第二の街に向かって②
第五エリアに出てくるモンスターは、「クロウシ」、「シロクロウシ」、「ポニテー」、「平原大ネズミ」の四種、ボスモンスターはいない。クロウシはまぁ、普通に牛。シロクロウシはホルスタインみたいな外見。ポニテーはたてがみがポニーテールになっているポニー。平原大ネズミはそのまま大きい鼠、ハムスターとかみたいに可愛ければいいのに…攻撃できなくなりそうだけど。
牛モンスターは攻撃を顔でガードして、ある程度威力を弱めてくるので正面から攻撃するより横から攻撃した方がダメージを与えやすい。でも、PTプレイの場合はあえてガードさせてその隙に他の人が一斉に攻撃するというのがオーソドックスな戦い方らしい。
私たちは今、第五エリアの平原で休憩している。
「ナギちゃん、大丈夫?」
「はい…だいぶ落ち着きました」
エリリンさんの声にそう答える。落ち着いたとはいえ、心の傷は大きい。
エリリンさん達の話によると、私は第五エリアに入るや颯爽と駆け出していき、当初ネズミ狩りを予定していたにもかかわらず、クロウシに突っ込んでいったらしい。そして、アーツをクールタイムなしでぶっ放し、一匹を倒すとまた別の標的を追いかけて攻撃を仕掛け始めたとのこと。その時「キャハハ」とか「ウフフフフ」とか嬉々に満ちた表情だったとか。その姿に皆あっけにとられ、しばらく呆然と私を眺めていたらしい。
そのあとようやく我に返り私の援護を始めるも、倒しても倒しても標的を見つけて攻撃を仕掛けていき、とどまるところを知らない私を見て怖くなったとか。そして、MPが尽きたと思われる頃になると、今度はHPを消費してアーツを使い始めた。そこで何かの状態異常だと思ってウェルスさんが回復魔法を使うが治らず、最終的に武器が尽きたと思われる頃に、ぶっ倒れたのだそうだ…。
目を覚ました時にエリリンさんから「覚えてないの!?」と聞かれたけど、覚えていない…ような覚えてるような、とにかくさっき会ったばかりの人にそんな恥ずかしい姿を見られるとは……。
「あの時のナギちゃんは一応かわいかったし、どこか怖かったけど、うん」
「それは逆に傷をえぐるだけだろ…、まぁ、その…Lv上げは予定以上の成果が出たし、特にウェルスは一気に上がったみたいだし」
タクトさんも歯切れが悪い。ノンストップで駆け回り、HPを消費してまでアーツをぶっ放す私に対してのバフや回復魔法で忙しなく働いたウェルスさんのスキルLvは一気に上がったらしい。
「ええ、暴走状態のナギさんに回復魔法をかけたらぐんぐん上がって驚きました!」
ウェルスさんは気にしなくていいと言ってくれる。見た目は私と同じくらいの年に見えるのに、大人の女性なのかもしれない。今回の場合、主に精神的な意味で。ああ…そういえば知らないうちに私のスキルも跳ね上がってる。いつの間にか幸運が一気に上がってる…ゲームシステム的には幸運なことがあったのかもしれないけど、事態は私にとって最悪な状態。
「にしても記憶がないとなるとVRの怖い一面を見た気がするな」
「精神系の状態異常? なのかわかりませんが気を付けないといけませんね」
「混乱状態とかいきなり味方が襲ってくるとか聞くしな」
そんな話をタケゾウさんとウェルスさんがしている。
「ナギちゃん、ああなった原因に何か心当たりはないの?」
エリリンさんの声に記憶をよみがえらせる…あるといえばある、あの「奇妙な生き物」――「カッタリー」だ。考えてみるとあれを見たあたりからなんとなくおかしかった記憶が、あるような、ないような。
「カッタリー」は見た目が変だ。大きさは私の腰ぐらいまでの馬みたいなモンスターで、細い、胴体も細ければ足も人間の赤ちゃんの腕くらいの太さしかない。ピンクや白、水色などの色のペイントボールを投げつけたような斑模様で、平原の緑に異常なくらい馴染めていない。そのうえアホなのだ、顔というよりも目、いわゆるアホの目をしている。そして何よりもおかしいのはその動き、まるで四肢をひもでつるされている操り人形のようなふわっふわな動きなのだ。スタッフが手を抜いて作った、とはいいきれない程度には凝っているが、かったる~く作ったに違いない。
ただ「カッタリー」の表記がチラッと違って見えたような…。左利きの「彼」の表記が変わったように。思い出せそうで思い出せない。
私が落ち着いたところで第二の街へ向かう、私の記憶になくて残念だけど、みなさんはもう狩りは十分だということで、モンスターを無視して進む。私は武器がないのでどうしようもないけど…一匹ぐらい戦いたかった、もちろん記憶がある状態で――
それから第二の街に着くまでの間、エリリンさんやウェルスさんが私に話しかけてくれた。最初は口数の少なかったウェルスさんも素敵な笑顔を何度も見せてくれた。エリリンさんは手のかかる妹に接するような感じで、そういうところも京ちゃん――現実の友達――を思い出してしまうところだ。男性陣二人は黙って話を聞いている。女のことは女に任せる、そういった雰囲気だ。
第二の街に着くと、私の気持ちは一気に晴れやかなものとなった。第二の街「ブルジョール」、その街並みはさながらヨーロッパを彷彿とさせ、石畳の道と立ち並ぶオープンカフェのようなお店は、ローマやパリでのティータイム気分が味わえそうな雰囲気だ。唯一の難点は道が入り組んでいそうだということ、第一の街で迷子になった私が、ふらっと歩き回ればまた迷子になるかもしれないので散策するときは注意が必要そうだ。
「ナギさんの顔が急に輝きましたね」
「ナギちゃんもこういう雰囲気が好きなんだね~、さっきまでとは大違い」
「ああ、まったくだ、だがこれでこっちとしても一安心だな」
そこでハッと我に返る。そういえばウェルスさんも初めてなのにこの落着きよう、こういうのに興味がないのか、はたまたそれを表に出さないだけなのか、それとも私のことでそんな余裕がなかったのか、人の目を忘れてはしゃぐ私はまだ子供だと思えてしまう。と同時に恥ずかしい気持ちになる。
「す…すいません、また」
「いいのよ、気にしなくて、街が気になるのはわかるけど、まずはクエストを終わらせないと」
そうしてNPCの場所を目指す。よくよく考えればあの場で私がPTから離れてもよかった気がしたけど、私が街を気に入ったのを見てクエストを促したんだろう。
「はい、これが権利書だ、これがあればこの土地の家を買うことができるからな、家を買うときはまた俺に所に来い、もちろん金を持ってな、それと先着順だからいいと思っても誰かに買われてしまうこともあるからな、気をつけろよ」
そういっておじさんの姿をしたNPCが権利書を渡してくれた。その後タクトさんが全員権利書をもらったか確認し、ここで私はPTメンバーと別れることになった。エリリンさんとウェルスさんとはフレンド登録をし、男性二人は「また会うことがあれば」とあいさつをして別れた。
ハプニングもあったせいか予想以上に時間がかかってしまった。早くログアウトしないと――
ログアウトした私はすぐに寝る準備を整え、ベッドに入る。ああ、恥ずかしい思いをした一日だった、でもみんないい人でよかった。
――何か忘れているような、ぁぁ、そういえば第一の街が「ビギ」、第三の街が「ヴォルカ」って、街にもちゃんと名前があるって教えてもらったんだった覚えとかないと……zzz。
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NAME:ナギ
【投擲】Lv25【STR補正】Lv19【幸運】Lv18【SPD補正】Lv16【言語学】Lv8【】【】【】【】【】
SP17




