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女勇者、窮屈

 レイン・シュドーが最初の『征服』を達成してから、再び月日が経った。


 盗賊団の男たちを1人だけ残して自分自身に変えた翌日も、続けて地上の村などを制圧し、地上で偽りの平和を貪り食う人々や勇者たちを目覚めさせよう、とレインはずっと意気込んでいた。だがその発案は、魔王によってあっさりと拒否された。もし連続して似たような事件を起こせば、明らかに地上の連中は『魔物』が生き残っていたと考え、防御を強化してしまう。その場合、復讐も容易では無くなるかもしれないし、何より勇者が本気を出して動いたら、対応が面倒になる。

 その魔王の言葉には、さすがのレインも引きさがるを得なかった。勇者がどれだけ魔物に対して執念深いか、警戒心を持っているかは自分自身が嫌と言うほど理解していたからかもしれない。


 そして、魔王の考え通り、何も起きない日々の中で、少しづつ地上の者たちの警戒心は溶け始めていた。


 地上の勇者たちが雇った傭兵の調査でも、件の豪邸があった場所には何の証拠も存在せず、完全にもぬけの殻になっていた。一切の手がかりがつかめないと言う状況に、当然最初は誰もが不審がっていたが、次第にそのような事よりも他の事の方が大事と考えるようになり、全員ともあっという間に関心が薄れていったのである。元より勇者たちにとっては目の上のたんこぶ的な状況だった事が一番の要因だろう。


 そんな訳で、再びレイン・シュドーは、地下空間の中で普段どおりの鍛錬や戯れの日々を過ごす事になったのである。




 ただここ数日、嬉しいながらも少し困った事が起きていた。



「ううん……おはよう」おはよう」おはよう」おはよう」おはよう」おはよう」おはよう」おはよう」おはよう」



 今日も次々に自らの部屋で目を覚まし、ビキニ衣装に包まれた胸を揺らすレイン・シュドーたちだったが、その様子は今までと少々異なっていた。


「ああん……」ああん、レイン……」ああん……」ああん、レイン……」ああん……」ああん、レイン……」ああん、レイン……」ああん……」ああん、レイン……」ああん……」ああん、レイン……」ああん……」ああん……」ああん、レイン……」ああん、レイン……」ああん……」ああん、レイン……」ああん……」ああん、レイン……」ああん……」……


 元々彼女の眠る寝室は数名の人間が同時に眠れるのを想定して作られているような構造をしていた。その頃は1人づつベッドを使っていたので、正直かなり大きいと言うイメージがレインの中にはあった。だが、ここ最近は10本の『レイン・ツリー』による定期的な人数の増加に加え、自らの魔術の鍛錬のために何度も自分自身を増殖させ続けていたため、あっという間に部屋の中はレインで一杯になってしまったのである。

 いくらベッドが広いからとはいえ、さすがに30人も一緒に同じ所で寝られると、彼女としては少々窮屈で大変な所はあった。ビキニ衣装がずれたり、寝返りが打ちにくかったり、そして起きても自分同士で肌や胸をの触れ合いになってしまったりと言う事態がおき始めていたからである――とは言え、彼女としてはそれが非常に気持ちよく、嬉しさ半分辛さ半分と言った心地であったが。



 ただ、それでもレインの居場所は狭くなり続けていると言う事実は揺るがなかった。



「おはよう♪」おはよう♪」おはよう♪」おはよう♪」おはよう♪」おはよう♪」おはよう♪」おはよう♪」おはよう♪」おはよう♪」おはよう♪」おはよう♪」おはよう♪」おはよう♪」おはよう♪」おはよう♪」おはよう♪」おはよう♪」おはよう♪」おはよう♪」おはよう♪」おはよう♪」おはよう♪」おはよう♪」おはよう♪」おはよう♪」おはよう♪」おはよう♪」おはよう♪」おはよう♪」おはよう♪」おはよう♪」おはよう♪」おはよう♪」おはよう♪」おはよう♪」おはよう♪」おはよう♪」おはよう♪」おはよう♪」おはよう♪」おはよう♪」おはよう♪」おはよう♪」おはよう♪」おはよう♪」おはよう♪」おはよう♪」おはよう♪」おはよう♪」おはよう♪」おはよう♪」おはよう♪」おはよう♪」おはよう♪」おはよう♪」おはよう♪」おはよう♪」おはよう♪」おはよう♪」おはよう♪」おはよう♪」おはよう♪」おはよう♪」おはよう♪」おはよう♪」おはよう♪」おはよう♪」……


 何万人ものレインが住む部屋は、何千階にも及ぶ巨大な地下空間に大量に設置してある。魔王が凄まじい魔術を用いて創造したこの空間は、中央の吹き抜けの外側を包み込むように廊下が円を描くように設置されているが、そのような構造が見えなくなるほどのレイン・シュドーの大群が、この空間を埋め尽くしていた。朱色のビキニ姿の女性が背中に剣を背負い、空中を飛びまわると言う、地上の人間からしたら異様な光景が、ここ数日の間何度も繰り広げられ、その密度は日々増していたのである。


 それと似た光景は、食事の時間にも繰り広げられていた。


「ああん、ちょっとレイン」「あ、ごめんごめん」「ちょっとどいてねー」「わわ……」「あ、そのパン貰ったー」「私にもちょうだーい」「あ、これあげるねー」「ありがとう」……


 普段から大量のレインで賑わう食事場だが、最近ではますます人数が増え、巨大なテーブルの周りには大量のビキニ衣装の女性が次々に自分の食事を手に取り、文字通り貪り食うような様相になっていた。今やレインの数は、150000人にも及んでいたからだ。




 そして、日々の鍛錬が終わった後もまた、同じ事態が待っていた。


「ああん……」ああん……」ああん……」ああん……」ああん……」ああん……」ああん……」ああん……」ああん……」ああん……」ああん……」ああん……」ああん……」ああん……」ああん……」ああん……」ああん……」ああん……」ああん……」ああん……」ああん……」ああん……」ああん……」ああん……」ああん……」ああん……」ああん……」ああん……」ああん……」ああん……」ああん……」ああん……」ああん……」ああん……」ああん……」ああん……」ああん……」ああん……」ああん……」ああん……」ああん……」ああん……」ああん……」ああん……」ああん……」ああん……」ああん……」ああん……」ああん……」ああん……」ああん……」ああん……」ああん……」ああん……」ああん……」ああん……」ああん……」ああん……」ああん……」ああん……」ああん……」ああん……」ああん……」ああん……」ああん……」ああん……」ああん……」ああん……」


 剣術を鍛える闘技場や魔術の訓練部屋はとても広く、レインが今後どれだけ増えようとも思う存分剣を振るったり黒いオーラの力を高める事が出来る空間が確保されていた。ただ問題は、鍛錬を終えた彼女たちが汗でずぶ濡れになった純白のビキニ衣装を新品のものに代える『着替え部屋』であった。


「ああん、レイン……」ああん、レイン……」ああん、レイン……」ああん、レイン……」ああん、レイン……」ああん、レイン……」ああん、レイン……」ああん、レイン……」ああん、レイン……」ああん、レイン……」ああん、レイン……」ああん、レイン……」ああん、レイン……」ああん、レイン……」ああん、レイン……」ああん、レイン……」ああん、レイン……」ああん、レイン……」ああん、レイン……」ああん、レイン……」ああん、レイン……」ああん、レイン……」ああん、レイン……」ああん、レイン……」ああん、レイン……」ああん、レイン……」ああん、レイン……」ああん、レイン……」ああん、レイン……」ああん、レイン……」ああん、レイン……」ああん、レイン……」ああん、レイン……」ああん、レイン……」ああん、レイン……」ああん、レイン……」ああん、レイン……」ああん、レイン……」ああん、レイン……」ああん、レイン……」ああん、レイン……」ああん、レイン……」ああん、レイン……」ああん、レイン……」ああん、レイン……」ああん、レイン……」ああん、レイン……」ああん、レイン……」ああん、レイン……」ああん、レイン……」ああん、レイン……」


 剣術の鍛錬を重ねたレインの数は45000人。それが一気に部屋の中になだれ込んでくる訳である。汗まみれのレインの体が触れ合いぎっしりと詰まった空間は、彼女の匂いと声で満ち溢れ、酒池肉林と言う言葉が非常にふさわしい状況になっていた。

 だがそれでもなお、レインはその数を増やし続けていた。純白のビキニ衣装のみを着こなす巨乳の女剣士が数限りなく増えて空間を埋め尽くす、これこそが彼女の理想であり、世界を全て同じ光景で満たすと言う目標だったからである。


「うふふ、レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」……

 

 150000人の彼女でぎっしり埋めつくされた風呂の中、互いの健康的な褐色の肌を触れ合わせながら心地良い気分を味わったレインは、そのままゾロソロと足並み揃え、10本の『レイン・ツリー』が待つ部屋へと向かった。その目的は勿論、今日もそこで新たに生まれた自分自身を『収穫』する事である。


 以前はレイン・ツリーが1本しかなく、1日で採れるレインの数は1000人だけであった。だが、最初の『征服』を達成した際に持ち込んだ木が変異した事でレイン・ツリーの数は10本になり、少ない日でも数千人、多い日には10000人ものレインが日々新たに創造され続けるようになったのだ。今日もいつもの通り、150000人のレインが見守る先で新たな10000人のレインが大きな実の中から外の世界に現れ始めた。


「おはよう、レイン♪」おはよう、レイン♪」おはよう、レイン♪」おはよう、レイン♪」おはよう、レイン♪」おはよう、レイン♪」おはよう、レイン♪」おはよう、レイン♪」おはよう、レイン♪」おはよう、レイン♪」おはよう、レイン♪」おはよう、レイン♪」おはよう、レイン♪」おはよう、レイン♪」おはよう、レイン♪」おはよう、レイン♪」おはよう、レイン♪」おはよう、レイン♪」おはよう、レイン♪」おはよう、レイン♪」おはよう、レイン♪」おはよう、レイン♪」おはよう、レイン♪」おはよう、レイン♪」おはよう、レイン♪」おはよう、レイン♪」おはよう、レイン♪」おはよう、レイン♪」おはよう、レイン♪」おはよう、レイン♪」おはよう、レイン♪」おはよう、レイン♪」おはよう、レイン♪」おはよう、レイン♪」おはよう、レイン♪」おはよう、レイン♪」おはよう、レイン♪」おはよう、レイン♪」

「おはよう♪」おはよう♪」おはよう♪」おはよう♪」おはよう♪」おはよう♪」おはよう♪」おはよう♪」おはよう♪」おはよう♪」おはよう♪」おはよう♪」おはよう♪」おはよう♪」おはよう♪」おはよう♪」おはよう♪」おはよう♪」おはよう♪」おはよう♪」おはよう♪」おはよう♪」おはよう♪」おはよう♪」おはよう♪」おはよう♪」おはよう♪」おはよう♪」おはよう♪」おはよう♪」おはよう♪」おはよう♪」おはよう♪」おはよう♪」おはよう♪」おはよう♪」おはよう♪」おはよう♪」おはよう♪」おはよう♪」おはよう♪」おはよう♪」おはよう♪」おはよう♪」おはよう♪」おはよう♪」……



 互いに声を交わし合い、笑顔を見せる合計160000人のレイン・シュドーだが、その心の中には、ほんの僅かながら自分の数があまりに増えすぎている事に不安が生まれていた。自分が増え続けると言うのは非常に好ましく、世界平和に大いに貢献する事である。協力者であり、彼女の『上司』のような立場である魔王もそれを推奨している節がある。ただ、もしこのままの状態で増え続けると――。


「何?部屋が足りない」

「うん、今のペースだと……」「そのうちパンクするんじゃないかって思って……」「うん……」



 不安そうなレインからの質問に対し、魔王からの答えは非常にあっさりしたものだった。部屋の大きさぐらい、『魔術』を使えばで何とかなるだろう、と。

 実は、ずっとレインはあれらの部屋は『魔王』が完全に制御しているものだとばかり信じていた。何せあそこは自分が最初に閉じ込められていた牢獄のような場所、自室や住居の大きさやを変更する事は一切許されないと勘違いしていたのである。


「なんだ……」「良かった……」「ほっとしたね♪」「うん♪」



 自分の心配が杞憂だった事に安心した160000人のレインに、突如魔王は重要な告知をした。間もなく、第二の『侵略』、そして『征服』を行う、と。そして今回は『剣』を一切使う事無く、人間たちの住む穢れた場所を自らの手中に収める、とも。


 再びレインの顔に、不安の色が見え始めた。女剣士の最大の武器であるはずの『剣』を使わずに、どうやって町を手に入れる事が出来るのか、と。残されたのは魔術だけになってしまうのだが、一体どのような作戦を魔王は考えているのだろうか、と。だが、魔王から返ってきた返事は――。


「作戦はその時に説明する。それまで、各自鍛錬に取り組んでおけ」




 唖然とした160000人ものレインたちを放置し、黒い衣装の魔王はどこかへと消え去っていった。


 ただ、そのあっさりとした、悪く言うと冷たい態度が、逆にレイン全員の心に大きな炎を燃やさせた。そこまで上から目線で物事を言うのならば、自らの魔術をもっと高めて、魔王をぎゃふんと言わせてやろう、と。


「そうだよねー」「あんな態度取られちゃ」「こっちだってねー」「頑張らないと!」


「おー!」おー!」おー!」おー!」おー!」おー!」おー!」おー!」おー!」おー!」おー!」おー!」おー!」おー!」おー!」おー!」おー!」おー!」おー!」おー!」おー!」おー!」おー!」おー!」おー!」おー!」おー!」おー!」おー!」おー!」おー!」おー!」おー!」おー!」おー!」おー!」おー!」おー!」おー!」おー!」おー!」おー!」おー!」おー!」おー!」おー!」おー!」おー!」おー!」おー!」おー!」おー!」おー!」おー!」おー!」おー!」おー!」おー!」おー!」おー!」おー!」おー!」おー!」おー!」おー!」おー!」おー!」おー!」おー!」おー!」おー!」おー!」おー!」おー!」おー!」おー!」おー!」おー!」おー!」おー!」おー!」おー!」おー!」おー!」おー!」おー!」おー!」おー!」おー!」おー!」おー!」おー!」おー!」おー!」おー!」おー!」おー!」おー!」おー!」おー!」おー!」おー!」おー!」おー!」おー!」おー!」おー!」おー!」おー!」おー!」おー!」おー!」おー!」おー!」おー!」おー!」おー!」おー!」おー!」おー!」おー!」おー!」……


 自信満々に胸を反らした160000人の彼女たちに呼応するかのように、ビキニ衣装に包まれた大きな胸が一斉に震えた……。

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