夕日
夕日が美しい、空気が澄んだ秋。
砂浜に立たされた私は夕日に向かって幼い星たちとともに走り始めました。
空は茜色に染まり、星たちはまたたきます。私もこの星たちのようにぴかぴかと輝いていると思っていたのです。
しかし、私が振り向くと、そこには大きな黒い影が底なし沼のように広がっていたのです。
影だ!影だ!と私は叫びました。しかし、星たちはまたたき続けます。
影は私が夕日に近づくにつれて、どんどん大きく濃くなっていきました。
とうとう私は立ち止まり、その場に座り込んでしまいました。星たちはまたたきながら先に行ってしまいました。
私は月だった。星ではなかった。太陽から光を借りて、その裏に永遠に光に照らされることのない影を持った月だったのだ。
その場で砂を握りしめ、泣きわめく私を夕日は慈愛顔で見つめていました。
雲が空を覆い隠し、雪がちらつく冬。
私は表も裏もどす黒い影に覆われていました。
この頃の私は、影を嫌いながらも、太陽の力を借りていない、本当の私の姿なのではないかと、不確かな愛着を持っていたのです。
もう太陽なんて要らない。この影たちに呑まれながら、この宇宙で生きていくんだ。そんな淡い決意が私の中で湧き上がり始めていました。
一方あの時の星たちはというと、自ら光を放つ立派な星に成長していました。
ある日、久しぶりに彼らに会いました。彼らは私を見てこう言ったのです。
重荷を抱えていたんだね。
大丈夫。
無理しなくていいよ。
また夕日に向かって走ろうよ。
私は穴だらけの顔で渾身の笑みを作って、ありがとうと答えました。
彼らはいとも簡単に曇りも窪みもない笑みを私に作って見せました。
しかし私は気付いてしまいました。そのつややかな肌の奥で毒々しい金属色のヤニが作られていることに。
どうして励ますことを強いられているんだろう。
どうして勇気づけることを強いられているんだろう。
もう救いようのないものを日の本に掬い上げて、
再びあの夕日に向かって走れと言うのですか。
錆びつく前に隠れませんか。
影の中はとても涼しいのです。
拝読ありがとうございました。夕日はきれいですね。