違ってない気もするけど。


「今日は第三エリアで狩りをするつもりかな――っとこっちの世界じゃ私の名前はナギだから」


「そうか、わかった、――ナギ、こっちはホムラだ」


 フレンド登録をすませ、PTを組む。そして第三エリアへ――


 第三エリアは荒野が広がっているエリアだ。「荒野ウルフ」、「荒野ワーム」、ボスモンスター「ビッグワーム」の3種類が存在する。そしてこの荒野は南と南東でそれぞれ第六エリアと第七エリアで別れている。


「危険になったら手を出す、ここら辺の敵なら一撃だから強気でいっていいぞ」


 そうホム君――ホムラ――がいうので遠慮なく、近くにいた荒野ウルフに狙いを定め、一撃を与える。荒野ウルフはくるりとこちらを向き、突進してくるので左に動きながら二発目を投げる――それを荒野ウルフは(私から見て)右によけ、突っ込んでくる。


「えっっ!」


 驚いたことで隙ができる。そして、荒野ウルフは口をあけ大地をけって私をめがけてジャンプ、隙を突かれた私は慌てて後ろへ地面を蹴る――瞬間私の背後から赤い何かが飛出しウルフとぶつかったかと思うと一瞬でウルフを真っ二つにした。そして私はしりもちをつき、それがホム君の大斧だと理解する。


「強気でいけとはいったが、危なっかしいのは歓迎しないな」


 そういって斧を納めるホム君。


「今まで直進してくるモンスターしかいなかったからまさか横によけるなんて思わなかったし…、昨日第四エリアでPTプレイだけどそこそこできたから自信あったのに」


 そうつぶやくとホム君から考え込むような目で見られたので、昨日の事をハッピー関連の話を抜いてさらっと話した。


「そういうことか…ナギ、ウルフみたいに回避行動をとるモンスターは他にもいる、第四エリアではビーや、昨日戦ったというキノミンがそういうモンスターだが、最初に攻撃した後見てなかったから気づかなかったんだろう、第一第二エリアのモンスターはもとから直進しかしない設計だ、スーパーゴブリンは例外だぞ」


 そうやってホム君は一通り話すとよしっと一言


「投擲のスキルレベルはどれくらいだ?」


「? 25だけど」


「じゃあレベル上げにもなるな、ほら大きいのが空いたから行くぞ!」


 ん? 大きいの…ああ大きいのかって「ビッグワーム」!? 時すでに遅し、ホム君は私の襟をつかんで引きずるように私を連れて行く。


「いやぁぁぁぁ!!!」


 こんな大きな声をだしたのはいつ以来かな? なんて現実逃避。あれ? ここ現実じゃなかった。


 ビッグワームはその名の通り巨大な芋虫、体の半分ぐらいから体を持ち上げて攻撃してきたりする。


「うぅぅ…気持ちわる~い」


「これぐらい我慢しろ、大体お前は止まってる敵か直進する敵しか攻撃を当てられないだろ、さらに言えばアントへの攻撃もダメージ後の行動停止頼りで、これも立派な牽制だがそれだけじゃ危険だ」


 ビッグワームは持ち上がった上半身(?)を振り回すが、移動攻撃なんかはしてこないから、動く上半身の狙った部位に当てろ、という指令が出た。


「さぁ、いくぞ」


 目的が目的なので石ころを使う――スミフさんからダガーのついでに買い取っておいてよかった――


 今回狙うのは上から二番目の右側の足、うようよ動く右足は気持ち悪いけど。


 投げる、投げる、投げる。移動しながらも立ち止まっても。


 上体が止まっていてもうようよ動く足に当てるのはなかなか難しかった。一回付け根の動きが小さいところを狙ったら、ホム君に怒られてしまった。


 一定時間ごとにホム君が斧を打ち込む、三発でビッグワームは消える。それでも結構な時間と量を投げ込んだ。


「まぁ、大体当たらなかったな、後半は当たりだしたけど」


 ホム君が言うように上体が止まっているときには安定して当たるようにはなった、それでも最後の方だけで、上体が動いているときに狙い通り当たったのは一回だけしかなかった。


「投擲をメインにするなら動きを読めないとな、足のうようよした動きには対応できるようになったからひとまずノルマはクリアでいい、上体の動きを気にするのはまた今度でもいいだろう」


 アントはダメージを受けた後の行動停止時間がプニットほどではないにしろ長い部類に入り、それも低威力の攻撃で狙える。しかし、他のモンスターではそうはいかない、だからそれに頼らずに敵の動きを止めるには攻撃の起点をピンポイントで狙う必要が出てくる。投擲武器は中~遠距離武器の中でも攻撃間隔が短く、その分威力も低めだから、そのポイントを最良のタイミングで攻撃できるかが生命線とのこと。


「特化すればまた違うかもしれないが、牽制役を頼まれる機会は変わらないだろうから大事なことだぞ、じゃあこれ、ご褒美だ」


 そういってホム君は背中の斧とは違う斧を取り出して渡してくる。



【タイタンキラー】

 武器カテゴリー:大斧

 ATK+320


 巨人すらも打ち倒す大斧。扱うのも難しい。



「ありがとうホム君! でも私斧使えないよ?」


「ナギ、投擲スキルはLv30になると色々なものを装備して投げられるようになる、もちろん投げる以外ではダメージを与えられないが、…あと、ホム君ってなんだ?」


「え? だって普段は雄君って呼んでるのに急に呼び捨ては…」


「普段君付けの人を呼び捨てするのは抵抗感があるのはわかる、だが俺もホムラとしか呼ばれたことがないから気持ちが悪い、それにこっちの世界では初対面だから『普段は君付け』とかないだろ?」


「うん、そうだねホムラ君!」


 そういうと呆れた顔をされた…。今度からは「ホムラ」と呼ぶことを誓った。


――――――――――

NAME:ナギ

 【投擲】Lv27【STR補正】Lv21【幸運】Lv18【SPD補正】Lv19【言語学】Lv8【】【】【】【】【】


 SP19

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