憂鬱とパーッと
今日は午後からログインするとクゥちゃんは学校が始まったそうで夕方あたりからログインだそうだ。
今日で夏休みが終わり明日から学校が始まる。正直夏休みのほとんどゲームやってたなぁ…としみじみしている。
それと同時に押し寄せる憂鬱。
「はぁ…」
ついため息が漏れる。
「どうしたの松木さん?」
おっと、今は舞浜君と一緒に狩りをしているところだったんだ。ペーパーブーメランの使用感を確かめるのに丁度いいと思われる聖樹の6階に来ている。
聖樹は6階から普通のダンジョンのように入り組んだ通路と数個の小部屋という構造になる。通路のスペースは海底遺跡のそれとあまり差がないのでここを使っている。強さにおいても海底遺跡より強いので攻撃力の面でもどんな感じかを計るのに適していると(舞浜君が)考えたためだ。
そして今の溜息は夏休みが終わると同時に始まる体育祭の練習を思ってのものだ。学校によっては一学期にやるところも多いようだけど、私の学校では9月開催だ。
「夏休みが終わると体育祭の練習かぁ~と思うとね」
「運動苦手なんだ」
「暑いなか動くのが…ね」
舞浜君の言葉を訂正しておく。運動は苦手では、ないってほどじゃないってくらいかな。
「まぁ確かに、でもゲーム終わったら暑くて死ぬところだった、みたいなことない? それが平気ならたぶん大丈夫だよ」
「クーラーつけてるから…」
「…部屋にクーラーついてるんだ」
舞浜君のよくわからないフォローはカルチャーショックという答えを導き出したようだ。ていうか彼はVR中の身体のことを考えずにやってるんだろうか? また彼の心配な部分が露見された気がする。
「それで、ブーメランの方はどんな感じ? 扱いに慣れてきたように思うけど」
カルチャーショックから立ち直った舞浜君が問いかけてくる。
このペーパーブーメラン、あまりのリーチの短さに最初はかなり戸惑った。描く半円の軌跡の最も遠くなる部分は槍のリーチよりやや長いくらいだった。これだと前衛として戦った方がやりやすかったりする。
その代り威力は相当あると考えて問題なさそうだ。6階のモンスターも無事一撃で倒せている。
「ソロならいい感じだけど、パーティだと役割が変わってきそうだからどうなるかな、ってところだね」
「固定パーティで理解できてると幅が広がってきそうだね」
私の見解を聞いて舞浜君も考えを述べる。それから確認はもう十分であることを伝える。
「じゃあ、これからどうする?」
舞浜君が尋ねてくる。
「ん? 舞浜君は何かないの?」
元々ログイン直後の私に一緒に狩りに行こうと誘ってきたのは彼だ。何か特別に目的がなければだめ、ていうわけでもないけど一応聞いておく。
「えっと…じゃあ夏休み最後だし海でぱーっとしようか? 最近露店出してる人とかいて疑似海の家とかやってるらしいし」
「そ、うしようか」
目の輝きが変わった舞浜君に若干引く。それに海底遺跡を突破した日にはすでに海の家っぽいことをしている人がいたからその辺は私だって知ってるんだけど。
それから聖樹を出る。時間帯は夜だ。ルージュナに戻ると転移ポータルでポルトマリアへ。そしてビーチに着く。
ビーチについて早速水着姿になった舞浜君は装備を変更しない私を見て不思議がっている。
「別にビーチだからって水着になる必要はないでしょ?」
「あ、うん、そうだね…でも気分的に、ね?」
ちょっと意地悪な言い方をすると舞浜君は戸惑っているようだ。その舞浜君の反応を楽しみつつ私は装備を変更する。Tシャツにハーフパンツというラフな格好に。
「そんな服も持ってるんだ、女の子はそういうの気になるんだね」
舞浜君は一人で何か納得している。
「ベリーワーカーズ」の二人がいつ私を口車に乗せて海で水着姿になっているところを激写なんてことをするかわからないので、その備えとして「Berry Workers」に置いてあった服を適当に選んだ。
私の意図に気づかなかったのかその時レジだったブルーベリーさんは自分たちの作品じゃないものを買い取った私を見てものすごく驚いていた。
「かき氷なんかもあるみたいだね、松木さんはどの味がいい?」
「えーっと…とりあえず本名はやめてもらっていいかな?」
「あ! ご、ごめん!」
彼は私と二人になるとすぐに本名になる。聖樹では他に人がいなかったからいいけどさすがに人の多いビーチでは困る。
かき氷の方はイチゴ味だ。っていうかそれしかなかった。再現と量産ができるのがそれだけだったらしい。他の味は量産できないのですぐ売り切れになるんだそうだ。
「海に来たけど、海でパーッとって何するの? 夜じゃロマンチックになるだけでパーッとって気分じゃないし」
「う、そうだなぁ、言ってみたはいいけれど…」
何も考えてなかったんだ…。
「もう少しで朝になるから、それまでかき氷で待機…」
「……了解」
海の音と人々のはしゃぐ声や語り合う恋人たちの声を聴きながら黙々とかき氷を口の中に入れる。数秒かけてじわぁっと明るくなり朝が来るんだけど、その直前くらいに
「ナギちゃん!?」
「ラズベリーさん!」
ベリーワーカーズの二人だった。なんでも海体験してないからいかなくちゃ、ということで来たらしい、忙しいんじゃなかったんですかねぇ。
「息抜きも大事でしょ? で、彼氏? ジェットもふられちゃったかぁ~」
「違いますよ?」
勝手な想像をするラズベリーさんを睨みながら否定する。
「そう? そんなことよりナギちゃん、海の水掛け合いっことかしようよ」
そういって海へと駆け出すラズベリーさんを見て、子供か!? と突っ込みたいのを我慢し、私も後を追う。
服のまんま海に入ると仕様なのか服では水にぬれた感じは一切受けない。その代り体が重く動きづらくなるので、結局水着に装備を変更した。
海で遊ぶ人で水着を着ていない人が他に見当たらなかったのは、おそらく動きづらくなることが要因みたいだ。
途中からクゥちゃんがシンセさんを連れて参戦。シンセさんのボディタッチが多かった気がするけど気のせいだと思う…多分。
ブルーベリーさんは主にカメラ小僧になっていた気がする。スクショと違って【画像珠】を使う場合は手に持って照準を合わせて撮影をしなければならないので一目でわかる。
でも特に何も言わない。もし私を撮られていても後で消してもらえばいいしね。
最後はみんなで集合写真を撮った。
一通り遊び終えてベリーワーカーズの二人がブルジョールへと戻るのにみんなで一緒についていく。
「今日撮った分はみんなが【画像珠】を持ってるならリンクしてコピーできるけど?」
「あ、じゃあお願いします」
ラズベリーさんからの提案にシンセさんが即答する。
「他のみんなは?」
「じゃあボクも!」
「俺…も」
クゥちゃんと舞浜君もほしいらしい。
「ナギちゃんは?」
クゥちゃんが首を傾げながら私の方を向く。
「それじゃあ、私も」
夏休み最後の思い出が仮想現実とはいえしっかりとデータとして残るんならと私もお願いする。【画像珠】持ってないんだけど。
「わかった、今すぐほしくて【画像珠】持ってない人はその分のお金は払ってもらうってことで、いいかな?」
それにもみんな頷く。結局【画像珠】を持っていたのはシンセさんだけだった。そして全員【画像珠】を購入した。
こうして夏休みの最終日は終わりを告げる…。
……あれ? 何か大切なことを忘れているような。
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NAME:ナギ
【ブーメラン】Lv28【STR増加】Lv4【幸運】Lv42【SPD上昇】Lv39【言語学】Lv41【視力】Lv40【アイドル】Lv12【体術】Lv19【二刀流】Lv30【水泳】Lv20
SP23
称号 ゴブリン族のアイドル 恋に惑わされる者




