始業式と公式と兄貴
木曜日
とうとう来てしまった。二学期が。とはいってもやることと言えば始業式の長ーい校長先生のお話や生徒指導の先生のお話。進路指導の先生の三年生と見せかけて二年生に向けた勉強への姿勢の話。
それが終わると生徒集会…。内容は体育祭のブロック分け。全学年各8クラスを三つのブロックに分ける。なのでどのブロックにも一つクラスが少なくなる学年がある。私達のブロックは三年生から、3+2+3の計8クラス。
いいのか悪いのかはよく分からないけど、三年生は運動が得意な人が少ないクラスを二クラスも割り振られた。スポーツクラスなんかはないので極端に運動ができる人がクラスに固まることはないけど、複数になるとどうしても偏ってくる。
私達二年生は二クラス。他のブロックのクラスと比べても差はないけど一クラス少ない分層が薄くなる。一年生は…知らん。
ここまで男子評。
女子についてはよくわからない。競技も運動神経を必要とする要素が薄い競技が多いし。でもリレーは辛そう。
「今年は最下位かもねー」
京ちゃんは早くも諦めている。まぁブロック分けを聞いた男子の表情を見れば京ちゃんだけではないんだけど。中には逆境だから燃える、みたいな人もいるにはいるけどね。
ブロック分けが終わると各ブロック指定の場所で集会が行われて、そこでブロック長やら必要とされる役職の人が紹介される。これは事前に立候補者がいて決まっているらしい。言い換えればブロック分け自体は一学期の時点で決まっているということ。
それから各競技の出場者を決める。これは志願制なので、運動が得意な人に丸投げ。男子全員強制参加の組体操とかあるので、結局なんの競技にも参加しないということはできないんだけど。
集会が終わり、午前中のうちに学校が終わる。
私と京ちゃんと結衣ちゃんの三人はお昼を食べに街を歩く。暑さで頭がおかしくなりそうな京ちゃんをなんとか正常なままクーラーの効いたファミレスへと連れ込むことができた。
お昼を食べた後のデザートはかき氷。
そのあとまたぶらついて帰りは夕方になった。
「○○記」公式サイトに来週のアップデート内容が発表された。準備状態の実装だそうだ。これまで、主に武器では鞘におさめていようと装備状態ということになり、その状態で他の武器を使うには【二刀流】のスキルが必要だった。
この準備状態とは鞘に納めている間は他の武器を装備できるという物だそうだ。遠距離武器と近距離武器の併用をしているプレイヤーにとって恩恵のあるものみたいだ。ただし、装備しているものを落としたからといって【二刀流】のスキルも持たずに準備状態の武器を装備することはできないらしい。
ゲームにログインすると時間帯は夜だった。そして公式サイトに書いてあることを確認しようとしたらできなかった。…来週実装ということを忘れてたんだもん。
こんなドジの現場を誰かに見られなくてよかったと安堵する。
『ナギちゃーん、今大丈夫?』
クゥちゃんからのコールだ。大丈夫だよって返すと聖樹まで来てとのことだったので向かう。
ルージュナの西門に着いてクゥちゃんを見つけて合流し、聖樹へと向か…わない。
「どうしたのクゥちゃん?」
私は気になってクゥちゃんに尋ねてみた。
「舞浜待ち…、ボク達二人だと11階以降辛いから」
それなりにマジで今日はやるらしく、盾役の舞浜君が必要なんだそうだ。
「でも舞浜君ログインしてないよ?」
「一応メッセージ送ってある」
「他の人じゃダメ?」
「…変な人引くと面倒、それに舞浜なら回復魔法も使えるし」
クゥちゃんなりに考えがあるようだ。あとクゥちゃんが舞浜君を呼んでるの初めて聞いたけど呼び捨てだったんだね。
それでも来るか来ないか分からない相手を待つより確実にいる人の方がいいと思って私はログインしていた知り合いを呼び付けた。クゥちゃんも舞浜君へのメッセージを訂正したようだ。
しばらく待つと私の知り合いがやってきた。
「アッキー! 参~「はいはい!」」
うるさい変な人はやってきた…やってきてしまった。いや、私が呼んだんだけど、このハイテンションは呼んでない。クゥちゃんもぽかんとしている。
「すいません、遅れまして」
私を見つけてすぐさま走りだしたお兄ちゃんに振り切られてしまった一人の女性が追い付いてきた。その髪は肩甲骨辺りまで伸びていてクリーム色、そして優しい美人な顔立ちの女性だった。
「えっと…誰?」
その人は確かに「女性」だった。お兄ちゃんはホモになったはずなのに…。
「はい、ルーナと申します」
その女性は優しさを帯びた微笑みで私の「お兄ちゃんに対して」の質問に答えた。
「ど、どういう関係…ですか?」
あくまでこの世界は仮想現実。ただの友人の可能性は計り知れないほど高いことは分かっているんだけど、どうもお兄ちゃんと女性が一緒に二人でいるなんて考えられなかったので聞いてしまった。
「どうと言われましても…ひ・み・つ? ですかね」
微笑みのまま人差し指を立てて、ひ・み・つ、の最後に小首をかしげるようにして、「ですかね」でその微笑みがはっきりとした笑みへと変わる。その動作一つ一つが絵になるようだった。
「どどどうしてこの人が一緒に?」
なぜか私の方が恥ずかしくなって動揺してしまい、お兄ちゃんへの質問に切り替える。
「え? だってヒーラーもいるとか言うから」
何当然のこと聞いてんの? みたいな顔で言われてしまった。
「ホモと聞いていたのに」
「あ、ボクも」
「だからホモじゃねえって!」
今まで黙っていたクゥちゃんも今の私の呟きには反応した。
「よし、行くか、ルーナは聖樹の10階まで行ったことないから11階行くにはボス倒さないとな」
「え? 10階?」
「11階以降で戦いたいって言ったと思うんだけど…」
お兄ちゃんの言葉に私とクゥちゃんは首を傾げる。聞くとルーナさんは聖樹に来たことすらないらしい。
「どうせすぐ終わるから問題ないかと思って、ちょっとルーナの協力もしてくれ」
「ごめんなさいね、ナギちゃんと…犬? ちゃん」
「クゥです、あと虎です」
すぐ終わると言い張るお兄ちゃんを疑うことは置いといて…最近クゥちゃんも二つ名がついたらしい、姫君の犬。つまり私の犬なんだそうだ。何故犬なのかわからないけど、クゥちゃんは虎がいいらしい。彼女の虎好きも相当なものだ。
切り替えて聖樹へと向かう。聖樹では相変わらずゴブリン達が頑張っていた。そしてちらほらとプレイヤーとパーティを組んでいるゴブリンもいた。
10階に着くとボス部屋の扉があいてるのにボス前部屋にローブ姿の男性が一人いた。
「どこのモテ男かと思ったぜ…ナギちゃん久しぶり」
悪態をつきながら近づいてきたその男性は、バジルさんだ。
「久しぶりです」
「じゃあ行くか」
お兄ちゃんの一言でボス戦へ。
――すぐ終わった。
バジルさんが簡単な火魔法を連発。それで動きが鈍ったところに全員が一斉攻撃。その間に準備していたバジルさんの強力な風魔法ですぐさま倒せた。
「こんな…簡単なんて」
「火属性が使える人がいるだけで全然違うんだね…」
私とクゥちゃんはショックを隠せなかった。
11階に到着するとバジルさんとはお別れ。上の階で狩りをやっているらしく時間が空いたので片手間に手伝ってくれたらしい。
比較的小部屋が多い15階で狩りを行った。【SPD上昇】がLvMaxになったのでSp8を消費して【SPD増加】に進化させた。
クゥちゃんも今日の成果に満足なようだった。とあるスキルを次の段階に進化させることができたそうだ。
――――――――――
NAME:ナギ
【ブーメラン】Lv29【STR増加】Lv5【幸運】Lv42【SPD増加】Lv1【言語学】Lv41【視力】Lv40【アイドル】Lv12【体術】Lv20【二刀流】Lv31【水泳】Lv20
SP21
称号 ゴブリン族のアイドル 恋に惑わされる者




