ホマレ
第四エリアの平原に出てくるとカッサはすぐに姿を消し、気配を消した。今のカッサなら頭上に映るモンスター名の表記さえ見ればホマレかカッタリーか見分けができるそうだけど、知ってのとおりカッタリーを注視するのは危険だ。
カッタリーは気配を消した相手に襲い掛かってくる。それを利用すればカッタリーだけを殲滅することができ、尚且つ気配を消したカッサに反応しない奴がホマレだと目星を付けることができるそうだ。
気配が消えたカッサは例えPTを組んでいても見えなくなってしまうので、私達にカッサの位置を知ることはできない。
――普通なら。
カッタリーは気配を消した相手に対しては単純な突進攻撃しか行わない。だからその延長線上にカッサがいるということになるらしい。
それは本当のようで先ほどから何も見えないところに突進していくカッタリーの姿が目に映る。そしてそんなカッタリーを私達はできるだけ早く倒していく。
幸いチェイサーはおらず、イノボンにしても他のPTが戦闘を行っているため、私達に攻撃を仕掛けてくるのはウリボンやカッタリーだけでジェットさんと私の二人でも十分以上に対処ができるモンスターしかいない。
そのこともあって順調にカッタリーを狩り続ける。気配を消したカッサが一定の範囲内に入ったと思われる瞬間に猛然と突進していくカッタリーの姿を見て一瞬別のモンスターじゃないだろうか、と疑ってしまったくらいあからさまにアクティブモンスターのため寄ってくる寄ってくる。
「カッタリーを狩るときにはこういう釣り方があるのか」
ジェットさんもその様子を見て思うところがったらしい。
しばらく続けていると目に映る景色にカッタリーの姿がほとんど無くなってしまった。するとカッサが姿を現して私達に近づいてくる。
「多分あそこにいるカッタリーがホマレなんじゃないかな」
カッサが指差す先には一匹のカッタリー。
「今からあいつに近づいて話しかけてくる、多分大丈夫だと思うけどもし違った時は頼むね」
カッサの言葉に私とジェットさんは頷く。カッサは気配を消さずにホマレと思われるカッタリーに近づいていく。そしてある程度近づいたところで腕を頭の上にあげて大きく○のサインを出したので、私達はそこに向かって駆け出す。
私達が丁度そこに着いたのと同時にホマレはカッタリーの姿から本来のピクシーの姿に戻った。
「おや、お久しぶりです!」
ホマレは私を見てすぐにそう言って私の手を取ってきた。
「えっと…」
「あぁ、そうでしたね、あの時は私はカッタリーのままだったのでお気づきになられなかったのですね」
私の反応にホマレは残念そうにしている。だけど私にも心当たりがある。忘れもしないカッタリーにトラウマを植え付けられたあの時チラッと表記が違って見えた、おそらくあの正体…私をバトルハッピー状態にしたのは多分こいつだろう。
「バトルハッピーになったのってあなたのせい?」
笑みの中に怒りを含めてみた、人がやってるのを見るとどうやってやるんだろう? と疑問に思っていたけど私の顔を見て表情をひきつらせたホマレの反応を見ると案外自分でもできるんだ、と感心。
「え!? いや、あれはあなたのことを思って…お気に召されませんでしたか!?」
「全く! おかげで恥ずかしい姿を他の人に見られたんだから!」
「ひぃぃ!」
狼狽するホマレを責め立てる。すると
「えっと…」
カッサは何を言えばいいのか迷っているようだけど、口を挟まなければと思ったらしくとりあえず何か言おうとする。
「はいぃ!」
願ってもないタイミングで助けが来たと言わんばかりにホマレはカッサに反応した。
「どういうこと?」
「あれだろ? 掲示板でも女にはいい効果のハッピー状態にしてくれるって言ってたし…ナギちゃんにはそれが悪い方向で働いたってことだろ」
「ああ、なるほど」
カッサの質問にジェットさんが推測という名の「事実」を述べる。
「どおりで俺と初対面の時と対応が違うのか」
「は、ははぁ、カッサ様そのようなことは決して」
「前は様なんてつけてなかったけどなぁ、男女差別? 悪いとは言わないけどこうも目の前でやられちゃうとねぇ」
「そうなのか? ナギちゃんの点数取りに必死だな」
「のぉぉぉぉおおおお!!!」
事情を理解してしまったカッサとジェットさんによってホマレはさらに追い打ちをかけられた。自業自得だ。
「…で、こいつは何なんだ?」
ジェットさんは飽きたようでカッサにホマレから得られるものを尋ねる。
「それは俺から説明しよう…」
ふらふらになったホマレがこればかりは譲れないというかのようにジェットさんの質問に答えようとするカッサを制する。
「簡単に言えば【変身の心得】を取得可能になる条件の一つだ」
「心得か」
ホマレの言葉にジェットさんは何か心当たりがあるようでよく分からずきょとんとしている私とカッサとは違う反応を示す。
「知っているのか、ならこれ以上言わなくてもいいだろう…む、【世界樹の枝】はすでに持っているのか」
普通の青年だったその顔はやつれて一気に老け込んだように見えるホマレは弱弱しくもどこか威厳を感じるような声色で話す。
「ああ、精霊樹で長老とかから今の俺達ではここに来ても意味はないけど、お前に会えば意味があるって言われてな」
「なるほど、そこまで知っているならば話が速い、ではお二人私の前に立っていただけますかな」
そういわれたのでホマレの前に私とジェットさんは並んで立つ。するとホマレはまずジェットさんに向かって手をかざす。すると一瞬光の粒がジェットさんの身体を包む。そして次にホマレは私に向けて手をかざし同様に光の粒が一瞬だけ私の体を包む。
ホマレはそのまま目を瞑ってかざした両手を前に押し出すようにする。
――スパン!
「いったあああああ!!!」
私の胸に向けて近づけられていた両手を思い切りはたきおとした。
「ゴフッ」
次はジェットさんの拳がホマレのおなかにヒットした。
「はぁはぁ、私が悪かったのは認めます…ですがあなたのパンチは痛いけどもまだいいですが、ナギさん? はあれでも私にダメージが入るんですから冗談にならないですよ」
ホマレは息切れさせながら私に意見をする。【体術】のスキルを持ってるので普通に叩いただけでもダメージ判定が出る。PKができない仕様なのでプレイヤーにはダメージ判定が出ないけどNPCはまた勝手が違うようだ。
「冗談じゃないから!」
「そそそ、そうですね」
思い切り威圧する。普通の人相手にはできそうにもないけど、ピクシーは体が赤ちゃんサイズなのでこういった態度もとれる。
大体女性の胸を触ろうとして冗談で済むと思ってるなんてNPCだからって許さないんだから。
「じゃあ、そろそろ行くな」
「お気をつけて」
ジェットさんの一言にもはや誰かわからないくらい謙虚に会釈してホマレは去りゆく私達を見送った。
丁度位置的にはあの隠れた場所の近くだったのですぐにその境界線についた。
「ここになにかあるの?」
カッサは知らないみたいで首を傾げている。
「今から【世界樹の枝】をかざす、そしたら見えない壁を恐れずに進め」
私の時には丁寧に説明してくれなかったのに、と少しむっとしながら私は以前と同じようにして壁に向かって歩く、そしてにゅるっと林の中へ出る。直後にジェットさんとカッサがにゅるっと見えない壁から姿を現した。
「おおぉ、なんだここ! こんなところあるのか、もしかして大発見!?」
カッサは興奮している。
「残念だが、あるクエストを受ければここまで誰だって来れるぞ」
「そうなんですか…」
ジェットさんの一言にカッサは急速にテンションが落ちていった、そのあと恥ずかしく思ったのか顔が赤くなる。
「ところでジェットさん、心得ってなんですか」
色々あって聞きそびれたけど、今ならと思ってジェットさんに聞いてみる。
「うーん、それはまぁ、ブライトに聞いた方がいいかも、行こう」
そう言ってジェットさんは目の前に立つ建物を指さす。それに向かって私達は歩き出す。
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NAME:ナギ
【ブーメラン】Lv30【STR増加】Lv7【幸運】Lv43【SPD増加】Lv3【言語学】Lv41【視力】Lv40【アイドル】Lv12【体術】Lv26【二刀流】Lv31【水泳】Lv20
SP24
称号 ゴブリン族のアイドル 恋に惑わされる者 ホマレの惚れ人




