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レイン、報告

【補足】今回の話も、第2話「レイン、始動」とリンクした内容になっています。

 高く聳え立つ『壁』に囲まれた町は、たった一晩で全く違う姿に変貌した。


 昨日までここは、個性豊かな様々な人々が明日の希望を持てないと言う不安を隠し、巨大な『壁』に全てを託すしかない日々を過ごすと言う、様々な思いが入り乱れた混沌とした場所だった。しかし昨晩、夜の空よりも遥かに暗く、あらゆる星の光を覆い隠す分厚い雲によって覆われた町は、凄まじくも柔らかいと言う今まで一度も降った事が無いような雨がいつまでも降り注ぎ、そして夜が明けるまで霧に包まれ続けた。

 その結果この町は、世界を脅かす恐ろしい魔物――。


「うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」…


 ――いや、純白のビキニ衣装に包まれた胸を揺らし、可愛らしく美しい笑顔で町を包む女剣士、レイン・シュドーによって征服されたのである。


 彼女たちは皆、昨日までこの町の住民だった存在であった。だが今のレインたちには昨日までの人々の自我や意識は一切無く、ただ自分が「レイン」であり、世界に平和をもたらす事ができる唯一の存在であると言う心しか存在しなかった。『壁』が魔物の侵入を阻み、自分たちを守ってくれることを信じていた人の希望は脆くも崩れ、心の中で疑い続けた人々の考えは見事に的中してしまったのだ。とは言え結局は全員ともお構いなく、レイン・シュドーに変貌させられたという訳なのだが。


 そして、大量のレインたちは町を一夜にして征服した張本人であるレインたち――『壁』の外から瞬間移動で戻ってきた数十人のレイン・シュドーを快く迎え入れた。その後、改めて彼女は自分たちの最大の協力者である魔王に、今回の征服活動が無事に成功した事を告げた。


「……言わずとも分かるがな。妨害も入らず、成功した訳か」

「うん、特に妨害なんて無かったわー」良かったわ」魔王も今回は杞憂で良かったわね」うんうん」うんうん」うんうん」うんうん」うんうん」うんうん」うんうん」うんうん」うんうん」うんうん」うんうん」うんうん」うんうん」うんうん」うんうん」うんうん」うんうん」うんうん」うんうん」うんうん」うんうん」うんうん」うんうん」うんうん」うんうん」うんうん」うんうん」うんうん」うんうん」うんうん」うんうん」…


 普段なら魔王は本拠地に居座り、町や村の征服に成功したレインたちは代表をそちらに送り込んで作戦の経過を報告し、他の場所のレインたちとたっぷり勝利の宴を楽しむ形になっていた。しかし、今回は珍しく魔王自身がその町に乗り込み、レインたちと直接会って作戦の報告をさせたのである。以前から何度も心配している『何か』が不安でわざわざやってきたのか、それとも逆にそのような不安を煽って自分たちを躍らせるのを楽しんでいるのか、魔王の心理はいつもと変わらず無表情の仮面に覆い隠され、推測する事は一切出来なかった。

 ただ、どういう形であれ、凄まじい強さを持つ魔王がこの場にやってきた事で、レインは安心する事ができた。今回も一切の妨害も戦いも無く、『壁』の町を征服することが出来たからである。


 純白のビキニ衣装の美女によって覆われた光景の中でしばらく佇んだ後、魔王は近くにいたレイン2人を呼び出し、共に征服が完了したもう1つの町へ向かう事を告げた。彼女たちはこの町の住民が変化したレインではなく、『壁』の外で一泊した後ここに戻ってきたレインたちである。どちらとも魔王から指示を伝えられ、町を征服するために行動したと言う記憶を有しているのだ。


「確かに、私たちが行った方が……」「都合がいいわね」

「そういう事だ。では、行くぞ」


 そういうと、魔王は自身や2人のレインの周りを漆黒のオーラで包み始めた。外から手を振る無数のレインたちの様子も、黒い壁に覆われ、見えなくなってしまった。

 だが、足先から頭の上まで全てを覆った漆黒のオーラが解け、卵の殻が割れるように消えていくと――。


「あ、魔王!」レインも!」おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」…


「おーい!」「おーい、レインー!」

「……ふん」


 ――征服し終わったもう1つの町を埋め尽くす何十万人もの別のレイン・シュドーと言う光景が現れ始めた。


 こちらの町は、先程とは対照的に巨大な壁が聳え立つ事による閉塞感も無く、昨日まで人々は明るく楽しく、明日への希望を持って暮らしていたことが伺える。だが、ここの住民にも『明日』が訪れる事はなかった。各地に大量に残る壁画や木彫りの像、そしてあらゆる場所にぶら下げられている純白のビキニ衣装など、様々な形で崇めていた女勇者――いや、『勇者』ではなく女剣士、レイン・シュドーによって、全てが征服されてしまったのだから。


 ここの町の住民と入れ替わった大量のレインたちはその嬉しさから自分の数を次々に増やし、ビキニ衣装に包まれた大きな胸を揺らしながら空を舞ったり屋根の上を覆ったり、この町が永遠に自分たちのものとなったと言う事実を体いっぱいに味わっていた。勿論どのレインも考える事は全く同じであり、浮かべる表情も一様に同じ笑顔であった。


 魔王が憂慮していた妨害も無く、今回の作戦も無事成功に終わったのであった。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 先程の2名のレインと、この町から生まれた2人のレインを引き連れ、魔王が本拠地へと去っていった後も、2つの『町』を征服したレインたちはたっぷりとその喜びを味わっていた。あちこちの家の扉から自分がどんどん現れる光景を創って楽しんだり、ぶら下げられていたビキニ衣装を本物のレインに変えたり、壁を構成していたレンガを魔術の力でレイン・シュドーに変え、無数の自分が壁から抜け出る状況を生み出したり、あらゆる形で彼女は町が自分たちのものになった事を実感していた。


 それに、今回は特別なお土産もあった。

 『壁』に囲まれた町の一角に、レインの何十倍もの背丈の大樹が聳え立っていた。元からここに生えていたのではなく、レインが瞬間移動で外部から持ち込んだ、自分を永遠に生産する巨木『レイン・ツリー』である。


「ねえ、レイン?」うん、私も同じ考えよ、レイン♪」この町、緑が少ないよねー」人間たちが皆使っちゃったのかな……」だから、この木を……♪」うんうん♪」


 同じ記憶を有するレインたちは、まるで独り言を発するように言葉を繋ぎながら『レイン・ツリー』の近くに立った。数十人の彼女の両手から漆黒のオーラが溢れ、巨木を包み込んだ。

 その瞬間、巨木の隣にもう1本、全く同じ姿形の巨木が現れた。いや1本だけではない、2本、4本、8本――気づけば256本もの同じ『レイン・ツリー』によって、町の一角が緑化されてしまったのである。まるで、レインが自分自身を増やし、一帯を黒や肌色、そして白色で覆うようなものだった。

 勿論、ただ単に町に緑が欲しかったと言うわけではない。既に全ての木には、翌日に生まれるであろうレインが大きな実の中で眠っていた。明日以降、この町は様々な物品ではなく、多くの彼女をあちこちの場所へと輸出する拠点に生まれ変わるだろう。その様子を創造しながら、大量のレインたちは再び一斉に微笑んだ。


 本当はもっと大量にこの木の数を増やし、何兆、いや何京人レベルで自分自身を大量生産できる場所を創りたかったのだが、まだそれは時期尚早だという事をレインは認識していた。かつて人間だったが故の勘もあるが、それ以上に魔王からの忠告も大きかった。欲望に身を任せすぎると、やがて身を滅ぼすことになる、と注意された記憶が、全てのレインの中に宿っていたのだ。

 魔王の指示通りに動けば、全てが上手く行く――まさにそれが、今のレイン・シュドーであった。魔王を妄信する事は決してなく、彼女からも様々な意見を投げかける場合も多いが、それでも魔王の圧倒的な力の前には反抗したりする事は不可能だった。それに、感情を表す事が非常に少なく作戦の真の目的も語らないことも多いが、魔王の指示は非常に的確で、どれも人間の思惑を見事に裏切り、逆に彼らを翻弄しきっていた。今はまず魔王の忠告や指示に従うのが最優先だ、とレインは考えていたのである。


「「「……そうだ!」」」


 そして、レインたちは一斉に同じ考えに至った。

 確かに今回は魔王の言う何者かの妨害は無かったが、いつどのような策をもって攻めてくるか分からない。もしかしたら、現在の自分のレベルでは太刀打ちできないほどの実力を持って現れ、最悪レイン・シュドーが全滅する事だってあり得るだろう。そうならないように、今のような貴重な時間を有効活用し、たっぷりと鍛錬を重ねて実力を上げようとしたのである。


「……それじゃ、お願いね、レイン」分かったわ、レイン!」よろしく、レイン!」レイン!」レイン!」レイン!」レイン!」レイン!」レイン!」レイン!」レイン!」レイン!」レイン!」レイン!」レイン!」レイン!」レイン!」レイン!」レイン!」レイン!」レイン!」レイン!」レイン!」レイン!」レイン!」レイン!」レイン!」レイン!」レイン!」レイン!」レイン!」レイン!」レイン!」レイン!」レイン!」レイン!」レイン!」レイン!」レイン!」レイン!」レイン!」レイン!」レイン!」レイン!」レイン!」レイン!」レイン!」レイン!」…


 やがて、魔王やレインの占領下に置かれたことを示す半球状の漆黒のドームの中は、女剣士の武器が入り乱れる音で満ち溢れた。





 油断大敵――魔王からの忠告、そしてレインたちの考えは見事に正しかった。

 危惧していた存在が、既に動き出していたのだから……。

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