狼と虎
カッサの作戦は題して「しゃべるウルフ作戦」という全くひねりがないものだ。やってきたクゥちゃんにウルフ姿のカッサが話しかけるだけというもの。
『クゥちゃん今どの辺?』
『ビギについたところ』
『了解、私は南門出てすぐのところにいるから』
『わかった』
クゥちゃんから大体の位置情報を聞き出す。
「もうすぐ着くみたい」
「よし、じゃあ始めるか」
クゥちゃんの情報をカッサに伝えるとカッサは変身して獲物を見つけて戦闘を始める。そして私もそれのサポートをする。
「あ、ナギちゃん」
二匹目の荒野ワームとの交戦中にクゥちゃんはやってきた。
「あれ? なんで平原ウルフがここに…ナギちゃん【調教】取ったんだ」
クゥちゃんは目の前で戦闘中の平原ウルフ――カッサ――の姿を見て首を傾げ、私が連れているウルフだと理解したらしい。事情を知らない人から見ればそう考えるのが普通だろう。
思いのほかモンスターが寄ってきたので急いで倒し、四匹目の荒野ワームを倒したところでカッサがこっちにやってくる。戦闘中細かく見れば色々とぎこちない部分があったはずだけどクゥちゃんは特に気づかなかったみたいで何も言ってこない。
「いやぁ、疲れたぁ」
「ん!?」
急に聞こえた声にクゥちゃんは驚いて目を丸くしている。
「今、しゃべらなかった?」
クゥちゃんはウルフに変身したカッサを指さしながら恐る恐る私の方を見る。
「しゃべったらだめなの?」
私はしゃべることは当然と言わんばかりの態度を見せると、クゥちゃんは、うーん、とうなりながら何か考え込んでいる。
「まぁ考えても意味ないでしょ、さ、次行きますよ次!」
カッサはノリノリで私に従うウルフの演技をしている。そしていつ覚えたのか尻尾を勢いよく振り、次の獲物へと促す。
「あっ」
「ええ!!」
でも時間の限界が来たようでカッサは元の姿に戻る。クゥちゃんはそれを見てまた目を丸くしている。
「カッサ!?」
「まぁ、そうだけど」
驚くクゥちゃんにカッサは苦笑いで答える。変身時間が短すぎて何とも中途半端な事態に陥ってしまった。
こうなってしまった以上ネタばらし。クゥちゃんから睨まれることになったけど、本気じゃないみたいだ。それどころか
「今度舞浜にもやってみようよ!」
と今度は自分が仕掛け人になるつもりのようだ。
クゥちゃんも加わりカッサのLv上げを手伝う。カッサは徐々にウルフの操作に慣れていきかみつきやひかきといった動作もぎこちなさが取れていった。
そしてLvが8に到達すると荒野ウルフに変身できるようになったので、変身中はカッサが一方的に殴れるようになった。
休憩もかねて一旦ビギの街に戻る。
「変身ってどうやってできるようになったの?」
南門から少ししたところにある喫茶店で休憩することになり、その喫茶店で席について最初にクゥちゃんが口を開く。今まで突っ込まなかったからてっきり自分でやるのは興味がないのかと思っていたけどそうでもなかったみたいだ。
それでカッサがその経緯を話す。消費Spのこととか、あと知らなかったけど心得スキルはLv上昇によるSpの獲得ができないようだ。
興味ありげに聞いていたクゥちゃんも、スキルだとわかったらスキル枠を使うのが気になるのかあんまり興味が薄れていくのが分かった。それでも最後は
「虎に変身できるようになったら教えて、取に行くから」
とやはりというか、ぶれない虎への執着心を見せた。
他にも変身している最中は能力値的にはカッサの元々の能力が基準になっているようで、変身したからと言っての強化されるわけではないらしい。でもカッサ自身がスキル構成を変更して第三エリアのモンスターぐらいなら対応できるような状態になっているので、普段のスキル構成の場合は多少強化された状態になるかも、とのことだ。
でも死に戻りが怖いのでやるつもりはないらしい。あと変身中でも補正スキルは上がっているらしいので、【変身の心得】のLv上げのために他の全てのスキルのLv上げは断念ってことにはならないようだ。
休憩を終えると第四エリアへ移動。カッタリー辺りは恐ろしいので森をうろつくことにした。
「アントの反応がうじゃうじゃするよ」
クゥちゃんの索敵レーダーに本当に大量にアントがひっかかっているらしく、気持ち悪そうな表情をしている。
「まぁナギちゃんがいるから大丈夫っしょ」
カッサはあんまり深く考えていないようで早速変身を行って標的を見つけて駆け出していく。それに合わせて私とクゥちゃんは周囲の警戒を始める。
「来た!」
カッサが標的に一発目を加えた直後にクゥちゃんが小さく叫ぶ。あんまり大きな声を出すと、気づいてない範囲のアントまで引き寄せてしまう可能性がある。アントは敏感でそういう小さい物音にも気づいて駆けつけてくる。
寄ってきているアント達はどうやらカッサを標的と決めて寄ってきているようで、ぞろぞろとあらわれるその影がカッサに近づいているのが私の目からも確認することができるようになる。
「今!」
クゥちゃんの号令とともに私は【スポットライト】を発動する。これで周囲のアントが私に私に視線を集めて釘付け状態になる。
「よっしゃ」
カッサは最初の標的にしていた目の前のアントに集中して戦闘を再開する。
「何体?」
「とりあえず2体」
「分かった」
何体残しておくか尋ねたクゥちゃんが、カッサの返事を聞いてアントの攻撃を開始。私もそれに合わせてアントの数を減らしていく。
数が減ったところで改めて二人の様子を見る。荒野ウルフに変身しているカッサは当然としても、クゥちゃんも立派に猛獣だった。獣二匹がアントを狩る。
虎が減らせる限り減らし終えたころ、ウルフは二体目を倒し終えて最後の標的に向かうところだった。
「あ! くそ」
攻撃を加える前に変身が解けてしまったのでカッサは悔しそうな顔をする。取り残されてしまったアントは虎の爪の錆となった。
「じゃあまた3分休憩」
「Lv上げ大変だね、これ」
休憩を口にするカッサにクゥちゃんは苦笑いを浮かべながらそんな言葉を漏らす。
「Lvが上がったら時間延びるの?」
「っぽいからそれを信じてやってるんだけど」
私の質問にカッサもそうでないと困るといった表情で答える。
「ところでさ、準備状態とかいうの試した?」
クゥちゃんが話を変えて尋ねてくる。そういえばこの前それを試そうとしてたのにすっかり忘れていた。あんなドジまでしたのに…。
「じゃあちょっと今からやってみる」
私はそう言っローエスさんから渡された服から、ベリーワーカーズの服に装備を変更。腰にダガーホルダーを携え、リボンに【蒼翼】を差し、【ペーパーブーメラン】を手に持つ。
「こんな感じ?」
「だから? って感じだね」
クゥちゃんから厳しい評価が下る。
私は腰にダガーホルダーをつけたまま元の装備に戻す。今回の準備状態の利点はこれだろう。ダガーを持った状態でブーメランを投げると【二刀流】の威力調整を受けてしまう。だけどダガーホルダーを腰につけているだけなら、ブーメランを投げても【二刀流】の判定を受けない。
以前は腰にダガーホルダーをつけていつでもダガーを投げられる状態にするのにも【二刀流】のスキルが必要だったし、【二刀流】判定がされてしまっていた。
そのことを二人に教えたけど、クゥちゃんはよく分からないといった感じだった。
そのあとはカッサのLv上げに付き合った。そして10になったときに変身時間が5分に延びた。舞浜君へのいたずらに使えるレベルにはまだかかりそうだと残念がる二人の姿にはどこかうれしそうにしている気配を感じた。
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NAME:ナギ
【ブーメラン】Lv30【STR増加】Lv7【幸運】Lv45【SPD増加】Lv4【言語学】Lv41【視力】Lv40【アイドル】Lv13【体術】Lv26【二刀流】Lv31【水泳】Lv20
SP24
称号 ゴブリン族のアイドル 恋に惑わされる者 ホマレの惚れ人