表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ナギ記  作者: 竜顔
115/276

ヴォルカに向かって

「ふぅ…」


 これで何体目かな。数えるのも面倒なほど獣を狩ったと思う。


 第六エリアの中間ぐらいだろうか。ここまで来るとモンスターの数も減ってくる。とはいえ普通ならばすでに通り過ぎて今頃ヴォルカについていてもおかしくないくらいなので、ここまでのモンスターがどれだけ多いのかがよく分かる。別に積極的に戦いながら進んでいるわけじゃない。戦いたくなくても寄ってくるからそれに応戦してるだけだ。


 そんな中でも幸いなことに「狩人殺し」と遭遇していない。もしここまでで遭遇していれば多分デスペナルティを受けて街でおとなしくなっていたに違いない。


「一度休憩しよう」


 舞浜君が周囲を見渡しながら提案する。ここまで休憩なく来た。よく集中力が持ったものだと思いながらも反面「これゲームだよね?」と言いたくなるくらい冷たい空気の緊張感が漂っている。


「やっと半分ですかぁ~」


「ごめんなさい、私が変なことを言ったばっかりに」


 訳でもなかったらしい。もしかしたらやっと緊張が解けたのかもしれないけど、ミカちゃんがほんわかした空気を送り込み、ルーナさんはやんわりと返している。ルーナさんが第六エリアで活動したいといった結果、結構本気でヴォルカに向かっているからこその言葉だろう。


「体育祭の翌日にやるにはハード…」


 座り込む舞浜君は溜息のように言葉を漏らす。進行中の姿からはそんな風には見えなかったけど彼もきついらしい。


「でもここまで来たらこのまま行きたいよね」


「まぁね、ナギさんとだけなら明日でもいいんだけどね」


「確かに…明日はのんびりしたいなぁ」


 今日ここまで来てしまったからにはヴォルカまで行きたい、そして明日の振り替え休日はのんびり過ごそうと誓う。


「じゃあそろそろ行こうか」


 休憩時間が終わり再び進み始める。休憩中モンスターが襲い掛かってくることがなかったのは運がよかったのかもしれない。それにまだ「狩人殺し」に遭遇していない。ここに至るまでに狩人殺しに遭遇していたら今頃デスペナルティ中かもしれない。


 中間のあたりからヴォルカに近づくと見える巨体…いや、広げた翼が必要以上に大きく見えているだけかもしれない。


 狩人殺し。その巨大な翼の下に数体の獣を従えている。


「戦闘中?」


 クゥちゃんが首を傾げなら目を凝らす。確かに誰かいるらしい。翼の下の獣たちもその人達と交戦中みたいだ。


「もしかして…チャンス?」


 ミカちゃんは嫌らしい表情になっている。交戦中のPTが敵をひきつけているうちに自分たちは横を抜けていくとでも考えているんだろう。もちろん勝手に加勢するといいことはないんだけど、この状況だと助けを求められる可能性もある。


「状況を見ないと…ただLv上げのために溜めてるだけかもしれないし」


「そうですね」


 舞浜君の言葉にゆうくんが答える。


「ナギちゃんの目にはどう見える?」


「うーん、普通に戦ってるようにも見えるけど…どうなんだろうって感じかな」


 クゥちゃんが私に尋ねてくるので答える。


「行こう! どのみち俺達が行きたいのはあの向こう側だし」


 舞浜君の言葉に全員「確かに」と表情が緩む。そして再び表情を引き締めると駆け出す。


 そこにたどり着くと一つのPTが交戦中だった。


「とりあえず狩人殺しを頼む」


 そのPTの一人が私達に気づいて言う。助けるとは言ってないけど助けが必要らしい。


「わかった、じゃあやるよ」


 言うが早いか舞浜君はすぐさま挑発をかけて狩人殺しの注意を引く。だけど空を飛ぶ敵相手だと舞浜君も防御すら難しいようだ。


 アーツ【フックブーメラン】を発動する。空を飛ぶ敵をとしてくれるらしい…使うのは初めてなのでどうなるかわからないけど、それが本当なら戦いやすくなるはずだ。


 ブーメランを斜め上に投げ上げるアーチ状の弧を描いて狩人殺しの左の翼の付け根あたりに突き刺さる。すると何かに引っかけられたかのように狩人殺しがドスンと地面に叩きつけられる。


「お!」


 初めて使った相手が相手だっただけに予想以上のインパクトだった。そのせいでなんか声が出た。ただしブーメランは引っかかりっぱなしなので回収に行かなければならない。


 ダウン状態になっていた上に気絶状態にもなっていたので相当長い時間動きを停止させることができた。それもあってミカちゃんとルーナさんが強力な攻撃魔法の詠唱を完成させることができた。クゥちゃんや舞浜君、もちろん私もノンストップで攻撃し続けた。


 それでも簡単に倒すことはできず、狩人殺しは再び空に舞い上がる。前に誘惑で止めて、ステージフラッシュでダメージを与える。そのあと舞浜君が挑発をかけてターゲットとなる。


 もう一度【フックブーメラン】を発動…しようと思ったけどその瞬間風を巻き起こしてブーメランを吹き飛ばす。


「ぅぐ」


 あまりの暴風に踏ん張るのが精一杯になる。風が収まったかと思うと目の前から狩人殺しの姿が消えていた。


「どこだ?」


 舞浜君が周囲を確認する。


「でも周辺にいるはず」


 クゥちゃんは索敵範囲に狩人殺しの反応があることを確認している。私は上を見る。今まで考えたことなかったけどこの空はどれほど高いところまであるんだろうか…なんて考えていた。何故なら小さく、本当に小さく何かが迫ってくるのが見えたからだ。


 そしてそれが何かわかるようになってくる。


「上!」


 私の叫びにバッとみんなが上を見る。その頃には大きな姿になっていた。


 舞浜君は咄嗟に盾を上に構えた。狩人殺しの狙いは確かに彼だった…だけど目に見えないほどの上空から落ちてきたその攻撃の威力に盾が割れ、狩人殺しの嘴が舞浜君に突き刺さる。


「ぐわぁぁぁぁ!」


 彼のHPは一瞬で吹っ飛んだ。


「バカ! あれの対処法はそうじゃない!」


 聞きなれない声が響き渡る。先ほどまで獣たちと戦っていたPTの人だった。あれ、一人?


「俺が止めるから逃げて先に行け、ヴォルカに行くんだろ?」


 と男性が叫ぶ。PTメンバーが見当たらないことを考えるとおそらくこの男性は護衛だったんだろう。


「あなたは?」


「頃合いを見て俺も逃げる、だから早く!」


 その男性も倒すまでには至らないようだ。


 私は【蘇生薬】で舞浜君を復活させる。周りからは「え?」という顔をされるけどとにかく先へ、と走り出す。


 ようやくその姿をみせるヴォルカに安堵しながらも寄ってきている獣たちに追いつかれないうちにと走り抜けていく。


 どうしても飛びかかってくるモンスターは舞浜君とゆうくんが盾で受け止めたり弾いたりして私達に攻撃が行かないようにしている。舞浜君は予備の盾があったみたいだ。だけど盾で受け止めた時のHPの減りを見る限り数ランク下がる盾みたいだ。


 ヴォルカの街の門の姿が目に入る。そしてその前には数人のプレイヤー。


「お疲れ、そして連れてきてくれてありがとう」


 そういって私達を追ってきたモンスター達に向かって飛びかかっていく。それを後ろに感じながら門を開けてもらいヴォルカの中に入った。


「着いた…」


「着きましたね…」


「ぎりぎりだね…」


 ついてすぐに口を開いたのはクゥちゃん。それにミカちゃんと舞浜君が続く。


 しばらくして落ち着くと、狩人殺しを引き受けてくれた人が返ってきたので礼を言う。その人からは舞浜君が復活したことを聞かれたけど内緒にした。男性は聞きたそうにしながらもその辺の事情が分かる人だったので報酬もいらないと言ってどこかへ行ってしまった。


 なんか最後はみっともなかったけど…目標は達成できた。


――――――――――

NAME:ナギ

 【ブーメラン使い】Lv9【STR増加】Lv12【幸運】Lv46【SPD増加】Lv8【言語学】Lv41【視力】Lv41【アイドル】Lv17【体術】Lv26【二刀流】Lv33【水泳】Lv20


 SP17


称号 ゴブリン族のアイドル 恋に惑わされる者 ホマレの惚れ人

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ