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代表者、集結

 魔王対ゴンノー、『魔物』対ダミーレインの間で繰り広げられていた長い戦いは、ようやく終焉を迎えた。世界各地で勝利を祝う宴が開かれ、多くの人々はこれから未来永劫続くであろう平和と快楽、どんな欲望も叶うであろう未来に酔いしれるかのようにたっぷり酒を飲み、暴食の限りを尽くした。

 そして、人々はその嬉しい感情を胸に、ぐっすりと眠りについた。今日一日ずっと抱え続けていた不安や恐怖が払われた事への安心感が、彼らを夢の世界へといざなったのかもしれない。その周りを覆いつくす、純白のビキニ衣装で立ち続ける『レイン・シュドー』たちに、自分たちの生活の全てを託すかのように。


 やがて、幾つもの星々が輝き続けていた夜の空が、黒い『煙』のような何かに覆われ始めた。雲のようにも、霧のようにも見えるその何かは、夜空をあっという間に漆黒に染めるだけでは飽き足らず、あちこちの町や村の建物の周りを包み込み始めた。何も視界に入らず、音も聞こえない空間が、世界中で広がり始めたのである。だが、その事に気づいて起き上がる者もいなければ、異常事態を察知して人々を叩き起こそうとするレインもいなかった。


 あちこちの町や村に存在していた命が、全てが漆黒の元に還り、そして新たな生を成すまで、そんなに時間は要らなかった。


~~~~~~~~~~


 翌日、世界中で同じ朝日が昇る時には、その黒い何かは既に姿を消していた。あちこちでぐっすりと眠りについていた命は、その心地よい日差しを受けながらゆっくりと目覚める事が出来た。

 昨日までのバカ騒ぎとは打って変わって、世界各地の町や村は静かな、そして穏やかな表情を見せていた。まるで長い悪夢から覚め、真の平和を手に入れたかのように、起き上がる人々は揃って安心したような笑顔を見せ、互いにその勝利を喜び合った。やがて、その中の一部が、他の面々に見送られながら次々にとある場所へと向かい始めた。世界で最も大きな都市にある、世界各地の代表者たちが集まる場所――『会議場』である。


 確かに昨日の激闘の結果、無数の『レイン』たちの手により、世界を脅かしていた恐ろしい脅威が打ち砕かれ、世界が真の平和により近づくことが出来た。しかし、勝利を勝ち取ったとはいえ、ここでその余韻に浸りすぎて堕落しすぎては、今後の自分たちの行動に大きな支障が出かねない。そう考えた世界各地の町や村の面々は、改めて今後に向けて気合を入れなおすため、これまでの経緯を振り返り今後の在り方を話し合う会議が開く事に決めた、という訳である。


 太陽がすっかり空に昇った頃、そんな会議場に少しづつ人影が現れ始めた。世界のあらゆる町や村からはるばるこの場所にやって来た『代表者』たちである。


「おはよう……ふわぁ……」

「おはよう、あまり眠れなかった?」

「えへへ、つい……♪」


 会議が始まるまでにはまだ時間があるが、それでも今回の開催を待ちきれず早めににこの場所にやって来る代表者も少なからずいた。その面々は、仲間を見つけにこやかに会話を交わしながら、自分たちの席を見つけ、心地良い柔らかさの椅子に座り開始時間までゆっくりのんびり待つという選択肢を取った。

 時間がたつにつれ、次第に代表者はその数を増していった。1人、また1人と現れるにつれ、会議場は次第に混雑してきた。整った体つきを別の『代表者』へと見せつけるように歩く面々は、次々に自分の場所を見つけてはそこに座っていった。席が足りなくなった代表者も、手から放つ『漆黒のオーラ』を利用して新たな椅子、新たな場所を創り出し、そこにのんびりと座って全員が揃うのを待つことにした。

 

 やがて、時間を経るごとに代表者たちは次々とこの場所に到着した。1人、2人、10人、100人――その桁はどんどん膨れ上がり、気づけば世界中からまるでまるで濁流のように押し寄せ始めたのである。

 あまりの数で会議場へ向かう廊下がぎゅう詰めになろうとも、部屋の中が自分たちの肉体で覆いつくされようとも、代表者たちは関係なくその数を増やし続けた。それどころか、この場にいる全員がこの『楽園』のような状況を楽しむ表情を見せ続けていた。


「ふふふ……♪」ふふふ……♪」ふふふ……♪」ふふふ……♪」…


 1人の代表者がそんな現状への幸福感から微笑むと、それは他の代表者にもまるで伝染するように広がっていった。あっという間に広がった笑い声は、溢れ続ける肉体に覆われた会議場のみならず、その外側へも延々と続いていた。


ふふふ……♪」ふふふ……♪」ふふふ……♪」ふふふ……♪」ふふふ……♪」ふふふ……♪」ふふふ……♪」ふふふ……♪」ふふふ……♪」ふふふ……♪」ふふふ……♪」ふふふ……♪」ふふふ……♪」ふふふ……♪」ふふふ……♪」ふふふ……♪」ふふふ……♪」ふふふ……♪」ふふふ……♪」ふふふ……♪」ふふふ……♪」ふふふ……♪」ふふふ……♪」ふふふ……♪」ふふふ……♪」ふふふ……♪」ふふふ……♪」ふふふ……♪」ふふふ……♪」ふふふ……♪」ふふふ……♪」ふふふ……♪」ふふふ……♪」ふふふ……♪」ふふふ……♪」ふふふ……♪」ふふふ……♪」ふふふ……♪」ふふふ……♪」ふふふ……♪」ふふふ……♪」ふふふ……♪」ふふふ……♪」…


 そして、世界最大級の建物は、内外共々『代表者』の大群でびっしりと覆われた。その美しい外壁や内装を、より美しい自分たちの肉体で埋めるかのように埋め尽くし続けた結果、建物は黒、白、肌色の3色のみが見える状態に成り果てていった。だが、誰もその状況に対して違和感も嫌悪感も、恐怖も抱く事は無かった。皆揃って、この異様な光景を待ち望んでいたのである。

 やがて、数限りなく増える『代表者』たちは、自らの空間を確保するために会議場やこの町そのものの空間を歪ませ始めた。周りの空間を複製し無理やりねじ込ませると言う手法であっという間に押し広げられた空間は、建物の中にもかかわらず地平線が見えてしまいそうなほどにまで拡大していた。そして、広げられたその空間をさらに埋め尽くすかのように、『代表者』たちはさらに数を増やしていった。その数が数千億人に達するまで、彼らは世界中から押し寄せ続けたのである。


 全ての代表者たちがぞろぞろと椅子に座り、無限に広がるすり鉢のような会議場内部を覆った所で、ようやく辺りに落ち着きが戻って来た。どの代表者たちも皆一様に笑顔を見せ、前後左右にいる他の面々の表情を見ながら互いに顔を赤らめていた。まるで、この状況を長い間ずっと待っていたかのように。

 それからしばらく経った後、超巨大なすり鉢の中央に、周りを取り囲む大量の『代表者』と同じ姿形をした女性がゆっくりと歩いてきた。その優雅な足音を聞いた代表者は一斉に立ち上がり、その方向に視線を注いだ。


 そして――。


「……それじゃ、『会議』始めようか、レイン♪」


「うん!」うん!」うん!」うん!」うん!」うん!」うん!」うん!」うん!」うん!」うん!」うん!」うん!」うん!」うん!」うん!」うん!」うん!」うん!」うん!」うん!」うん!」うん!」うん!」うん!」うん!」うん!」うん!」うん!」うん!」うん!」うん!」うん!」うん!」うん!」うん!」うん!」うん!」うん!」うん!」うん!」うん!」うん!」うん!」うん!」うん!」うん!」うん!」うん!」うん!」うん!」うん!」うん!」うん!」うん!」うん!」うん!」うん!」うん!」うん!」うん!」うん!」うん!」うん!」うん!」うん!」…


 心底嬉しそうな何千億もの声を合図に、一夜にして世界にある大半の村や町を手に入れた、レイン・シュドーたちによる会議が幕を開いた……。

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