ほのぼの
午前中プールで浮いていただけの私は午後も変わらずにログインした。第五エリアでひとりで座りほのぼのしていた。
第五エリアはあちこちに牛型のモンスターがいるので、見方によっては大牧場のようで、おまけにアクティブモンスターはいないのでこうしてのんびりできる。
…なにやってんだろ、私。
ゲームでほのぼのし過ぎかもしれない。でもこれもまた一つの楽しみ方だと思う。
『ナギさん、どこ?』
草原に寝そべっていたら舞浜君の声がする。彼とは船を下りて一緒にログアウトしたので、ログインしたらどこかに行っていたから聞いてきているのだろう。
『内緒』
今は一人を謳歌しているところなのでそうやって返す。でもそのうち夜がきてしまうので長くは続かないのだろうけど。
ふと気づくと天井がそこにあった。見回すと自分の部屋。夕方になったのか夕日のオレンジで部屋が染まっている。
頭がやや重たいと思っていたら、どうやらVRのメットを被ったままだったらしい。
一体どこから夢でどこからが現実なのか。まだ頭がよく回らない。一応PCの画面を見ると電源は点きっぱなしになっていた。そして多数のメッセージが来ていることも同時に教えてくれる。
あ…これがいわゆる寝落ちってやつか。
妙に冷静に今の状況を把握するとともに、もしこれがばれたら恥ずかしいと思いメッセージを確認する
前にゲーム内に戻ることにした。
ゲームで目を開けるともう夜になっていた。そして夜は真っ暗で光はないはずなのに揺らめく炎が目に映る。
「おかえり」
「おかえり」
「…ただいま」
クゥちゃんと松明を持った舞浜君だった。
「見る限り変なことされてるようには見えないけど…大丈夫?」
舞浜君に言われて私は咄嗟に体のあちこちを自分で確かめてみる。
「ナギちゃん…ログ見ようよ」
クゥちゃんは私の姿に少し呆れながら言う。会話などをしたら、ログに残って専用の窓を開けば確認できるんだっけ。
クゥちゃんに言われた通りにログを開いてみると、クゥちゃんや舞浜君のコールの数々とさっきまでここで二人がしていた会話の内容まで確認できる。特に変なことは話してなかったらしい。それと一応二人以外に誰かから絡まれたりはしてない様子だ。
「一応二人以外の会話内容はないかな」
「なら大丈夫かもね、ここで倒れてたら一声かけるだろうし」
私の報告を聞いて舞浜君は安堵する。なるほど、話しかけられてないから誰も私に接触していない可能性が高いという判断なのか。
二人がなぜここにいるのかというと、まず学校が終わって帰宅したクゥちゃんがいつものようにログインすると、私と舞浜君がログインしていることに気づき私にコールで話しかけた。でも反応がなかったので舞浜君と私が一緒にいると思っていたクゥちゃんは舞浜君に話しかけたらしい。
そこで舞浜君は私が『内緒』と言ったきりでそのあと話しかけても特に反応がなかったことを不思議に思って私にコールとメッセージを送ったそうだ。
「もっと前に不思議に思ってよ」
「いや、あんまりやるとしつこいかな、とか、一人でのんびりできる秘密の場所でも見つけたのかなとか思って」
私の追及に舞浜君は少し申し訳なさそうだ。
それから私の返事が来ないことを確認した舞浜君はとりあえずクゥちゃんとともに何かあったんじゃということで、私を二人で探し始めたらしい。
舞浜君は、私がのんびりできる場所、という推測を立てて今行ける範囲の街を探し回ったそうだ。
「最終的にはどうしてここだと?」
「勘…というか普通に考えたら?」
私の疑問にクゥちゃんは疑問形で返す。街を探していたクゥちゃんは街の中にいるなら見つけるのは難しいと考えるのと同時に、一人でのんびりできるような場所をみつけるのも簡単ではないはずと考えて街の外にいると考えたらしい。
そして安全な場所となると…夜になってもノンアクティブしかいない第五エリアくらいか、あとは私のゴブリンに対する謎カリスマが働く場所くらいだと思ってひとまず第五エリアに来たそうだ。
「そしたら寝転がった人が一人いてさ、そしたらかわいい寝顔で声かけても反応無くて…」
「それは私ダッタンデスカ?」
ここに至るまでの話なのだから私以外にはありえないんだろうけど。でもこれで、私が何も言わずとも寝落ちしたことはばれてしまったわけだ。
「プールに連れて行って逆に疲れちゃったかな?」
舞浜君は午前中の活動を気にしているらしい。よし、それのせいにしよう。
「そうだよ、それでね」
何故こういう時に言葉に心が宿らないのだろうか。
「そうなんだ、じゃあ今度から現実で疲れてるときはゲームでゆったりしちゃだめだよ」
「気を付けないと変なことされちゃうよ?」
おお! 自分では自信がなかったけど二人には通じたらしく責められなかった…わけないか。舞浜君なんかあからさまに優しく微笑んでるし、クゥちゃんはそんなことより私の身の安全を考えてるし。
「特にナギさんは全身スキャナーなんでしょ? アバターとはいえ現実の自分と全く同じ体をいじられるわけだからもっと気を付けないと」
「…すいません」
優しい微笑みから真剣な表情になった舞浜君からも注意される。
「でも何にもないならよかった、とりあえず街に戻ろう」
夜の闇を抜けて第五エリアの横にあるブルジョールに移動する。
ブルジョールでとりあえず食事処に行く。ずっと寝てただけなのに満腹度の減りが結構来てる。クゥちゃん達二人も私を探し回ったので結構減ってるらしい。
「あら? ナギちゃん達じゃない」
食事処に向かう途中、なぜそこにいたのかよく分からないけどラズベリーさんに遭遇する。そして私の装備ができたからおいでと誘われたので、先に食べてからと言っておく。
食事処に着くと
「私がおごります…」
と自ら宣言して二人にお礼も兼ねておごった。
そして「Berry Workers」にて装備の一式を受け取りに向かう。
「はいこれ」
ラズベリーさんに渡されたそれを受け取って装備してみる。
青い少し生地が厚めの半そでのパーカーと黒いショートパンツ。ショートパンツは運動着みたいな感じで、パーカーの袖が長ければ体を冷やさないために上着を羽織った運動部の女子に見えるかもしれない。今でも活動的な感じではあるけど。
パーカーの前のチャックは開かない仕様で、左胸には黒い線でリボンの形が描かれている。
「またリボンですか」
「そう、ナギちゃんはもう青色とリボンのイメージだからね」
ラズベリーさんの胸にあるリボンの絵の説明に、最近は薄茶色だったんですが…、と心の中でつぶやく。
「そして次はじゃじゃじゃん、新しいブーメランよ」
といって渡される。
【スラッシャー:V】
武器カテゴリー:ブーメラン
ATK+68(STR依存)
切れ味抜群のスラッシャ―シリーズのブーメラン。しかし刀の切れ味には及ばない。
説明の最後に変な情報がくっついている気がするけど威力も更新されているみたいだ。
「もうちょっと上の威力の奴でもよさそうだけど、今のところはそれね」
今の私の進行度ならもう少し上でもよかったらしい。でもSTR依存で表記されてる威力よりは上乗せされてるはずだ。結局【タイタンキラー】の威力には追い付いていないかもしれないけど。
装備を新調した後ログアウト。振り替え休日はあっという間に終わった。
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NAME:ナギ
【ブーメラン使い】Lv9【STR増加】Lv12【幸運】Lv48【SPD増加】Lv8【言語学】Lv41【視力】Lv41【アイドル】Lv17【体術】Lv26【二刀流】Lv33【水泳】Lv22
SP17
称号 ゴブリン族のアイドル 恋に惑わされる者 ホマレの惚れ人




