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ナギ記  作者: 竜顔
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番外編:一方その頃

 ――体育祭に向けた練習の日々が続いていた頃。


「はぁ…」


 夕方なのにまだ日が燦々と差す中、体育祭の練習での疲れを感じる下校途中。


「どうした舞浜、恋の病か? 治療法なら知ってるぞ、まずは相手の胸をわしづかみにして…痛てて! 冗談だろ! 腕をつねるなよ!」


「冗談にも限度があるだろ」


 今変なことを言っていたのは友達だ。まぁ、名前はわざわざ紹介する必要はないか。


「いや、紹介してくれよ!」


 まったく、そもそも胸をわしづかみなんかしたらそれこそ檻の中じゃないか。一体何の治療になるんだか。


「華麗にスルーかよ!」


 もちろんさっきの溜息の原因は松木さんのことだ。最近よく視線が合う。もしかして俺のこと…と思わないでもないけど彼女との関係を考えたらゲームでのことを話したいだけなのかもしれない。そうであったとしても複雑なんだよな、自分の欲望とより事実を踏まえた推測の葛藤で。


「まあでもお前さ、俺が知ってるからってだけかもしれないけど、あんだけ松木さんのこと見てたら多分みんなにバレてると思うぞ」


「えっ! まじ!?」


 友達からの思わぬ指摘に動揺を隠しきれない。ちなみにこいつにも松木さんとVRで一緒だということは教えていない。独占欲というか…そんな感じだ。実際にはいろんな人がいるんだけど彼女の周りに現実のクラスメートは俺だけしかいない。そのポジションは誰にも譲るつもりはない。


「今度アンケートとったらいいんじゃね? 舞浜が好きな人は誰でしょう? って」


「いやそれ、最終的に公式に発表しなきゃいけなくなる流じゃねぇか!」


「いて!」


 変なことを言うので突っ込みと同時に思い切り頭をチョップしてやった。


「そんな凶暴なところ見たら松木さん引くぞ!」


「それはどうかな」


 ゲームの中では猛獣と形容しても許される存在が彼女の隣にはいるのだからこれぐらいのことでひかれることはない…はず。


「じゃあまた明日」


「おう、またな」


 友達とはここまでで、別れて家に向かう。バカ話でも疲れは癒えるのか友達と別れてどっと疲れが押し寄せてくる。


 まぁ、帰ったらまた彼女に癒されるか。


 先日【画像珠】でブルーベリーさんが撮影していた海での画像。あの中には「ナギ」としての彼女の画像がしっかりと残っている。さらに俺の画像珠にはちょっとした脅しとその見返りということでラズベリーさんが超至近距離から撮った画像も受け取らされた。


 そんなもの渡されても困る! と口では突っぱねたのに、現金なものでその画像をもらったらそれで体育祭の疲れを癒している。


 前かがみになって水かけをしている画像なだけあって、そのバストがより大きく見えるアングルになっている。その気になれば自家発電も夢ではないが、ギリギリの理性でもってそれは別の「物」で行っている。


 何故そんなものを渡されたかというと、彼女の採寸を書いたメモを俺が受け取りっぱなしになっていることと現実でも知り合いであるということがバレてしまったからだ。「ベリーワーカーズ」の二人は「今後もごひいきに」としか言わなかったけど、その笑顔の裏が表にまで出てきていて、その恐ろしさに押し切られてしまった。


 家に帰りついて自分の部屋に入りパソコンを立ち上げて画像を閲覧する。


 生身の質感はどうなんだろう…とか思ってしまうのも致し方ない、とか思いながらあることに気づく。


「これじゃあ俺、犯罪者だよなぁ…」


 だからか。今まで疲れは癒されるのに心が疲れていく気がしたのは。


 もうやめよう、こんなこと。と思いつつ、ついつい目が胸に…いかん!


 目を背けて画像フォルダを閉じて『○○記』を始めてログインする。


 その日からは画像フォルダを開きたいという欲望との葛藤に戦い続ける日々が続いた。




「で、舞浜へのドッキリって結局どうするの?」


「え? クゥちゃんが言い出したんじゃん!」


 カッサの変身が解除され、再び変身が可能になる時間までの休憩中、クゥの疑問にカッサが突っ込みを入れる。


 最近カッサは荒野ウルフの操作がうまくなっていき、今では嬉しそうな表情を作ったり喜ぶ仕草をしたりということができるようになり、変身中は本物のウルフと疑わなくても仕方ないという域にまで達していた。であるが、二人とも具体的な計画の方は未だに白紙だった。


 カッサの【変身の心得】はlv20に達し、変身時間が10分にまで伸びた。ちなみにLv20は「カッタリー」に変身可能になるLvだ。


 変身時間が10分あればドッキリに十分使えるだろうと考え、ここできちんと作戦を練った方がよさそうだと思ったカッサは口を開く。


「今から作戦会議にしよう」


「そうだね、ナギちゃんもログインしてくる気配はなさそうだし、ボク達でほとんど進めないとね!」


 そうしていやらしい笑ニヤケ顔を二人は突き合わせて街に戻る。


 街にある喫茶店の四人掛けの席を使って会議が始まる。


「やっぱりナギちゃんのウルフってことになるのがいいと思うんだよね、あの二人は現実でも知り合いみたいだから二人きりと思わせて、みたいな?」


「なるほど」


「そうだったんだぁ、現実のナギちゃんもかわいいんだろうなぁ」


 最初に提案したのはクゥで、ナギと舞浜が現実での知り合いということに着目してドッキリを仕掛けるようだ。いつのまにか合流したシンセがいることも付け加えておこう、どれがシンセかは言わずともわかるであろう。


 カッサ自身もクゥの提案でいいと思ったので、その方向で詰めていくことになった。


「体育祭が終わった直後ならそれなりに会話の種は尽きないだろうし」


 クゥの考えた設定は、最近【調教】を取得したナギがテイムしたウルフ(カッサ)の信頼度を上げるために聖樹の低い階層で狩りをしているというものだ。


 そこに舞浜を何とか呼び寄せて、二人きりで会話をしている途中でナギに待機機能でアバターだけになってもらってその間にカッサが舞浜に「俺のご主人様を何口説いてんの?」と話しかけて後は流れで。


 ナギが戻ってきたらカッサウルフは張り切って上の階に駆け抜けていき、そして変身を解いたカッサが下りてきて後は流れで、いい頃合いにネタ晴らし。


「俺はナギちゃんの忠実なしもべってわけね」


「姫君の犬はここにいたんですねー」


 シンセの言葉に、「確かに」という意味で他の二人は苦笑いをする。


「それじゃあドッキリとは言えないだろ」


 作戦会議も終了し、のんきな会話に移行したところで唐突にどこかから声がかかる。


「いや、ドッキリって言ったらあの大成功の看板大事だろ!」


「お、おう」


 その声の主の暑苦しいほどまでの熱気に気圧されてカッサも言葉にならない声を出すので精いっぱいだった。突然の乱入者に戸惑っていたクゥが正常な状態に戻りその声の主の名前を思い出す。


「ローエスさん!」


「頼まれた!」


 名前しか呼んでないはずなのに勝手に決まってしまった! とそこにいた三人は思った。しかし、そのあと一人の世界に入ってしまったローエスを見て、好きにやらせよう、という結論に至ったのであった。




 後日、ギルド「神風」では、ローエスが奇妙な物を作っているということで被害者が出ないように厳戒態勢を敷いて、ローエスを監視していたとかしていなかったとか。

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