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女勇者、噴出

 悲しみにくれるライラ・ハリーナの母を、レイン・シュドーに変身させて救済した薬。

 贅沢の限りを尽くしていた盗賊を、一人残らずレイン・シュドーの一員にさせた薬。

 とある村のあらゆるものに付着し、そこに住む人を全てレイン・シュドーに変えてしまった薬。


 そして、心地よい香りの霧になってかつての勇者の屋敷に住むメイドを全員レイン・シュドーに変貌させた薬。



 これらはどれも、魔王から成分を伝授されたレインたちが、それに従って創り出したものであった。錠剤やジュース、調味料などにして彼女自身がそれらを摂取しても無味無臭、一切の効果は無いが、レインと魔王以外の人間や動物、魔物たちの体内に吸収されれば、あっという間にその人間は魔王の協力者、純白のビキニ衣装の美女になってしまうのである。


 だが、その薬の真の効果はそのようなものではなく、彼女の想像を絶するほどに凄まじいと言う事を、今回の事例でレインはまざまざと知る事になった。

 ただ、彼女の心はその恐るべき力に対する恐怖ではなく、信実を知った事に対する歓喜、幸福、そして快楽に満ちていた。


「うふふ♪」あはは♪」うふふ♪」あはは♪」うふふ♪」あはは♪」うふふ♪」あはは♪」うふふ♪」あはは♪」うふふ♪」あはは♪」うふふ♪」あはは♪」うふふ♪」あはは♪」うふふ♪」あはは♪」うふふ♪」あはは♪」うふふ♪」あはは♪」うふふ♪」あはは♪」うふふ♪」あはは♪」うふふ♪」あはは♪」うふふ♪」あはは♪」うふふ♪」あはは♪」うふふ♪」あはは♪」うふふ♪」あはは♪」うふふ♪」あはは♪」うふふ♪」あはは♪」うふふ♪」あはは♪」うふふ♪」あはは♪」うふふ♪」あはは♪」うふふ♪」あはは♪」うふふ♪」あはは♪」うふふ♪」あはは♪」うふふ♪」あはは♪」うふふ♪」あはは♪」うふふ♪」あはは♪」うふふ♪」あはは♪」うふふ♪」あはは♪」うふふ♪」あはは♪」うふふ♪」あはは♪」うふふ♪」あはは♪」うふふ♪」あはは♪」うふふ♪」あはは♪」うふふ♪」あはは♪」うふふ♪」あはは♪」うふふ♪」あはは♪」うふふ♪」あはは♪」うふふ♪」あはは♪」うふふ♪」あはは♪」うふふ♪」あはは♪」うふふ♪」あはは♪」うふふ♪」あはは♪」うふふ♪」あはは♪」うふふ♪」あはは♪」うふふ♪」あはは♪」うふふ♪」あはは♪」うふふ♪」あはは♪」うふふ♪」あはは♪」うふふ♪」あはは♪」うふふ♪」あはは♪」うふふ♪」あはは♪」うふふ♪」あはは♪」うふふ♪」あはは♪」……


 あの時、メイドに化けてかつての勇者『フレム・ダンガク』の食事に混ぜた薬は、これまでの作戦で用いた薬を何万倍もの濃度に仕上げたものであった。ほんの僅かな量を霧として吸い込ませるだけで人々をレイン・シュドーに変えてしまうこの薬だが、ここまで濃度が凄まじいと一体どうなってしまうのか、彼女たちは期待と不安が半々な気持ちになりつつ、魔術の力でこっそり食べ物や飲み物にこの薬の成分を混ぜたのである。


 その結果が、純白のビキニ衣装の剣士を延々と生み出し続ける、巨大な肉塊だった。



「こんにちは、レインに魔王♪」「うふふ、こんにちは♪」こんにちは♪」こんにちは♪」こんにちは♪」こんにちは♪」こんにちは♪」こんにちは♪」こんにちは♪」こんにちは♪」こんにちは♪」こんにちは♪」こんにちは♪」こんにちは♪」こんにちは♪」こんにちは♪」こんにちは♪」こんにちは♪」こんにちは♪」こんにちは♪」こんにちは♪」こんにちは♪」こんにちは♪」こんにちは♪」こんにちは♪」こんにちは♪」こんにちは♪」こんにちは♪」こんにちは♪」こんにちは♪」こんにちは♪」こんにちは♪」こんにちは♪」こんにちは♪」こんにちは♪」こんにちは♪」こんにちは♪」こんにちは♪」こんにちは♪」こんにちは♪」こんにちは♪」こんにちは♪」こんにちは♪」こんにちは♪」こんにちは♪」こんにちは♪」こんにちは♪」こんにちは♪」こんにちは♪」…

「凄いわね、レイン……」「本当ね、どんどんレインが湧き出るなんて……」「なんて素晴らしい光景なの、レイン……」「最高ね、レイン!」


「……ふん」


 勇者フレム・ダンガクであった物体から新しく生まれては挨拶を交わすレインに嬉しそうに挨拶を返すレインと、冷めたような返事をする魔王。先程からずっと両者の反応は対照的だった。


 レインの底知れぬ恨みが注ぎ込まれた勇者フレム・ダンガクは、あの凄まじい濃度の薬を大量に摂取した事で、レイン・シュドーに変貌するどころか、体中の全ての部品が『レイン・シュドー』に変貌してしまった。両手両足の指も、掌も足の裏も、そして腕も胸も、あらゆる場所が何百何千、いや何万ものレインの顔で埋め尽くされ、どんどん新しい彼女が外に飛び出せば、再びそこに新しいレインの顔が現れる、と言う事を延々と繰り返し続けていた。最早彼の体は、ただただレインを生み出す存在に成り果てたのである。

 そして、彼は肉体どころか、心までもレインに乗っ取られる形となった。必死に自我を保とうとしても、思い浮かぶのは体の中から湧き出てくるレインの笑い声と無数の意識ばかりになったのだ。


 こうして、全てをレイン・シュドーに乗っ取られた堕落した勇者は、この世界から完全に抹消されたのであった――。




「うふふ♪」あはは♪」うふふ♪」あはは♪」うふふ♪」あはは♪」うふふ♪」あはは♪」うふふ♪」あはは♪」うふふ♪」あはは♪」うふふ♪」あはは♪」うふふ♪」あはは♪」うふふ♪」あはは♪」うふふ♪」あはは♪」うふふ♪」あはは♪」うふふ♪」あはは♪」うふふ♪」あはは♪」うふふ♪」あはは♪」うふふ♪」あはは♪」うふふ♪」あはは♪」うふふ♪」あはは♪」うふふ♪」あはは♪」うふふ♪」あはは♪」うふふ♪」あはは♪」うふふ♪」あはは♪」うふふ♪」あはは♪」うふふ♪」あはは♪」うふふ♪」あはは♪」うふふ♪」あはは♪」うふふ♪」あはは♪」うふふ♪」あはは♪」うふふ♪」あはは♪」うふふ♪」あはは♪」うふふ♪」あはは♪」うふふ♪」あはは♪」うふふ♪」あはは♪」うふふ♪」あはは♪」うふふ♪」あはは♪」うふふ♪」あはは♪」うふふ♪」あはは♪」うふふ♪」あはは♪」うふふ♪」あはは♪」うふふ♪」あはは♪」うふふ♪」あはは♪」うふふ♪」あはは♪」うふふ♪」あはは♪」うふふ♪」あはは♪」うふふ♪」あはは♪」うふふ♪」あはは♪」うふふ♪」あはは♪」うふふ♪」あはは♪」うふふ♪」あはは♪」うふふ♪」あはは♪」うふふ♪」あはは♪」うふふ♪」あはは♪」うふふ♪」あはは♪」うふふ♪」あはは♪」うふふ♪」あはは♪」うふふ♪」あはは♪」うふふ♪」あはは♪」……


 相変わらずかつての勇者の肉体からどんどん溢れ出るレイン・シュドーの大群。自らの魔術を使って空中にも浮かび、今や大広間はレインの肉の海で埋め尽くされていた。それでも彼女はとても嬉しそうな顔をしながら笑い、純白のビキニ衣装から大胆に覗く自分の肌の感触を存分に味わい、快楽の真っ只中にあった。


 だがその直後、快楽の時間は終わりを告げた。魔王の手に持っていた杖から稲妻のように黒いオーラが発射され、かつての勇者だった肉塊を直撃したのである。その途端、先程まで数限りなく新しいレインを生み出し続けていたこの物体は、急にその活動をやめ、黒々とした塊が残るだけになってしまった。



「ま、魔王!」「い、一体……!」


 何をするつもりなのか、もっと自分を増やしたいのに。ついレインは我がままを言いそうになったが、それを遮りながら魔王は彼女たちを戒めた。 


「このまま快楽に溺れたいのなら、この場に永遠に残れ。

 今の段階でこれ以上増えたとしても、お前たちの目的は達成できないぞ?」



 ――そう、いくら数を増やしたとしても、この場にいるレイン・シュドーにはまだまだ魔王には一切勝てる見込みがなかったのだ。自分自身の数を延々と増やすのみならず、毎日の鍛錬を怠らずに続けないと、真の世界平和は見出せない。魔王の冷たい言葉が、快楽に支配されようとしていたレインの心を鎮め、冷静に判断する力を取り戻させた。


「……調子に乗りすぎたかな、私」「そうね、レイン」「確かにこれ以上増えても……」「それだけになっちゃうか……」

「そういう事だ。この肉塊は、お前たちに渡すのにはまだ早い」



 ――最低でも60000000000000人のレイン・シュドーを、この塊から生み出す事が出来るからな。



 魔王のその言葉が持つ恐ろしい意味を、部屋にいる数万人のレインは冷や汗を流しながら理解した。もしこのまま快楽に溺れ続けたら、やがて無数の自分自身によって破滅を迎える可能性もある、と言う事を。


 そして、彼女たちは魔王の話に納得した上で一旦この屋敷を後にし、元の地下空間へと戻る事にした。既に人間たちへの『宣戦布告』を完了させた今こそ、新しく増えた大量の自分自身も交え、さらに剣術や魔術の高みを目指すべきである、と気持ちを新たにしたからである。

 世界平和をもたらし、魔王を打倒するためには、ここで堕落し続ける訳にはいかないのだ。黒焦げの塊に成り果てた、かつての力の勇者のように……。

  

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