振替休日
南側を向けばそびえる火山が大きく見えるヴォルカの街は、空が赤く染まり昼か夜かもよくわからない。街の内装は第六エリアから入ってすぐは石畳にレンガ造りの建物が並んでいるけど、火山側にいくと徐々に道は整備されていない赤い土の光景に変わっていく。
逃げるようにやってきた私達は、満腹度の回復の為もあって食事どころで食事をとる。その時にメンバーのみんなだけに【蘇生薬】のことを教えた。舞浜君は大事なものを使ってくれてありがとうと少し申し訳無さそうな顔をしていた。
前日の体育祭の疲れが残っていた私は限界を感じてそのままログアウトして、ログインする事はなかった。
振替休日となる月曜日。何の気なしにログインすると、さすが平日、こんなに人少なかったっけ。というくらいに人がいなかった。
そんな中フレンドリストを確認すると舞浜君がログインしていた。
『ナギさん、のんびりするはずだったんじゃ…』
『そのつもりだったんだけど、特にやることなかったから』
舞浜君からきたコールに返答する。やることがなかったからゲーム、というのもどうかと思うけど誰かがいれば暇は紛れるのでついついログインしてしまうのも仕方ない。
『そっか、一応のんびりスポットを調べておいたんだけど、行く?』
『え? じゃあ頼もうかな』
のんびりスポットがあるなら知っておくべきだろう、と考えた私は舞浜君の提案に乗る。
『じゃあポルトマリア集合で』
『わかった』
舞浜君にいわれたとおりポルトマリアへと急ぐ。ヴォルカの転移ポータルを使ってポルトマリアに移ると丁度舞浜君と鉢合わせた。
「おはよ」
「おはよう」
とあいさつを交わす。ポルトマリアに着くと青い空が広がっているのでゲーム内での時間が昼であることがわかる。
「で、どこに行くの?」
「ついてきて」
場所は明かしてくれないのでどこへ行くかもわからぬままに着いていてく。
ポルトマリアの砂浜と逆の方角、港になっている場所へと進んでいく。しばらく進んでいると一人のNPCの前で舞浜君の足が止まる。
「おう! 兄ちゃん達どうした、何か用か?」
そのおっさんNPCは私達を見て声をかけてくる。
「遊覧船があるとか?」
「おう、あるぜ、まだ出航時間にはなってないから間に合う、乗るのか? 拘束時間は最低一時間くらいになるぜ」
舞浜君の問いにNPCは流暢に答えていく。舞浜君ののんびりスポットとはフェリーのことだったらしい。
「じゃあこれに乗る、時間大丈夫だよね?」
「まぁ、一時間くらいなら大丈夫かな」
舞浜君が私の方に顔を向けて尋ねてくるのでそれに答える。
「じゃあ二人組のペアだな、チケットはこれだ」
そうして見せられたチケットとその金額が提示される。結構高い金額だった…だけど舞浜君が払ってくれた。【蘇生薬】のお礼も兼ねているとか。
「遊覧船なんてあったんだね」
「クエストの一種でね、他にもあるんらしいけど」
舞浜君によると航路上の巨大なモンスターの討伐クエストや船の中で起こる事件を解決するクエストなんかがあるらしい。だけど今回はそれらとは違うみたいだ。
「じゃあ今回はなんなの?」
「それはお楽しみで」
いたずらっぽい笑顔を見せながら停泊している目的の船を目指す。
「これかな」
一つの大きな船が目に映る。そしてその船のタラップの前に立つ高級そうなスーツを纏ったNPCの姿。
「何…これ」
私は驚きのあまり声が出ない…一言で言えば立派な船だった。
「一番高額の遊覧船…かな、付属のクエストも厄介な物じゃないし、のんびりできるはずだよ」
そう言いながら舞浜君はNPCにチケットを渡すとタラップを昇っていく、私もそれに続く。
船の中の通路には高価な印象を受ける絨毯が敷かれ、電球もシャンデリアと豪華だ。船の中にいる人もドレスを着こんだどこぞの社交界のようになっている。
「お客様」
その声に振り向くと制服姿の女性がいた。私に声をかけているらしい。
「お召かえをいたしますのでこちらへ」
「え? あ、はい」
言われるがままに女性についていく、舞浜君もわかっているらしく「またあとで」と手を振っている。
衣装室に連れて行かれあれやこれやと渡される…私はあんまり豪華じゃない感じのドレスを一着選び、それを装備する。するとNPCの女性から「帰りの際に返却していただければ結構ですので」と言われ、そのまま衣装室を出る。
その時に渡してもらったパンフレットを見ると、遊覧船とはいう物の豪華客船のようになっていて甲板のほうには巨大なプールがあったり、内部にもダンスホールや劇場なんかが設置してあった。
エントランスホール一角、タキシードに身を包んだ舞浜君を見つける。
「お待たせ」
「似合ってるよ」
「ありがと」
「これからどうする? 一時間しかないけど」
と言われてもう一度パンフレットに目を通す。劇場で行われる劇は結構長い。ダンスホールはよく分からない。外に出て景色を楽しむのもいいし、海を眺めながらプールもいいかもしれない。
「これより出向いたします、皆様、素敵な船の旅をお楽しみください」
そのアナウンスの後汽笛が鳴る。
「動き出したみたいだね」
「舞浜君は何をすれば良いと思う?」
自分で決められない私は舞浜君に任せてみることにした。
「のんびりしたいなら…景色が見えるところが良いよ」
といって上の階に移動していく。一番上の甲板では椅子に座って景色が楽しめる。舞浜君は二人席を見つけてそこに座る。テーブルを挟んだ向かい側に私も座る。
椅子はゆったりと座れるタイプのもので油断すると寝入ってしまいそうな体勢になるものだった。
しばらく無言で風を感じながら広がる海の青と遠ざかるポルトマリアを見つめる。
ガタン!
何か音がすると同時に遠ざかっていたポルトマリアに変化が無くなった。
「何?」
私はよくわかってそうな舞浜君に尋ねる。
「クエスト開始の合図」
「のんびりできるんじゃなかったの?」
舞浜君の答えに再び質問をぶつける。いや、確かにクエストの一種とは言ってたけど。
「ただいま問題が発覚いたしました、安全のため船内にお戻りください」
とアナウンスが流される。
「何か問題が発覚したらしいんだけど…」
と舞浜君を睨む。
「プールに行こう」
舞浜君は私の態度に気づいてない…フリをしている。
だけど颯爽とプールへと向かう彼に、とりあえず任せよう、とついて行く。
プールには誰もいなくなっていた。まさに貸し切りのような感じだ。
「このクエストはとあるNPCのプロポーズが成功すればいいんだよね、二人に関わらなければ勝手に成功になるから後はプールにさえいれば成功だね」
といって舞浜君は水着になってプールに入ってプカプカ浮かんでいる。
「てことは…このプール貸し切り?」
広大な無人プールをみながら呟く。それに舞浜君はうなずく。
それからポルトマリアにつくまで二人でプールで浮かんでいた。
そしてクエストクリアの報酬は、プロポーズに成功した人の大盤振る舞いで船内で売られているアクセサリーだった。
あと運良くドレスももらえた。
――――――――――
NAME:ナギ
【ブーメラン使い】Lv9【STR増加】Lv12【幸運】Lv48【SPD増加】Lv8【言語学】Lv41【視力】Lv41【アイドル】Lv17【体術】Lv26【二刀流】Lv33【水泳】Lv22
SP17
称号 ゴブリン族のアイドル 恋に惑わされる者 ホマレの惚れ人