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男勇者、消失

【注意】

グロテスクな文章・描写があります。

苦手な方はご注意ください。

「ただいま、フレム♪」ただいま♪」ただいま♪」ただいま♪」ただいま♪」ただいま♪」ただいま♪」ただいま♪」ただいま♪」ただいま♪」ただいま♪」ただいま♪」ただいま♪」ただいま♪」ただいま♪」ただいま♪」ただいま♪」ただいま♪」ただいま♪」ただいま♪」ただいま♪」ただいま♪」ただいま♪」ただいま♪」ただいま♪」ただいま♪」ただいま♪」ただいま♪」ただいま♪」ただいま♪」ただいま♪」ただいま♪」ただいま♪」ただいま♪」ただいま♪」ただいま♪」ただいま♪」ただいま♪」ただいま♪」ただいま♪」ただいま♪」ただいま♪」ただいま♪」ただいま♪」ただいま♪」ただいま♪」ただいま♪」ただいま♪」ただいま♪」ただいま♪」ただいま♪」ただいま♪」ただいま♪」ただいま♪」ただいま♪」ただいま♪」ただいま♪」ただいま♪」ただいま♪」ただいま♪」ただいま♪」ただいま♪」ただいま♪」ただいま♪」……


 これは夢だ。酒に酔いすぎて体が悪くなったせいで、こんな幻覚を見ているんだ、俺は。


 目の前の光景に、力の勇者『フレム・ダンガク』は真っ先にそう考え、目を反らそうとした。当然だろう、意見の相違と予てからの不平不満が爆発し、魔王退治を押し付けた上で見放した『勇者』のリーダー『レイン・シュドー』が、あの凄まじい力を持つ魔王の手から平穏無事に帰ってくるわけがないからだ。確かに世界に平和が戻ってきたのだが、それは彼女が自分を犠牲にしたからではなかったのか。酔いが回りながらも、フレムは必死になって目の前の状況を理解しようとした。


 だが、それ以前にまず自分に仕える何百人ものメイドが、一斉にレイン・シュドーと同じ姿形になるという事そのものが既に異常であった。忌々しき白のビキニアーマーに身を包み、長い黒髪を一つに束ね、そしてたわわに実った大きな胸を揺らし、魅惑の腰つきを見せ付けるその姿は、どう見てもあのレイン・シュドーそのものだったのだが、その事実を目の当たりにしてもなお、彼は目の前の現実を直視できなかったのだ。


「は、はは……いきなりこんな事ってありえないよなー、だよなー?」


 支離滅裂な事を言いながら、フレムは現実逃避をしようとしていた。だが、そんな彼に喝をいれるかのように、突然左右からそれぞれ1人づつ、レイン・シュドーが擦り寄ってきた。その顔は笑っていたが、瞳には一切嬉しそうな感情を見せていなかった。


「残念だけど、これは現実よ♪」

「私はこうやって、帰ってきたんだから♪」


 左右から聞こえるその言葉に、フレムはぞっとした。ここで彼女を否定するという事は、何の装飾もない、無地の貧乏たらしい白のビキニアーマー越しに感じる胸の感触も、自らの頬に触れた、レインの柔らかい頬の感触も、全て否定する事になってしまうからである。長い自堕落な生活の中、彼は自らの抱える『性欲』を制御できなくなっていたのだ。



 そして、フレムは叫んだ。現実を受け入れるしかない、と言う恐怖に包まれながら。


「うわああああああああぁぁぁぁぁああああ!!!」


 だが、前を向いても後ろに逃げても、そこにもまたレイン・シュドーがいた。何十人も、何百人も、大きな胸をぷるんと揺らしながら、彼の逃げ道を塞ぐ彼女の大群が。


「ふふっ♪」ふふっ♪」ふふっ♪」ふふっ♪」ふふっ♪」ふふっ♪」ふふっ♪」ふふっ♪」ふふっ♪」ふふっ♪」ふふっ♪」ふふっ♪」ふふっ♪」ふふっ♪」ふふっ♪」ふふっ♪」ふふっ♪」ふふっ♪」ふふっ♪」ふふっ♪」ふふっ♪」ふふっ♪」ふふっ♪」ふふっ♪」ふふっ♪」ふふっ♪」ふふっ♪」ふふっ♪」ふふっ♪」ふふっ♪」ふふっ♪」ふふっ♪」ふふっ♪」ふふっ♪」ふふっ♪」ふふっ♪」…


「ひいいいいいいいいいっっっっ!!!」


 メイドたちが笑顔で包み込んでいた間は、今や何重にも渡って白いビキニアーマー姿の女性が包み込む、復讐の空間へと変わっていた。自らが見捨てた女性が蘇るどころか、何十、何百にも増殖して戻ってくるなど、誰が予想できただろうか。



「お、おい、あのメイドたちはどうしたんだよ!?」



 恐怖に震えながらも、何とかフレムは自分を奮い立たせ続けた。恐ろしい現実に押しつぶされかけながらも、そのお陰で酔いが少し醒めたのか、フレムは勇者の片鱗を見せ始めていたのである。ただし、それは誰かを守るのではなく、自分だけを守ると言うなんとも情けない勇気だったのだが。


「あの時の……あのメイドたち?」「私が『幸せ』にしてあげたよ」「ねー♪」ねー♪」ねー♪」ねー♪」ねー♪」ねー♪」ねー♪」ねー♪」ねー♪」ねー♪」ねー♪」ねー♪」ねー♪」ねー♪」ねー♪」ねー♪」……


 どういう事か、と言うフレムには、レインの発言を理解するだけの心は残されていなかった。



 あのような破廉恥な服を着せられ、毎日重労働させられる少女たちの事を、考えた事があるか、と。それはまるで、無数の魔物をこき使う『魔王』と同じではないか。貴方は、本当に勇者だったのか。

 四方八方から響く非難の声を聞きながら、フレムの顔が再び真っ赤に染まった。今回は恐怖ではなく、レイン・シュドーと言う存在に対する怒りによるものだった。


「いい加減にしろ!散々俺を責めやがって……俺は勇者だぞ!世界を救ったんだぞ!これくらいやって、当然だろ!」


 そして、彼は頭の中で勝手に結論付けた。目の前にいるのは、レインの姿を借りた『魔物』だ、と。あの手紙どおり、再び魔王が動き出し、勇者たちを始末しようとこうやって魔物を送りつけたのだ、そう考えたフレムは、勝手ににやけた顔つきになった。

 ――ある意味それは正解なのだが、レインはそれを笑顔の中に覆い隠した。フレムを舐めてかかるような、微笑ましい顔つきで。


「ふ……ざけんな!!!

 こうなったら、俺様の拳で、お前ら魔物をまた粉砕してやるよ!!」


「へぇ、拳?」「そんな拳、もう使い物にならないんじゃないの?」「そうそう、すっかり鈍っちゃって♪」「うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」……


 憎たらしい笑い声を聞いたフレムは体から怒りの湯気を立たせ、豪腕に支えられた拳を構えようとした。かつて、その状態になった彼を止められる魔物は一切存在せず、彼の『正義』の怒りの鉄拳の前に、悪は滅び去るのみだった。だが今、彼の怒りに正義はなかった。ただの『自分勝手』な怒りだった。



 そして、そのような存在に成り果てた自らの持ち主に対して、拳そのものが『反逆』を起こした。自らの右手を見つめたフレムの目に、信じられないものが映ったのだ。


 彼の親指が…………「うふふ♪」

 彼の人差し指が……「うふふ♪」

 彼の中指が…………「うふふ♪」

 彼のくすり指が……「うふふ♪」

 彼の小指が…………「うふふ♪」

 

 彼の右手の掌が……「うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」……



 ――そこにあったのは、フレム・ダンガクの手ではなかった。手があったはずの場所は、何十ものレイン・シュドーの『顔』が埋め尽くす塊に変貌していたのである!


「な、な、なああああああ!!!」


 すぐさま彼は、自らの右手を覆い尽くすレインの顔を捻り潰そうとした。いくら美しい顔でも、彼にとってそれは忌々しく恐ろしい存在になっていたからである。だが、自らにとっての諸悪の根源を倒そうと繰り出したフレムの左手も左腕も、既に彼に愛想を尽かし、レインに寝返っているようだった。


「あはははは!」あはははは!」あはははは!」あはははは!」あはははは!」あはははは!」あはははは!」あはははは!」あはははは!」あはははは!」あはははは!」あはははは!」あはははは!」あはははは!」あはははは!」あはははは!」あはははは!」あはははは!」あはははは!」あはははは!」あはははは!」あはははは!」あはははは!」あはははは!」……


 彼の目に飛び込んできたのは、ビキニ衣装に包まれた大きな胸をぷるんと揺らしながら、レイン・シュドーの大群が上半身を露にしながら姿を現す様だったのである――それも、フレムの左手から左腕を埋め尽くすほどの数となって!


「ぎゃああああああああ!!!」


 恐怖に包まれた彼が尻餅をついた途端、左右の手や腕から『生えてきた』レインたちは一斉に巨大化を始めた。フレムの体に現れた彼女たちはまるで風船が膨らむかのように次々に大きくなり、僅かな白い布と白い靴下のみで包まれた下半身が姿を現し、あっという間に新たなレイン・シュドーが何百人も誕生してしまったのである。


「うふふ♪」ただいま♪」うふふ♪」ただいま♪」うふふ♪」ただいま♪」うふふ♪」ただいま♪」うふふ♪」ただいま♪」うふふ♪」ただいま♪」うふふ♪」ただいま♪」うふふ♪」ただいま♪」うふふ♪」ただいま♪」うふふ♪」ただいま♪」うふふ♪」ただいま♪」うふふ♪」ただいま♪」うふふ♪」ただいま♪」うふふ♪」ただいま♪」うふふ♪」ただいま♪」うふふ♪」ただいま♪」うふふ♪」ただいま♪」うふふ♪」ただいま♪」うふふ♪」ただいま♪」うふふ♪」ただいま♪」うふふ♪」ただいま♪」うふふ♪」ただいま♪」……


 しかも、新たなレインが誕生したばかりの右腕にも、左腕にも、再びレイン・シュドーの顔や上半身がびっしりと覆いつくし、何がなんだか分からずに混乱の極致にあったフレムに向けて、満面の笑みを贈り続けていた。そればかりではなく、レインが『生えてくる』範囲はどんどん増えていた。薄っすらと贅肉に覆われていた胸元にも、小さなレインの顔が大量に現れ始めたのである。


「あはは♪」あはは♪」あはは♪」あはは♪」あはは♪」あはは♪」あはは♪」あはは♪」あはは♪」あはは♪」あはは♪」あはは♪」あはは♪」あはは♪」あはは♪」あはは♪」あはは♪」あはは♪」あはは♪」あはは♪」あはは♪」あはは♪」あはは♪」あはは♪」あはは♪」あはは♪」あはは♪」あはは♪」あはは♪」あはは♪」あはは♪」あはは♪」あはは♪」あはは♪」あはは♪」あはは♪」あはは♪」あはは♪」あはは♪」あはは♪」あはは♪」あはは♪」あはは♪」あはは♪」あはは♪」……


 一体、何がどうなっているんだ。何とか言葉をつむぐ事ができた彼に向けて、左右に並ぶレインたちが醒めたような目つきを見せながら言った。これが、フレム・ダンガクが『平和な世界』で過ごすために最も理想的な姿だ、と。


「へ、平和な……世界……」


「私が目指すのは」「争いのない平和な世界」「そのためには、もっともっと人数がいるの」


 だから、フレムには新たな世界の『礎』になってもらい、新しいレイン・シュドーを産み出し続ける糧になって貰う。そう、彼女たちは真剣な顔で告げた。

 当然、フレムにとっては訳の分からない事であり、納得いくはずもなかった。だが、時は既に遅かった。


「ふざけんなよ……何とか『うふふ♪』し……お、おい……『あはは♪』……『うふふ♪』」


 口を閉じても、目をふさいでも、頭の中に響くのは、レインの笑い声ばかり。暴れまわろうとしても、フレムの足もまた、数え切れないほどのレイン・シュドーに埋め尽くされていた。やがて彼の体も、顔も、目も口も鼻も、そして『心』も――。


「あはは♪」あはは♪」あはは♪」あはは♪」あはは♪」あはは♪」あはは♪」あはは♪」あはは♪」あはは♪」あはは♪」あはは♪」あはは♪」あはは♪」あはは♪」あはは♪」あはは♪」あはは♪」あはは♪」あはは♪」あはは♪」あはは♪」あはは♪」あはは♪」あはは♪」あはは♪」あはは♪」あはは♪」あはは♪」あはは♪」あはは♪」あはは♪」あはは♪」あはは♪」あはは♪」あはは♪」あはは♪」あはは♪」あはは♪」あはは♪」あはは♪」あはは♪」あはは♪」あはは♪」あはは♪」あはは♪」あはは♪」あはは♪」あはは♪」あはは♪」あはは♪」あはは♪」あはは♪」あはは♪」あはは♪」あはは♪」あはは♪」あはは♪」あはは♪」あはは♪」あはは♪」あはは♪」あはは♪」あはは♪」あはは♪」あはは♪」あはは♪」あはは♪」あはは♪」あはは♪」あはは♪」あはは♪」あはは♪」あはは♪」あはは♪」あはは♪」あはは♪」あはは♪」あはは♪」あはは♪」あはは♪」あはは♪」あはは♪」あはは♪」あはは♪」あはは♪」あはは♪」あはは♪」あはは♪」あはは♪」あはは♪」…



 ――悲鳴も上げられないまま、あらゆる部位がかつて自らが裏切ったビキニ衣装の存在に包まれながら、フレムは静かに意識を失っていった。

 数え切れないほどのレイン・シュドーの顔や上半身を、全身に生やしながら……。

 

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