終業式と諸々
「う~だるい、あ~だるい」
京ちゃん――京子――だ、さっきまで行われていた終業式で校長先生の長い挨拶をきいてこのテンションだ。
「まぁ、校長先生が学校にとって大事な存在だって学生へのアピールタイムなのよ、きっと、話が長いのはご愛嬌って具合に…それより後は掃除して帰れば夏休みの始まりなんだから、もっと元気出せば? ほら、渚も!」
結衣ちゃんがそういう、ただ私を京ちゃんと一緒にしないでほしい。私は校長先生のお話でこんなことになってるわけじゃない。
「昨日寝るのが遅くなっちゃって…」
「え!? 渚! 遅くまでやるぐらいはまってくれたの!? 私がいなくても全然楽しんでるじゃない!」
誰かさんが復活した。
正確に言うと、色々あったおかげでぐっすり眠れそうだったんだけど、昨日のPTの人たちも本当は、厄介な奴だとか、はずれひいたとか思ってたんじゃないかという疑念で、思ったように眠れなかった。
「楽しんではいるけど、これはそんなんじゃないよ、ってかそれを理由に京ちゃん、私を永遠に放置するつもりなんじゃ…」
「う! ち、違うわ、ほら、新しいダンジョンできるからしばらくは…ね」
図星だったのか…。いや、違うのかもしれないけどしばらく放置なことが確定した。
「じゃあ京子、なんで渚を誘ったのよ?」
結衣ちゃんは私の味方であるらしく、京ちゃんに問い詰める。
「ほら、みんなで一緒にできればもっと楽しいと思って」
「「一緒にやってないし」」
二人で冷たい視線で攻撃してみた。あらぬ方を見ながら京ちゃんが
「だって普段彼氏と行動してるし、たまには友達と一緒にとやりたいと思ってもいいじゃない? ちょうど渚の誕生日と新規受付の期間が被ってたし、そしたら新エリアとか新しいものが次々と…ね?」
とりあえず拗ねてやった。そのあと昨日のことを話したら爆笑されさらに拗ねてやった。ただあの状態が能力強化の【バトルハッピー】状態であることが分かった。○○ハッピーは上位の能力強化に当たるらしくて、大幅なメリットとデメリットが複合されているんだとか。
原因は京ちゃんでもわからないらしかった。何かしらの原因でああなって、それがゲーム上の「幸運」ということなのだろう。
掃除を済ませて終礼。そのあと私たちは近くのファミレスでランチとデザートを食べた。そのあとは近くの雑貨屋さんとかを回り、京ちゃんが彼氏と仮想空間デートの時間というのでそこで帰ることになった。
小走りで帰っていく京ちゃんを見ながら、
「渚は急がなくていいの?」
「別にいいよ、とくに急ぐこととかないし」
「そうなんだぁ、――でも京子はあんなだし、渚もあっちの世界を楽しんでるみたいだし、夏休み私は暇になっちゃうのかな」
そんなことを言う結衣ちゃん。まあVRをやってれば一緒に…なんてできるんだろうけど、結衣ちゃんのお財布事情と、『○○記』の新規受付期間の事情がかみ合わない以上いたしかたない部分もある。
「誰かさんはほっといて、二人だけでもそのうちどっか行こうよ」
そうやって結衣ちゃんに微笑む。結衣ちゃんが私の味方のように、私も結衣ちゃんの味方だ。そのうち結衣ちゃんが『○○記』を始めたら私は協力しようと心に誓う。そう、京ちゃんがいなくても――
「渚…ブラックになってるよ」
私の(歪んだ)誠意は結衣ちゃんに届かなかった…。
――――――――――
ログインするとちょうど昼時だった。ブルジョールの街を散策しつつ、防具屋と思ってとある店に入るとブティックだった。色々なデザインの服が並んでいて、一応防具扱いだった。数値自体は微妙だったけど、高価なものには特殊能力がついていたり、何よりかわいい服がいっぱい!
ブティック以外にも、ドレス専門の店や紳士服の専門店もあり、防具屋の鎧もかっこいい男性用や、かわいい女性用と、ファッション重視の人が通うというのにも納得がいくものばかりだった。
武器屋にも見た目が凝ったものが置いてあった。雑貨屋の投擲用の武器にも新しいものがあった。
【高級ボール】
武器カテゴリー:ボール
ATK+1
効果:ダウン(微)
高貴な者すらひざまづかせるボール。
1個100Gもするとは思えないこの性能。ダウンは倒れたり転んだ状態になることで、起き上がるまでの間無防備にできる。でもこの(微)ってなんだろう、確率の話なのかダウン時間の話なのか。まあこれは買う必要はないだろう。
【良品ダガー】
武器カテゴリー:ダガー
ATK+10(STR依存)
良品のダガー。良品のため単価は高い。
こちらも高いが5本だけ買ってみた。第三エリアでデビューするときの保険になるかもしれないし。
そして同時に昨日忘れているような気がした(真の)何かを思い出す。
――ああ! スミフさんからダガー買う約束してたんだった!
昨日は夜の時間帯にその話をして、そのあと図書館にこもっていた。一応昼の時間帯になったら取りに行くと言っておいたが、おそらくスミフさんはログアウトしたと思って見過ごしてくれたに違いない…が、あんまり待たせてもいいわけがない。
慌てて転移ポータルに向かいながらメッセージを確認すると、スミフさん、マキセさん、ジェットさん…って知らないうちにいろんな人からメッセージがきていた。
とりあえず他の人のメッセージは後にしてスミフさんのメッセージを確認、どうやらメッセージを送ってきた時点では怒ってないみたい。
「待ったぞ、……心なしか息が切れてるようだが何かあったのか」
「いえ、何も? ははは…」
こんなので隠し通せるのは、相手が鈍感でもない限り無理だ。なのできちんと事情を話した、もちろん文句を言われたが仕方がない。そのあと約束通りダガーを購入し
「ということでこれからは南が中心になるかもしれませんね」
と私は今後の活動について触れておく。
「そうか、じゃあ俺もそろそろ南に移るか」
そうしてスミフさんと別れて、他のメッセージを確認する。
<ナギちゃんへ:Fromジェット>
ギルドのこととかはすまないけど企業秘密だ。その代りといってはなんだけど、ブーメランを使いたがってたナギちゃんのためにブーメランの専門家連れてくから、明日の午後一時からは空けといてね。もちろん無理そうなら空いてる時間を言ってくれていいから。あと、ナギちゃん・・・・・。
例のメッセージを注意するときついでに、投擲用の武器に関することや、スミフさんが言っていた投擲メインのプレイヤー中心のギルドについて、ジェットさんなら何か知らないかと聞いていたけど…知っているけど言えない、言わない、ということらしい。まぁ、ブーメランが気になるし、よしとしよう。それにしても、・・・・・、って何かな? 5文字、まさかね。
点五つに込められた意味を考えるのをやめ、マキセさんのもとに向かう。マキセさんは図鑑に関しての話があるそうだ。
「おっナギちゃん、メッセージ読んでくれたかい?」
「はい」
【調教】のスキルでモンスターをペットのように操って戦うプレイヤーは、自身のモンスターに指示を出す際に細かい指示を出せるということで、【言語学】のスキルを習得している人が多く、レベルも高いとか。今回はマキセさんのそういった知り合いに頼んでゴブリンの図鑑が読めるか検証するらしい。もちろん私も賛成だ。
「ということでしばらく図鑑は俺があずかることになるけど…」
「はい、お願いします」
一定期間相手にアイテムを貸す「レンタル」というシステムがあるもののこれはほんの数時間ぐらいしかできないので、後はマキセさんに任せて、結果を教えてもらうときに返してもらえばいい。マキセさんはそのまま自分のものにする人でもないだろうし。
そうしてマキセさんに図鑑を渡し、第三エリアで狩りをするため南に向かう――
「――渚?」
後ろから私を呼ぶ声がした。
――――――――――
NAME:ナギ
【投擲】Lv25【STR補正】Lv19【幸運】Lv18【SPD補正】Lv17【言語学】Lv8【】【】【】【】【】
SP17




