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レイン対キリカ(1)

「たあああっ!!」

「ふんっ……はあっ!」


 命の痕跡が一切見当たらない異様な荒地の中で、2つの命が激闘を繰り広げ続けていた。誰にも見守られず、誰からも応援される事も無いままで。


 白銀に光る剣を手に持つビキニ衣装の女性、レイン・シュドーが目の前にいる存在を一刀両断せんと襲い掛かれば、対する長髪の女性、キリカ・シューダリアは掌から様々な色が混ざったオーラを板状に張り巡らせてそれを受け止め、相手の動きが止まった隙にこちらから攻撃を行い、レインもそれに対抗するかのように自らの剣を盾代わりにしたり素早い身のこなしで避けたりして自らへの被害を防ぐ――叫び声と打撃音が響き続ける中、戦況はほぼ互角のようであった。


 ずっと昔は様々な思いを抱えつつ共闘していた両者がこのような形で自らの力を見せ付ける事になるのは、これが最初で最後であった。一緒に魔物相手に戦っていたときには分からなかったそれぞれの強さをまるで確認し続けるかのように、レインもキリカも様々な技を繰り出していた。縦から一直線にレインがキリカを切り裂こうとすればキリカもそれと同じ筋を辿るかのように攻撃用のオーラを放ち――。


「はっ!!」

「……!!」


 ――キリカが掌を地面に付けて攻撃に用いるオーラを一気に流し込み、下からレイン・シュドーという存在を消し去ろうとすれば、レインもそれを事前に察知して地面を蹴り上げ、傷一つ負うことなく攻撃を避ける――どちらとも決定的なダメージを与えていない状況の中、彼女達は一旦攻撃の手を緩めた。


「腕は鈍っていないようね、キリカ」

「……そちらもだ、レイン・シュドー……」


 息を切らしながら語りつつも決して油断はせず、いつでも相手の一生をこの荒野で終わらせる事が出来る事を示すかのごとく、彼女達は互いの剣や杖を向け合い続けた。双方とも、その顔はどこか嬉しそうな表情であった。特にキリカは、それまでたまりに溜まっていた鬱憤を、ここで思う存分晴らすことが出来る喜びを隠さずレインに見せ付けているようであった。


 そして、再びキリカは杖を片手に攻撃用のオーラを放った。先程までと同じように避けようとするレインであったが、球体に固まったオーラは彼女の動きを的確に捉え、脇腹を貫かんと追撃を続行した。かつて魔物の急所を的確に狙うために放った魔術を、キリカはかつての仲間に向けて放ったのである。とは言え、キリカ自身はレインの命をここで終わらせると言う決意と共に、この魔術をレインがどう退けるかをじっくり観察したい、と言う思いもあった。冷静沈着さを前面に押し出す彼女は、物事を落ち着いて見つめる心を必ず持つよう心がけていたのである。


 そして、その内なる期待に応えるかの如く――。


「……!」



 ――レイン・シュドーはオーラの球を剣ではなく自らの掌で受け止め、遥か空の彼方へと弾き飛ばした。勇者だった頃の彼女が苦手としていた『魔術』の力を用いて。 

 そして、キリカはレインの掌に残る痕跡を見て、一瞬驚いたような素振りを見せた。


「『漆黒のオーラ』か……どこまでも堕ちたものだな」

「当然よ。私はもう『勇者』じゃないから」


 あの憎たらしき魔物軍師が告げ口した通り、愚直なほどに正義を追い続けていたあのレイン・シュドーは、魔王が用いると言う漆黒のオーラを、まるで使い慣れているかのように繰り出していた――ダミーレインのお陰で嫌と言うほど見せられていた光景だが、改めて『本物』のレインによってその事実が突きつけられれば、流石のキリカもある程度の衝撃を感じずにはいられなかった。だが、それ以上に彼女の心にはある不満が湧き上がっていた。それほどの力があるのなら、何故先程までずっと自分相手に使わなかったのか、と。しかし、その思いを彼女が口に出す事は無かった。



「……いくぞ、レイン」

「ええ」



 その力も惜しげもなく使って戦え――無言で訴えるかのようなキリカのメッセージを受け取ったレインは、得意の剣術と並行して『漆黒のオーラ』も駆使し始めた。かつての魔術の勇者に対し、彼女もまた距離を置いてから攻撃用のオーラを放ったり、剣にオーラをまとって切れ味を良くしたり、自らがこの力を自在に使いこなせている事をアピールするような動きを取り始めたのである。だが当然キリカも押されてばかりではなかった。一旦杖をしまった上で細い腕や脚に大量のオーラを纏わせ、普段の筋力の何十何百倍もの力を出せるようにした上でレインに接近戦を挑んできたのだ。



「はっ!ほっ!はああっ!!」

「ぐっ……!」


 その攻撃をレインが避ければ、荒地に凄まじい力で陥没した跡が次々に増えていく。だが、それでもキリカの攻撃は大単位に露出したビキニ衣装の美女に傷を負わせることが出来ないままだった。一方レインも軽い身のこなしで攻撃をかわしながら、自らもどす黒いオーラを放ち、キリカの胸を貫こうとした。だがこちらもオーラによって強化されたキリカの腕に退けられ、傷一つ負わせられない結果となった。

 一進一退、どちらも決定打を見出す事ができないような戦いが続いていたが、その中でもキリカは先程抱いた不満が心からどうしても消えなかった。確かに目の前のレインは昔の通りの愚直さで真剣勝負を挑もうとしているように見えた。だが、その割にはこの漆黒のオーラのような隠し玉を有していたり、自らの攻撃に対して苦悩の色も一切見せずに避けたり受け止めたりし続けているように、キリカは感じたのである。そして――。



「……はあああっ!!」



 ――そんなはずはない、と自らの心に抱いた疑念を消し去るかのように、キリカは腕や足に纏っていたオーラを再び取り出した杖の表面に覆わせ、そこから一気に矢のような形をしたオーラを大量に放った。かつて彼女が勇者だった頃、この技を浴びた魔物はよほどの硬さが無い限りは木っ端微塵に粉砕され、仮初の命を呆気なく失っていた。その一撃必殺に等しい技を、キリカはこの段階で使用したのである。

 そこには、彼女なりの意地があった。日々鍛錬を重ねた結果、現在のキリカはこの大技を何度も繰り出せることが出来るほどに魔術の腕を上げていたのである。しかし、心の奥底で彼女が求めていたのは、レイン・シュドーの体に大量の大穴を空け、彼女の生涯をこの荒野で終わらせる事ではなかった。



「……ふっ」


 立ち上る砂煙の中で動く女性の影を見たキリカは、そっと笑みを浮かべた。例え自分がこれだけの力を持っていたとしても、恐らく現在のレインなら片手だけで退けられる、と彼女は予想していたのである。間違いなく、レインはここで自分の攻撃を呆気なく防いだ上でそれ以上の力で反撃をしてくるだろう――そう彼女は読んでいた。

 だが、そこから現れたのは――。


「……!」

「……なかなかやるわね……キリカ」


 ――巻き上げられた砂を払いのけつつ、肩で息をしながらどことなく苦しそうな笑顔を見せる、レイン・シュドーの姿だった。

 まるで自分の健闘を称えるかのようなその言葉を聞いたキリカは、より高まった不満を表情に見せ始めた。レインを睨みつけ歯を食いしばりながら、彼女は再び魔術を駆使した攻撃を仕掛けてきた。まるで全身を魔術の砲台にするかの如く、手足は勿論体のあちこちから攻撃用のオーラを放ってきたのである。これまでレインも含めて誰にも見せた事が無い、キリカ・シューダリアの技だった。

 

 一瞬だけ驚きの表情を見せたレインだが、すぐに全身を漆黒のオーラで包み込み、迫り来る無数の『砲弾』を受け止めた。最低限の数に留めるため素早く体を動かしてキリカから距離を取ろうとするも、彼女から放たれる大量のオーラの球は的確にレインの方向に飛び続け、彼女の体に今度こそ大穴を開けんと狙い続けていた。ごく普通の魔術師ならば、これほどの攻撃を何度も何度も受け続ければやがて耐えられなくなり、命を落とす事になるだろう。だが、レイン・シュドーがそのような事になるはずは無い、とキリカは考え、そして自分の予想通りに彼女が行動する事を願い続けていた。この怒涛の攻撃を超える力で反撃をしてくる事を。

 

 そして――。



「……はあああっ!!」



 ――叫び声と共に、レインの体から大量のオーラが噴出した。キリカは瞬時にオーラを全身に纏い、逆に自分自身に迫ってくる攻撃を何とか防御する事が出来た。だが、彼女はそのことに安堵するどころか、ますます不満を募らせた。確かにこうやってレインが自分の攻撃を退けると言うのは予想通りの展開だったのだが、その反撃に用いた『オーラ』の種類が、彼女の心をより蝕んだのである。

 元魔術の勇者、キリカ・シューダリアが唯一完全に使いこなす事ができなかった『光のオーラ』、それも凄まじい量のオーラを、レインは軽々と使用していたのだから。


「くっ……」

「……キリカ……貴方……」


 再びレインが慰めの言葉をかけようとした瞬間、キリカはつい自分が抱えていた心を口に出してしまった。

 これ以上何も言うな――その一言でレインの身動きが止まっても、キリカは攻撃に出る事は無かった。一瞬愕然とした表情を作ってしまった彼女だが、最早後には引けないと覚悟を決め、レインを睨みつけながら声を発した。


「何故だ……何故お前は……!!」

「……」



 そして、彼女はついに自らの心の内を、大声で叫んだ。



 何故、手加減なしで戦おうとしないのか、何故自分の命を奪おうとしないのか、と……。 

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